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2011/12/16 2011:12:16:15:09:14

バルバラ・フリットリ インタビュー&2009年日本公演アンコール映像


12月7日にスカラ座のシーズンオープニングの演目『ドン・ジョヴァンニ』にドンナ・エルヴィーラ役で出演され大成功を収められたばかりのバルバラ・フリットリさんに、来日コンサートに関してお話をうかがいました。


11-12.16.jpg――今回のプログラムにおいて興味深いのはR・シュトラウスの「四つの最後の歌」とマルトゥッチの「追憶の歌」という両プログラムの歌曲です。すでにリサイタルでは何度か歌われているそうですが、日本のフリットリ・ファンにとっては異色のレパートリーと感じます。今回プログラムされた理由は? フリットリさんにとって何か特別な意味を持つものなのでしょうか?

フリットリ:日本では前回オペラのレパートリーを中心にしたコンサートをさせていただきました。今回は前回の繰り返しにならないように、そしてオペラ以外の曲も日本の皆さんに聴いていただきたいと思ってシュトラウスとマルトゥッチの歌曲を選びました。 
「四つの最後の歌」は何とも美しい曲で私の大好きな作品ですし、マエストロ・メータやマエストロ・ノセダなどの偉大な指揮者との共演で歌っています。 
「追憶の歌」はマエストロ・ムーティから勧められて勉強しました。シュトラウスもマルトゥッチもプッチーニと同時代の作曲家でちょうど1900年代初めの新しい音楽のスタイル溢れる素晴らしい作品を残しています。私自身はオペラ歌手としてキャリアを積んできましたが、オペラはオペラの舞台で衣裳を着けて役柄を演じるものと思っていますのでコンサートの場合はできるだけ歌曲をプログラムに入れるようにしたいと思っています。


――ドイツ歌曲とイタリア歌曲では表現や歌唱において異なると感じられることはありますか? 特にマルトゥッチはイタリア人作曲家でありながらオペラは書かず、器楽作品においてはドイツ・ロマン派の香りを持つと言われています。なかでも「追憶の歌」はワーグナー風のライトモティーフが重要な要素となっている曲です。歌曲にはどのように取り組んでいらっしゃるのでしょうか?

フリットリ:歌を習い始めてまず勉強したのはイタリア古典歌曲でしたから、イタリア歌曲は声楽の基本というように捉えています。ドイツ語とイタリア語は発音が根本的に違うし、歌曲の様式も違いますが、表現や歌唱法を特に意識して変えることはしていません。
大切なことは言葉を大事にすることで、表面的な意味ばかりでなくその裏にある意味も読み取ることが出来れば自然に適切な表現が出来ると思います。
今回のプログラムのシュトラウスの曲はドイツ歌曲でありながらイタリアの声が求められていると思います。 マルトゥッチの曲は旋律的で聞きやすいと思いますが、豊かな音楽性と歌唱技巧が要求されています。


――シュトラウスについては歌曲だけでなくオペラでも今後のレパートリーとして考えていらっしゃいますか?

フリットリ:私はオペラを勉強する時は、自分のパートだけでなく全曲を勉強します。 誰がどこで何を言っているのかすべて知ることによってより深く自分の役に入り込めるからです。そのためには言葉が分からなければなりません。私はフランス語と英語は話すことが出来ますが、ドイツ語は苦手です。リートの場合は言葉の意味を調べることが容易ですが、オペラ全曲となるとなかなか簡単にはいきません。イタリア語を全く話せない外国人の歌手がイタリアオペラを歌っているのを聞いて、言葉が分かっていないと感じることがあります。ドイツ語を話せない私がドイツオペラを歌って、同じような印象を与えてしまうのではないかと思います。シュトラウスのオペラにお誘いいただいたことはありますが、今のところ新しいレパートリーとして考えてはおりません。


――フリットリさんはその卓越した表現力で高い評価を得ていらっしゃいます。今回プログラムされたアリアは、オペラ全編の中では最もドラマのピークとなるアリアだけにとても楽しみです。コンサートの場合、オペラの舞台で演じるのとは異なる表現の仕方や『秘訣』はありますか?

フリットリ:オペラの舞台では物語が進行していく過程でアリアを歌うので心理的にはすっかり準備が出来た状態で歌うことが出来ます。聴いている観客の皆さんも同じように物語の進行を追って、アリアを聞くので自然に内容に入り込むことができると思います。ところが、コンサートでオペラのアリアを歌う場合は舞台装置も衣裳もなくて、しかもいきなりアリアだけを歌うのですから、正直なところ精神的に大きな負担を感じます。 
オペラの舞台では演技で効果的な表現をするようにしていますが、コンサートでは声の技巧をいかに発揮できるかということに重きを置いて演奏することが多いです。日本の観客の皆さんはオペラアリアでのコンサートを楽しみにしていらっしゃるのでアリアも歌いますが、普段リサイタルでは歌曲中心のプログラムを組んでいます。歌い慣れた役のアリアでもコンサートで歌うのはより難しく感じます。


――近年新たに取り組まれたレパートリー、あるいはこれから取り組みたいレパートリーについて教えてください。

フリットリ:2011年は『トスカ』を初めて歌いました。これからはトスカもレパートリーとして歌っていくつもりです。2012年はバルセロナで『アドリアーナ・ルクヴルール』に初挑戦します。2013年には『運命の力』、2014年には『アイーダ』と、これからレパートリーを広げていく予定です。私は今まで本当に慎重にレパートリーを選んできました。
マクベス夫人を歌うのも夢ですが、歌いたい役だからといって何でもかんでも受けていたら1年で声がなくなってしまうでしょう。もちろん、マクベス夫人を歌うことは絶対にありえないと思いますが...。これから取り組む役は今までのレパートリーより重い声の役になりますが、今後も自分の声に合った役だけを選んでいきます。


――日本のファンは昨年6月にMETで来日された際、その素晴らしい歌唱ばかりでなく、暖かい人柄にも大いに感動しました。二度目となる日本でのリサイタルに当たって、フリットリさんがこのリサイタルに込める想い、日本のファンへのメッセージをお聞かせいただけますか?

フリットリ:私は今でもあの地震と津波の様子をニュースで見たときのショックを忘れることが出来ません。この悲劇の出来事で突然家族を失った方々や今も不自由な生活を余儀なくされていらっしゃる方々のことを思うと胸が痛くなります。私は以前から日本が大好きでしたが、この恐ろしい被災に、取り乱すことなく威厳を持って立ち向かう国民性に心から尊敬の意を表わしたいと思います。音楽を通して少しでも皆さんに安らぎを感じでいただけるように心を込めて歌いたいと思います。

――お疲れのところ有り難うございました。


[2011年12月8日 電話インタビュー:田口 道子]

photo:Kiyonori Hasegawa




●2009年<バルバラ・フリットリ ソプラノ・リサイタル>より
歌劇『アドリアーナ・ルクヴルール』より "私は創造の神の卑しい僕"