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2010/04/14 2010:04:14:15:06:24

[ニコラ・ル・リッシュの「ボレロ」]ニコラ・ル・リッシュ特別インタビュー

『ボレロ』という作品を踊る機会を得た奇跡に感謝。

取材・文/佐藤友紀(フリーライター)

10-04.14_LERICHE.jpg 「確かに僕たちパリ・オペラ座バレエ団と日本って、相思相愛の関係にあるね。僕だけでなく、ダンサーみんなが日本で踊れることを楽しみにしているし、観客の方々の各バレエ作品に対する深い洞察力理解力にも、毎回敬意を抱かずにいられない。だから、今回『ジゼル』を踊った僕が、次はベジャールの『ボレロ』を披露するとなると。一体どんな反応が返ってくるか、今からワクワクしているよ」

 パリ・オペラ座バレエ団日本公演の大トリ『ジゼル』のアルブレヒトを踊り終えたばかりのニコラ・ル・リッシュは、これからすぐにでも『ボレロ』を踊りたいといった上気した表情で、この作品、そしてモーリス・ベジャールというバレエ界の巨人との絆について語ってくれた。 
「実は、オペラ座バレエ団にとっても『ボレロ』は特別な大切な作品でね。これまでパトリック・デュポン、シャルル・ジュド、シルヴィ・ギエム、マリ=クロード・ピエトラガラといったエトワールたちが踊っているけど、エトワールなら誰でも踊れるというわけじゃないんだよ。だから僕が踊ることになった時は本当にうれしかった。しかもモーリス自ら振付を教えてくれて。彼はその時、脚をいためていてあまり動けなかったんだけど、さり気なく動かす腕とか顔の表情のあまりの美しさに"ああ、ベジャール作品って、モーリス本人がやっぱり一番良くわかっているんだな"と改めて思わされたな(笑)。それでいて頭から"こうしろ、ああしろ"というんではなくて、僕のちょっとした提案も受け入れてくれる。とことん懐が深いんだね。だからこそ『ボレロ』という作品も、踊るダンサーによっていろいろなニュアンスをかもし出すんだろうね。パリのオペラ・バスティーユで上演した時、舞台袖で見ていてくれたモーリスが本当にうれしそうだったのが忘れられないよ。観客のあまりの大喝采に、僕が彼を肩で支えて舞台に出て、何度も挨拶したことも。あれは本当に特別な夜だったからね」

 ギエムやピエトラガラの名前が挙がることでもわかるように、『ボレロ』のソロ、メロディーは、女性ダンサーも男性ダンサーも同じ振付で踊る不思議な作品。
「しかも、今指摘されるまではその不思議さに気づいていなかったというか(笑)。そこがモーリスという振付家の凄いところだよね。あの振り、元々はギリシャ音楽『日曜はダメよ』に振付けたものだったというのは、今まで知らなかったけど、これまたモーリスならそんなこともあるだろうなと思うよ。彼は芸術家なのに、常に好奇心旺盛でいろんなことを試していたがったから。もちろん守らなければならない部分はあっても、作品の解釈とかを踊り手である僕に委ねてくれるというのも、そうした彼の自由さのなせる技なんだろうね」

 ちなみにベジャールの愛弟子ジョルジュ・ドンは「『ボレロ』を踊るのは祈りのようなもの」と生前語っていたが、あなたの場合は?
「う~ん、ジョルジュ・ドンの言うこともわかるし、一心不乱というか、思い返せばその時は、無心になっているかなとも感じるし。でも、少なくとも自分の人生そのものをかけなければあの16分間は踊り切れない。振り自体はシンプルに見えるけれど、内面の持っていき方がダンサーに問われているというのかな。ラヴェルの音楽とのシンクロの仕方も尋常じゃないと思うしね。よくこんな作品が生まれたな、と心から驚かされているんだ。そして僕がそれを踊る機会を得た奇跡にも感謝しているよ。日本で踊る時にも、きっとモーリスと交わした何気ない会話とか、彼の仕草なんかを思い出すだろうな。そういう意味でも、僕にとって大切な舞台になるはずだよ」
 オペラ・バスティーユでのベジャールさんの最後の姿と共に、ニコラ・ル・リッシュが踊り切る『ボレロ』を目に焼き付けたい!