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2013/01/07 2013:01:07:12:20:48

【BBL特集1】カテリーナ・シャルキナ&オスカー・シャコン インタビュー

 昨年夏の世界バレエフェスティバルに参加し、モーリス・ベジャール・バレエ団(BBL)の新世代のスターとしての存在感を印象づけた二人、『ライト』のタイトルロールを踊るカテリーナ・シャルキナと、赤毛=ヴィヴァルディ役を踊るオスカー・シャコンが、数々の謎に包まれた伝説の作品、『ライト』の魅力をひもときます。

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 カテリーナ(・シャルキナ)の存在が、『ライト』の再演を考える直接のきっかけになった──BBLの芸術監督で、この幻のベジャール作品の初演にも関わっているジル・ロマンはこう明言したが、カテリーナ本人はそれを知っている?
「ええ、ジルからは常々"君はいつも明るく楽しそうで、カンパニーの光のような存在だね"と言われていたし(笑)。でももう一つは、この数年間で、私のバレエ・テクニックは飛躍的に成長した。自分で言うのも何だけど(笑)。それに対するご褒美のようなものもあるんじゃないかしら。モーリスの振付って、一見そんな風には映らないけど、根本に物凄く厳格なロシア・バレエの基礎を必要としているの。ただし、それは脚というか腰から下だけで、上半身はとことん自由じゃなきゃいけない。そういう独特のテクニックを習得しないと、あの世界観は表現できないのよ」
 カテリーナとは昨年夏の世界バレエフェスティバルで『パルジファル』を踊ったオスカー・シャコンもうんうんうなずく。
「『パルジファル』は踊りのテクニックも大変だけど、下からライトをあてられ、それが影絵となって、生身の僕らとでいつの間にかパ・ド・ドゥというか、パ・ド・カトルを踊っている風に見える。映画的でもあり、演劇的でもあるんだ。もちろん『ライト』もひと言では説明できない多層的な魅力にあふれている。ヴィヴァルディの音楽と、現代音楽のザ・レジデンツの両方をまったく違和感なく使っていることでもわかるけどね(笑)」
 初演当時の紹介記事やレヴューを読むと、『ライト』のメインテーマは"女性の一生"といった記述が目につくが、二人に言わせれば、もっと複雑なものらしい。カテリーナいわく、「私にとってはもっと抽象的な作品で、私が踊るライトも、一人の女性というよりは妖精のような、一つのエネルギー体とでも言える、人間とは全く違う存在ととらえているわ。そしてジュリアン(・ファヴロー)演じる貧しき者や、オスカー演じる"赤毛"など、そういういろんな人々に喜びや幸福を与えるような存在で、それが最後には人間の女性になる......。で、別の女性の生誕を助けるんだな、と解釈したわ」。

12-01.07_BBL02.jpg 一方、オスカーは「モーリスが遺してくれた創作ノートを読んでいろいろ考えたんだけど」と、頭の中でのベジャールとの対話を存分に味わっている様子なのが頼もしい。
「僕も、ライトというのは人間とは全く異なる存在だと思ったよ。そこには様々な世界、様々な色彩、様々な人物が重なり合っていくんだな、と。しかもそうした様々な人物は様々なイメージを背負っている。例えばジュリアンの貧しき者は、聖フランチェスコと重なり、それがサンフランシスコという街に繋がって行くと同時に、当然宗教的意味合いも背負わされている。また侯爵(裕福な者)も登場するが、当時の宮廷人の在り方、存在様式というものを背負っている。このように、登場人物各々が、一つの時代、一つの生活様式、そしてイメージ、色彩などを代表しているんだと思う。ライトだけはそうした人間とは違う次元にいるんだけど、最後には死というものを知る。その転換というのが一つのポイントで、それまで自分が希望を与えてきた人間たちと同じ列になる。つまり、光は実は人間各々の内側に元からあったもので、人々は内なる光を自分の中に見つけていくところにドラマがあるという内容なんだ。かなり哲学的だけど(笑)」
 オスカーが踊る赤毛の司祭は、実はヴィヴァルディその人。「でも彼は死後有名になったから、誰も明確なイメージを持っていないんだよ(笑)。モーリスの自由なクリエーションさ」。

12-01.07_BBL03.jpg カテリーナは30年前の初演を含め、数多くのヴァージョンを映像で研究したという。
 「で、ラストに"アーメンのヴァリエーション"があるんだけど、以前は控えめだったそこの踊りを、もっと外側にエネルギーを出すように踊っているわ。私という人間らしく(笑)」

(取材・文 佐藤友紀 フリーライター)