What's NewNews List

2013/12/04 2013:12:04:10:11:46

柄本弾(東京バレエ団)が歌舞伎俳優の坂東玉三郎さんに聞いた、 ベジャールのこと、「ザ・カブキ」のこと
13-12.03_05.jpg 振付家モーリス・ベジャールとは30年以上の交流があり、一緒にデュエット作『コーデリアの死』(〈パ・ド・ドゥの芸術〉)も踊った、歌舞伎俳優の坂東玉三郎さん。ベジャールが東京バレエ団に振付けた『ザ・カブキ』も、初演から観ていて、一昨年の花柳壽輔さんの会でも一部だけだが改めて観て、「きれいでしたね」という感想を口にしていた。そんな玉三郎さんに、12月14日の『ザ・カブキ』で由良之助を踊る柄本弾が話を聞くという、夢のような顔合わせが実現した。

 玉三郎さんが鼓童と共に『アマテラス』を上演中の京都まで出向く新幹線の中でも、緊張した面持ちだった柄本。だが、玉三郎さんの細やかな心遣いに安心し、持ち前の舞台度胸もあってか、堂々と自分の聞きたいことを質問する姿が印象的だった。

 例えばベジャールという人物について。「自分は生前のベジャールさんとお会いしたことがないのですが、玉三郎さんからご覧になって、ベジャールさんという方はどんな方でしたか?」との質問に対しては、「いろいろな意味で"濃い"方でしたね」という深い言葉が玉三郎さんの答。「もちろん情も濃かったけれども、私が初めてベジャールさんにお会いした1977、78年頃はまるでブルドーザーのように自分の求めるものをグワッと掘り起こしていくイメージだったのが、年齢と共に次第にベジャール・バレエ団の団員たちが"お父さんのようだ"と言うような、優しくその人のいいところを引き出して作品をより濃いものにしていった。そんなベジャールさんと親しくさせていただいたのは、私の宝物です」。


13-12.03_04.jpg
 『ザ・カブキ』の創作でベジャールが悩んでいた時、奇しくも歌舞伎座で、原作である「『仮名手本忠臣蔵』のおかるを演じていた」という玉三郎さんに、柄本が尋ねたのは「僕は討ち入りのシーンがやっぱり一番好きで、他の作品では味わえない達成感、高揚感みたいなものを感じるのですが、玉三郎さんが『忠臣蔵』でお好きなシーン、見どころはどこですか?」なる質問。これに対しての玉三郎さんの答は、長年『忠臣蔵』という作品に深く関わってきた方ならではのものだった。「『忠臣蔵』は、物語の発端があって、松の廊下、切腹とストーリーが進んでいきますが、あとは周りの人間の話、言わば外伝、外伝なんですね。それがある瞬間、フッと『忠臣蔵』のドラマに戻っていく。そこがやはり素敵だなと思います」。

13-12.04_03.jpg
 この後、『ザ・カブキ』でも採り入れられている"手鏡を使って手紙を盗み見する"場面に代表されるような、「そんなこと、あるわけないでしょう(笑)」話で盛り上がり。「でも、『白鳥の湖』にしても『ジゼル』や『眠れる森の美女』にしても、理屈ではあり得ない話を成立させる力がある。そこが人々の心をとらえるのでしょうね」とは、バレエにも造詣が深い玉三郎さんならではの言葉。「18、19歳の頃に見たレニングラード・バレエに感銘を受け、同じ舞台に立つ者としての身体作りをしたい」と、以来毎日欠かさずストレッチをしているエピソードを教えてくれるなど、柄本にとっても忘れられない時間になったようだ。


取材・文:佐藤友紀(フリーライター)


13-01.15_BBL02_01.jpg




※坂東玉三郎さんと柄本弾の対談は、「ザ・カブキ」公演プログラムでさらに詳しくお届けします。


撮影:岡本隆史 舞台写真:長谷川清徳