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2013/10/10 2013:10:10:16:15:47

マッツ・エック振付「カルメン」 振付指導 ポンペア・サントロ、ラフィ・サディ インタビュー(2)

 シルヴィ・ギエムが篤い信頼を寄せる振付家マッツ・エック。日本の舞台でも『アジュー』『ウェット・ウーマン』を始めとするエック作品を踊ってきたギエムが、〈シルヴィ・ギエム オンステージ2013〉でエック版『カルメン』を披露する。11年前、英国ロイヤル・バレエ団との共演で初めて彼女が同作を踊った際、ポンペア・サントロが振付指導をした。

ポンペア「リハーサル開始前、世界的スターであるシルヴィとどう接すればいいのか分からず、実は不安でした。ところが稽古場に足を踏み入れたら、私の懸念は吹き飛んでしまった。彼女は一人のアーティストとして、私の経験と知識を真摯に吸収してくれました」

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シルヴィ・ギエム(photo:Dee Conway)

 エックいわく、カルメンは貧しいながらも労働者として自活、あばずれで泥棒も働くが、愛する相手を自ら選ぶ意思を持った女性。エック版カルメンに、"男を惑わす情熱的な魔性の女"といった既成のイメージは当てはまらない。
ポンペア「シルヴィの素晴らしい身体能力や女らしさ、どこか超然とした雰囲気は、マッツが描くカルメンにぴったりだと思いました。といっても、これは10年以上前のこと。その後のシルヴィの生き方を反映した、新たなカルメン像が誕生するのではないかしら」

 ポンペアともう一人の振付指導者ラフィ・サディから振付を伝授された柄本弾と高木綾はスウェーデンに飛び、エックと共に『カルメン』にさらなる磨きをかける。必要だと思えば、エックは演出を微調整するのという。

サディ「全ては、ドラマを完璧に語るためです。ただ物語を説明するのではなく、ムーヴメントを通してドラマを語り上げ、次元の異なる幾つもの世界を同時に存在させる。マッツという振付家は、卓越したストーリーテラーなのです。舞台の上に、ドラマと無関係なものは存在しません。『カルメン』で用いられる大きなボールは、ダンサーが踏み上がる足場であるだけでなく、ホセの命を奪う銃弾、スペインの女性が手にする扇の留め具の象徴でもあります」

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ポンペア・サントロと柄本弾


ポンペア「登場人物のキャラクターも複雑で多面的です。私が実際にカルメンを演じた時には、彼女は意思の強さのなかに脆さを持っていると感じました。女性ソリストのMは、 母、ホセの婚約者ミカエラ、死の象徴。舞台で踊りながら、その役が持っている様々な顔を同時に見せなくてはならない。観客の皆さんには、固定観念にしばられることなく、この舞台を見て頂きたいと思います」
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取材・文:上野房子(ダンス評論家)