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2010/09/18 2010:09:18:11:52:38

[オーストラリア]マドレーヌ・イーストー&アダム・ブル インタビュー

-----まず、マーフィー版『白鳥の湖』との出会いについて教えてください。

10-09.18-01.jpgイーストー(以下、E):私は92年の初演当時、公爵夫人役で参加したんです。オデットのアンダー・スタディの一人でもありました。実際にオデット役を務めたのはその翌年から。作品の創作過程を目撃できたので、今も当時の記憶を反芻して踊っています。
ブル(以下、B):僕が初めてジークフリート王子を踊ったのは08年。まずはオリジナル・キャストのスティーブン・ヒースコートさんに教わり、マーフィーさんに仕上げていただきました。本番2週間前には必ず、マーフィーさんご自身がいらして指導くださるんですよ。
E:とても丁寧に指導してくださるのよね。ただ、彼は要求が高度で、応えるのは大変(笑)。
B:確かに(笑)。だからこそ、再演を重ねているにもかかわらず、鮮度が保たれているんじゃないかな。


-----このマーフィー版の振付は動きが複雑で、技術的にも体力的にもハードなのではないでしょうか?

B:そうなんです。初めて踊った時は他の人と何度もぶつかった! でも慣れたら、振付通りに動くだけで役柄の感情が湧き上がってきて、とてもよくできている作品だなあと改めて実感しました。とはいえ、全幕を踊り終わるころにはぐったりと疲れ果てていますけど。
E:私も最後はくたくたになるわ(笑)。
B:王子は、オデットと男爵夫人の両方とたくさんのパ・ド・ドゥやパ・ド・トロワをこなさなければいけないんです。スタミナも消耗するし、二人の女性の間を揺れ動く役を演じるのは精神的にも過酷ですね。
E:オデットの動きは、やや暴力的に見えるほどハード。最初は違和感もおぼえたのだけれど、踊れば踊るほど、すべての動きが、彼女の心理状態を巧みに表していることがわかり、しっくり来るようになりました。


-----既存のバレエ曲が、あたかもこの作品のために作られたかのように動きとマッチしているのも特長ですね。


10-09.18-02.jpgB:誰もが知っている音楽を、あそこまで独創性あふれるドラマとして用いるなんて、すごいですよね。
E:構成をアレンジしているけれど、曲本来の美しさを損なわない編成になっているの。私たち自身、何度も踊っているから、もはやマーフィー版のほうが自然に聴こえるくらいなのよ。


-----特にお気に入りのシーンは?

E:オデットの結婚が不幸だったことが明るみに出る1〜2幕はやりがいがあります。でもやっぱり、4幕の最後のパ・ド・ドゥが素敵! 悲劇的な場面でもあるけれど、王子との愛をみつける喜びも感じるわ。
B:同感だな。うまく言えないんだけど 、オデットと理解し合うあのパ・ド・ドゥには、真実の愛をみつけた喜びと同時に、どこか刹那的な感覚もおぼえるんです。男爵夫人を振り切って、オデットを胸に抱いた瞬間、チャイコフスキーの劇的な音楽がわーっと流れると、感情的にも高揚し、踊りきったという達成感も相まって、何ともいえない気持ちになります。


-----日本公演のもう1つの演目であるマーフィー版『くるみ割り人形』には、お二人の出演予定はありませんが、作品について教えていただけますか?

E:この作品には少女・成人・老女の3人のクララが出て来ます。私は学生時代に少女の役を踊り、入団後に成人の役を踊りました。オーストラリアの文化が反映されたこの作品は、私たちの誇りですね。
B:クララはオーストラリアに亡命したロシア人バレリーナという設定。僕たちのバレエ団はバレエ・リュスと密接な関わりがあるから、いわばバレエ団の過去と未来を示した作品です。
E:オーストラリアならではの夏のクリスマスが描かれているんだけど、実際の私たちのクリスマスも、ああいう感じよね。雪はナシ!
B:そう。晴天の下でバーベキューをしたり家族と過ごしたり。もっとも僕はいつか南極で、ペンギンや氷山を見ながら過ごすクリスマスも夢見ているけどね(笑)。


-----バレエ団のレパートリーにはピーター・ライト版『くるみ割り人形』もありますが......。

E:この9月にライト版で踊った後、すぐに日本公演のためのマーフィー版のリハーサルが始まって。ややこしいわよね(笑)。
B:片方のプロダクションを踊りながらふともう一方の踊りを思い出したりする(笑)。だけど、ダンサーとして、鍛えられるから幸運だと思うよ。

10-09.18-03.jpg

-----最後にダンサーとしてのお互いを、日本の観客のためにご紹介ください。

B:マドレーヌは情感豊かで技術的にも優れ、全身全霊を踊りに込めることができる素晴らしい踊り手なんです。たくさんの要素が詰まった『白鳥の湖』なら、その魅力を存分にご堪能いただけるでしょう!
E:アダムは誠実で才能あるダンサー。大柄な彼がマーフィーの振付をこなすのはとても大変なはずなのに、見事に踊っていて感動するわ。それに彼の王子役は独自の解釈で演じられるので、ぜひ注目してくださいね!

取材・文/高橋彩子(舞踊・演劇ライター)


撮影/引地信彦