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2017/12/13 2017:12:13:09:30:44

元団員が語る、ハンブルク・バレエ団"最強"のひみつ~ブラウリオ・アルバレス インタビュー


small_small_trim_IMG_6166.jpg 2年前までハンブルク・バレエ団に在籍してジョン・ノイマイヤーの37の作品に出演、現在は東京バレエ団のソリストとして活躍するブラウリオ・アルバレスに、古巣の稽古場の雰囲気やリハーサルの様子についてインタビュー。バレエファンから熱狂的に支持される「ハンブルク・バレエ団」最強の秘密を探ってみました。


ハンブルクの稽古場にいると、「踊りに、ジョンに身体も魂も全て捧げる」という気持ちになる

── まずはブラウリオさんが、ハンブルク・バレエ学校を経て、ハンブルク・バレエ団に入団された経緯をお聞かせください。

 ローザンヌ国際バレエコンクールに出場したとき、オファーをくれたいくつかの学校のうちのひとつがハンブルクでした。行くことを決めた理由は、男性ダンサーにとって学べることが多い学校だというアドバイスを色々な先生からもらったことと、当時の校長に誘われて観に行ったハンブルク・バレエ団の『椿姫』がとても好きだったこと。僕はラッキーで、学校時代から週に2~3回はジョン・ノイマイヤーに練習を見てもらう機会がありましたし、卒業後もすぐに、研修生ではなくコール・ド・バレエとして入団することができました。

── ハンブルク・バレエ団のリハーサルは、どのような内容・雰囲気なのでしょうか。

 バレエマスターと練習を重ねたあと、本番の1~2日前になるとジョンが加わります。テクニック的な指導をするのは主にバレエマスターで、ジョンは「なぜそう動くのか」「ここではこう感じて」といった注意をしたり、ダンサーに合わせてステップを少し変えたり。ジョンはすごく厳しい人だから、ダンサーは常に120パーセントの力で踊らないといけません。でもみんな、それが好きでハンブルクにいる...というか、あそこにいると自然と「踊りに、ジョンに身体も魂も全て捧げる」という気持ちになるんです。ハンブルクのダンサーは、みんなジョンと"結婚"しているような感じ(笑)。どんなに疲れていても、踊り出すとどこからかエネルギーが沸いてくるのを僕も感じていました。



ジョンの作品では、役を演じるのではなく、役に完璧に"なる"ことが求められる

── 今回上演される『椿姫』のリハーサルで、特に印象に残っているのはどんなことですか?

 ジョンのバレエはどれも、役を"演じる"のではなく、役に完璧に"なる"ことができないと踊れません。振付は言語であって、ダンサーがそこにエモーションを入れないとバレエは完成しない、というのがジョンの考えだからです。マルグリット役のダンサーに対しても、ジョンが求めていたのはいつもエモーション。例えば1幕に、彼女が自分が老けたかもしれないと心配して鏡を見るシーンがありますが、どのダンサーも表情や手つきについて細かい注意を受けていました。そうした注意は全ての役にあって、僕もオークション・シーンに出演する役をもらったとき、「本の落とし方と拾い方がフェイクに見える」と言われて、何回もそこだけ繰り返したことをよく覚えています。

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「ニジンスキー」より photo:Kiran West



── では、『ニジンスキー』で印象深いことは?

 2幕の男性群舞は、練習から常に300パーセントで踊るようにと言われたこと(笑)。そんなに長いシーンではないですが、終わるとみんな息ができないくらい疲れています。でも一番しんどいのはやっぱり、狂気に陥ってしまう人に"なる"ことが求められる、ニジンスキー役のダンサーですよね。今回の日本公演で踊るアレクサンドル・トルーシュとは仲がいいので、彼が初めて踊ったあとに連絡を取って「どうだった?」と聞いたのですが、「楽しかったけど苦しかった」と。本当に、命懸けじゃないと踊れない役だと思います。

── 何度も出演してきた作品を、今回は観客の立場でご覧になることになります。どんな期待がありますか?

 『椿姫』は16歳のとき以来、『ニジンスキー』は初めて観るので、まずは僕自身がとても楽しみにしています。僕は振付にも興味があって、ジョンに全てを捧げるハンブルクにいるとその時間が取れないので退団することにしましたが、それはジョンも分かってくれていて、今も手紙のやり取りが続いています。だから、ジョンと会えるのも本当に楽しみ。
 それと、ジョンのバレエのなかでも『椿姫』と『ニジンスキー』は特に、誰が観てもドラマに引き込まれる作品だと思います。バレエは退屈だと思っている人でも楽しめると思うし、ガラ公演の「ジョン・ノイマイヤーの世界」も、ジョン自身の語りが入るからノイマイヤー初心者にも分かりやすいはず。今回の公演で、生きていながら"伝説の人"でもあるジョンのことを、もっとたくさんの人に知ってもらえるといいなと思っています。

取材・文/町田麻子(ライター)




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