2012/07/04 2012:07:04:10:54:02[NBS最新情報]
6月のシュツットガルト・バレエ団東京公演の最終日に、〈サプライズ〉が起きた。主演予定だったダンサーが負傷のため降板せざるを得なくなり、 エヴァン・マッキーが「白鳥の湖」のジークフリート王子の代役に起用されたのだ。開幕前に芸術監督リード・アンダーソンが壇上に現れて観客にキャスト変更の事情を説明、「私たちのフレッシュなダンサーを堪能していただけますように」とスピーチを締めくくった。その言葉にたがうことなく、身長190センチの貴公子マッキーは、当夜の舞台をエレガントな空気で満たしてくれた。
---マッキーさんは、文字通り、貴公子らしい雰囲気を持ったダンサーです。カナダ、アメリカ、ドイツで受けたトレーニングの賜物なのでしょうか。
マッキー:トロントのナショナル・バレエ・スクールを経て、14歳の時にワシントンD.C.のキーロフ・アカデミーに入学しました。すでに身長が190センチ位あって、いつもクラスで一番の長身。体をコントロールするために、人一倍、努力しなくてはなりませんでした。15歳でクランコ・スクールに編入し、モスクワ・バレエ学校の教師だったピョートル・ペストフから、足と腕の細やかな動きを厳しく教わりました。様々な音色を奏でるオーケストラのように全身を鍛え上げるロシア・スタイルは、私の踊りの基盤になっています。
----ジョン・クランコ・バレエ学校は、シュツットガルト・バレエ団の付属学校です。カリキュラムの特徴は?
マッキー:実技から一般の学課まで授業の内容が多彩で、プロダンサーになるための最高の準備をすることができました。コンテンポラリーのレッスンも充実していました。もちろんスクールの第一の使命は、クランコの伝統を受け継ぐダンサーを育てること。彼の作品で多用されるデュエットの勉強にも励みました。
----ドラマチックなクランコ作品のデュエットは、物語の鍵を握る重要な場面です。
マッキー:彼が振り付けたデュエットには、二人の人間の複雑な関係や感情が凝縮されているので、振付も複雑で、体力も要求される。けれども、物語を理解し、十分にリハーサルを重ねてパートナーと信頼関係を築いて舞台に臨めば、すべてを自然に踊ることができます。
----9月には、東京バレエ団でクランコ作品「オネーギン」に客演されます。
マッキー:シュツットガルト・バレエ団の十八番であるだけでなく、私が生まれて初めて見たバレエなので、思い入れの深い作品です。踊る毎にプーシキンの原作を読み直し、物語の新たな側面に気づかされます。オネーギンは 共感しにくい役柄かもしれませんが、一途にジュリエットを愛するロミオとは全く違う、悲喜こもごもを経験した人物です。幕切れのデュエットで、そんな彼の複雑な内面を一気に噴出させることを心がけています。クランコ作品の醍醐味は、踊ることと演じることの融合にあるのですから。
----パリ・オペラ座バレエ団の「オネーギン」にも客演、オレリー・デュポンと共演されたそうですね。
マッキー:ニコラ・ル・リッシュが負傷して踊れなくなったため、オペラ座側から連絡があり、私が客演することになりました。オレリーと踊るのは初めてで、おまけに急な要請だったのですが、稽古場で彼女と会った瞬間、すべてがうまくいくと直感しました。実際、彼女が何を考えているのか、次に何をしようとしているのか、私は明確に感じとることができ、ごく自然にオレリーに反応できた。オレリーもごく自然に私の演技に応えてくれた。マジカルな経験でした。ただ・・・。
----ただ・・・?
マッキー:初回のリハーサルで初めて彼女をリフトした時、オレリーが「キャー!」って叫んだんです。彼女が共演してきたオペラ座のエトワール達よりも私は長身なので、リフトがいちだんと高くなり、びっくりしたそうです。まるで自由の女神像になったみたいだ、と言っていました(笑)。パートナー冥利につきますね。オレリー自身が感じた高揚感を、観客にも感じてもらえるのですから。
----東京バレエ団公演では、吉岡美佳さんとの初共演が実現します。
マッキー:演技力の豊かなバレリーナだと聞いているので、共演が楽しみです。「オネーギン」の場合、タチヤーナが重要な選択して物語を押し進めていきます。手紙を書き、自分の心情をオネーギンに伝える。再会した彼との別離を決断する、というように。美佳さんが自由に演じられるように、ベストを尽くします。
----マッキーさんは、振付作品を発表したり、ダンス誌に執筆したり、写真展を開催するなど、様々な活動に取り組まれています。
マッキー:自分の関心事を踊ることに限定せず、振付、文章、写真を通して自分の思いを表現したい、という欲求を持っています。クリエーションの楽しさと難しさの両面を自分自身で経験し、バレエ団で創作に関わる際、より大きな責任を感じるようになりました。