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2009/09/22 2009:09:22:13:00:23

[ラ・シルフィード]レオニード・サラファーノフ インタビュー

いよいよ、今週土曜日(9月26日(土))より、レオニード・サラファーノフ主演「ラ・シルフィード」(ラコット版)の一般前売りが開始されます。
サラファーノフはミラノ・スカラ座公演でラコット版「ラ・シルフィード」を踊っていますが、日本で彼がこの作品を披露するのは今回がはじめて。8月の世界バレエフェスティバル期間中に、サラファーノフが「ラ・シルフィード」の魅力をたっぷりと語ってくれました。

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4月の東京バレエ団設立45周年公演での「エチュード」に続いて、夏には世界バレエ・フェスティバルに初出場を果たしたレオニード・サラファーノフ。Aプログラムではいきなりトリの「ドン・キホーテ」を任されるなど、マリインスキー・バレエの若き俊才は、清新さに頼もしさの加わった大きな存在感で終始観客を魅了した。2010年2月には、「ラ・シルフィード」で再び東京バレエ団に客演予定。19世紀バレエ復刻のスペシャリストとして知られるピエール・ラコットが、その名をとどろかすきっかけとなった1971年初演の名作である。


――この作品には、すでにミラノ・スカラ座で主演してらっしゃいますよね?

09-09.22sara.JPGサラファーノフ(以下L・S) はい、6年前のスカラ座初演の際に。この時はラコットとも初仕事、最高のジェイムズ役だったパリ・オペラ座のマニュエル・ルグリに教わるのも初めてで、何重にも緊張しました。自分でもまずまずの舞台でうれしかったですが、今度は日本で踊れるのを光栄に思います。


――「ラ・シルフィード」といえば、もうひとつ、デンマークのブルノンヴィル版も有名です。マリインスキーではこちらを踊っていらっしゃいますが、ラコット版とはどう違っているのでしょう?

L・S 物語が同じだというだけで音楽も違いますし、全く別のバレエだと思っています。ブルノンヴィル版では、主人公のジェームズと婚約者エフィーとの関係はあまり細かく描かれていませんが、ラコット版では1幕終盤のトリオ("オンブル"とも呼ばれるパ・ド・トロワ)がそこを象徴的に示します。またブルノンヴィル版の第一幕は、シルフィードのリアリティのない軽さとのコントラストを出すために、人間はしっかり大地を踏みしめて踊ります。いわば民族舞踊の幕で、一言でいえば、ラコット版の方がよりロマンティックだということですね。
振付については、ラコットはすばらしく音楽的で覚えやすい一方、とにかく難しい。踊りの量が多いうえに、高度なステップが多くて体力的にもたいへんです。マリインスキーで彼が『ウンディーナ』という作品を振り付けた時も、僕を含めて男性が誰一人あるヴァリエーションを最後まで踊りきれなくて、結局間に女性たちの踊りを挟んで、その間に一息つけるようにしてもらったほど。ラコット自身は不満げでしたが...でも、そんな振付だからこそ、踊っているさなかにも満足感が湧きあがってくるんです。


――婚約者を捨ててシルフィードのもとに走ったため、すべてを失ってしまう。そんなジェイムズに、共感できますか?

L・S 同じ状況だったら、僕も同じ行動をとってしまうかもしれない。シルフィードはエフィーにないものを持っているけれど、彼女が夢の中の存在であることを忘れてしまったため、ジェイムズには世界が見えなくなってしまう。そこが悲劇なんです。あれほど嫌っていた魔女マッジから魔法のショールを受け取ってしまうのも、軽率といえば軽率ですよね。でもそこが人間の心の機微。あのショールは、アダムとイブにとっての禁断のリンゴなんです。ジェイムズは手の届かないシルフィードを自分のものにしたくて、誘惑に負けてしまうんです。

09-09.22sara2.jpg
(第12回世界バレエフェスティバル ガラ公演「ラ・シルフィード」より)


――作品のここを見てほしい、という場面を上げてください。

L・S 特定の場面を選ぶのは難しいですが、あえて3つあげると、1幕のトリオ、2幕のパ・ド・ドゥ、そして最後にシルフィードが死にジェームズも息絶える、ドラマティックな場面です。


――ところで、秋葉原がお好きだとか?

L・S 博物館みたいで楽しいです(笑)パソコンや音楽プレーヤーのような電子機器全般が好きで、シェーバーでさえ一つの芸術品だと感じます。中でもいいカメラでいい写真を撮るのは、僕の最高の趣味。バリシニコフやサモドゥーロフのように個展を開くほどのバレエ・ダンサーもいますが、僕たちは独特の美意識の中で育てられるので、他の人たちが見過ごしてしまうものにも、視点が行くのかもしれないですね。

長野由紀(バレエ評論)


photo:Kiyoori Hasegawa(舞台写真)