What's NewNews List

2011/04/26 2011:04:26:14:53:21

[バーミンガム]ダンサーインタビュー(3) イアン・マッケイ

色香のある男性的体躯をいかした雄々しくも優雅な身のこなしで、英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団(BRB)を代表する男性プリンシパルのひとりとして活躍してきたイアン・マッケイ。スコットランド人らしいシャイながらも気さくな人柄で、近年のコレーラ・カンパニーでの経験やBRBの魅力などを誠実に語ってくれた。


---- イアンさんは10年来、カンパニーを代表するダンサーのひとりとしてバレエ団を牽引して来られました。ただ一時的に08年の日本公演後、スペインのコレーラ・カンパニー(アンヘル・コレーラが芸術監督を務めるバレエ団)に移籍されていました。なぜ移籍を決意されたのか、またなぜBRBに戻って来ることにしたのか、簡単に教えてください。

11-04.26_01.jpg僕は英国ロイヤル・バレエ学校在籍時にデヴィッド・ビントリーに直接スカウトされてBRBに入団したんです。ですから、ダンサーとしては学生時代からずっとロイヤル系列の組織のなかで踊ってきたわけです。そんななか自分のキャリアが9年目を迎えたとき、少し外の世界が見たくなった。別にBRBでのキャリアに不満があったわけではありません。ただ自分が尊敬するダンサーのひとりであるアンヘルに声を掛けてもらったとき、ちょっと冒険してみたくなったんです。結果的にスペインで2年間、新しいダンサーと新しいレパートリーに挑戦できたことは僕の大きな財産となりました。ただ正直2年経つころには、BRBの創作環境が恋しくなってもいました。ビントリーという現役振付家のもと、毎年のように新作バレエの創造に立ちあえる。またピーター・ライト、フレデリック・アシュトンといったイギリスの誇る財産演目も踊れる。これは予算の限られたプライベート・カンパニーでは、決して叶わない贅沢です。




---- それでBRBに戻る決意をされたわけですね。

無計画な僕はBRBと「いついつに戻ります」という契約を結んでスペインに去ったわけではなかったので、一度、行き場がなくなってしまったんです。それでとりあえず欧州の主要カンパニーのオーディションを受け始めた。そうしたら運良くデヴィッドに「なんでオーディションなんか受けてるんだ、是非戻ってきてくれ」と声をかけていただきまして、現在にいたるわけです。こうしてBRBに戻ってこられて、僕はとても幸せものです(笑)。


---- 3年前の日本公演で踊られた『美女と野獣』をはじめ、あなたはいままでも『カルミナ・ブラーナ』『エドワード2世』『シンデレラ』『シェイクスピア・スイート』などビントリー作品の多くで主演なさってきました。自身のキャリアの突破口になったと思える、特に印象深いビントリー作品があれば教えてください。

00年にデヴィッドが『アーサー 第一部/第二部』という二つの新作バレエを作ったとき、主要プリンシパルがみな不運にも怪我に見舞われたんです。そのときデヴィッドは、まだ二十歳そこそこの若造であった僕を主役に指名してくれた。「ほかに踊れる奴はいない。だから君が踊れないと困る」といってね(笑)。その作品で実力を発揮できたことで、いまの僕のキャリアは確実に開かれたように思います。以後、ほとんどのビントリー作品で主役を踊らせてもらえるようになりましたから。なので『アーサー』は僕にとって、とても印象深い演目です。


---- あなたはキャリアの早い段階から「パートナーリングの巧さ」で高い評価を得てきました。

僕は背中や腰がダンサーにしてはまっすぐで堅いんで、体がパートナーリングに向いてるんです(笑)。まあそれは冗談ですが、確かに僕はかなり早い段階からパートナーリングを重視してきました。いつでもパ・ド・ドゥでは、相手方の女性がより美しくよりラクに見えるよう務めてきました。もちろん僕だって、英国ロイヤル・バレエ団のセルゲイ・ポルーニンやボリショイ・バレエ団のイワン・ワシーリエフのようにターンやジャンプができないかな、と願ったことはありました。でも結局、それは僕の得意分野ではないんです。その事実にここ数年気付いてからは、より一層自分の得意なことに集中していけるようになりました。


11-04.26_02.jpg---- 日本公演ではピーター・ライト振付『眠れる森の美女』と、フレデリック・アシュトン振付『ダフニスとクロエ』で主演なさいます。二演目の魅力について教えてください。

僕の思うもっとも美しい『眠れる森の美女』が、このライト版です。キャラクター・ロールとして登場するリラの精や、2幕終わりの『Awakening Pas de Deux (目覚めのパ・ド・ドゥ)』など、物語性を豊かにする工夫が随所に施されています。王子がキスをして、姫が目を覚まして、結婚する、という単純なお伽噺では見えて来ない男女の親密さが描かれているように思います。『ダフニスとクロエ』は、数年前のBRB初演時にアンソニー・ダウエルから直接指導を受けました。僕は物語バレエを踊ることが大好きなのですが、この演目ではあえてストーリーを伝えようと思わなくても、ステップを正確にこなすことで話がおのずと見えてくるんです。まさにアシュトンという天才振付家の面目躍如たる奥ゆかしくも美しい演目だと思います。


取材・文/岩城京子(演劇・舞踊ライター)

写真:【上】「眠れる森の美女」(王子)、【下】「ダフニスとクロエ」(ダフニス) (c)Bill Cooper