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2018/01/31 2018:01:31:18:05:50

ノイマイヤー、「ニジンスキー」を語る【後編】
 今回の日本公演で上演される『ニジンスキー』は、振付家・ジョン・ノイマイヤーを代表する傑作です。彼がいかにしてニジンスキーに惹かれ、敬愛するようになったのか──。初演に寄せて執筆されたノイマイヤーの回想文には、その答えが明確に記されています。

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 少年時代からニジンスキーへの思いを募らせていったノイマイヤーは、ある時、ニジンスキーの妻・ロモラが編んだ、ニジンスキーの日記を読み、ますますその「ニジンスキー・スパイラル」を深化させていったといいます。

 

この日記は私に深い感銘を与えました。私はますます彼に引き寄せられていったのです。そうこうするうちに、私はダンサーとしての教育の最終段階にいました。ロンドンの英国ロイヤル・バレエ学校の生徒で、ミルウォーキーではまだ、自分の手が到底届かないほど遠く、なじみのない世界に見えた、あの踊りの世界の一部になるように、どうしても努力しなければならないのだ、ということがわかっていました。

そのような時私は──世界の奇跡のダンサーといわれた男の、もっとも深い内面を何が動かしたのか、何が彼の魂に重くのしかかったのか、を読み、第一次世界大戦に直面して心の平衡を失っていくニジンスキーを感じ取り、彼にとって人生とは精神的でスピリチュアルなものであったことを理解したのです。

 

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 その後、振付家としてのキャリアを着実に重ねていったノイマイヤーは、ジョージ・バランシンとともに米国でニューヨーク・シティ・バレエ団を創設したアメリカ・バレエ界の大立者、リンカーン・カースティンと出会い、ニジンスキーの振付家としての才能に、さらに気付かされるのです。

 

カースティンいわく、ニジンスキーは、ダンサーとしてよりもむしろ振付家として重要なのであり、そのことを彼は非常にしっかりとかつ明確に根拠づけました。実際、近代振付への道を開いたのはニジンスキーであり、なぜならば、彼はすべてのバレエ作品を、最初から最後まで一貫して作曲された全体像として理解していたからだということ。そしてそのためには完全に一貫した独自の表現方法を創作することが肝要であり、それまでの考え方であった、踊りのきっかけとしての、一種の筋書きが必要であるという考え方を、ニジンスキーが覆したからだ、ということでした。

 

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 スターダンサーとしての魅力とは全く関係なく、振付家として「独自のヴィジョン」を発展させたことこそが、ノイマイヤーにとって、ニジンスキーが特別な存在である理由なのだとも。

 彼はまた、ニジンスキーに関する美術品、文書などの熱心なコレクターとしても知られています。すでに相当数を集めていた書籍をはじめ、大規模なオークションを通して収集した品々に、ノイマイヤーは、ニジンスキーの真のイメージを求めていきました。

 

ニジンスキーに関する収集に私はすぐに情熱を注ぐようになりました。新たに目にするどのような作品も、このような紙面にも、別のニュアンスが見えてきて、ニジンスキーの別の側面が現れるのです。次に興味が湧いてきたのは、ニジンスキーの時代の造形芸術家たちは、彼をどのように見ていたのか、ということでした。芸術史的に見ればニジンスキーは、アール・ヌーヴォーからアール・デコを経て、近代にいたる橋渡しをしています。大多数の造形芸術家たちは引き続いて装飾的な表現方法を用いています。ロバート・モンテネグロまたはドロシー・ムロクの『ラ・シルフィード』の描写が一例です。私がオリジナル作品を多数所有する、ジョルジュ・バルビエの真に素晴らしい水彩画においてさえ、ことニジンスキー自身の振付を表すことについては、この非常に愛らしいアール・ヌーヴォー様式の限界を感じます。

 

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 ノイマイヤーの中では、こうして徐々に、ニジンスキーの新たなイメージが形づくられていったのでした。
 ノイマイヤーが自身とニジンスキーとの出会い、関わりについて述べた記事(原題:Etappen einer Annäherung Eine Faszination und ihre Facetten)は、ハンブルク・バレエ団2018年日本公演の会場で販売する公演プログラムに、翻訳の全文を掲載予定です。