What's NewNews List

2011/08/22 2011:08:22:15:05:50

「エオンナガタ」特集〜シルヴィ・ギエム インタビュー

11-08.15eonnagata_header.jpg


 18世紀前半のフランスで、女の子よりも女らしく美しく生まれついた1人の男の子。彼の辿った数奇な人生をシルヴィ・ギエム、ロベール・ルパージュ、ラッセル・マリファントが演じ切ったのが『エオンナガタ』だ。

「このタイトルは、もちろん彼シュヴァリエ・デオンの名前"エオン"をもじっているんだけど、私もロベールもラッセルも、歌舞伎を始めとする日本文化には前々から強く惹かれていたし、それゆえに女形という表現形態にも魅了され続けてきたから、そのオマージュもこめて選んだのよ」

 ギエムがこう語るように、舞台上には女形を象徴する日本の着物や扇が効果的に登場する。着物は空中に浮かんだかと思うと誰かがその内側にいるかのようにねじれ、幽霊のような不思議な形と生気を見せるし、あまりにも美しい扇は優秀なスパイだったというシュヴァリエ・デオンの商売道具のように妖艶に動く。

「そうね。アレキサンダー・マックイーンがデザインしてくれた衣裳が中性的な印象だから、かえって、そういう小道具が生きるんだと思う。それに日本的なものばかり表面的に追っていったら、どこか陳腐に見えてしまうかもしれないけど、私たちが喋るテキスト(台詞)でも触れているように、"太陽である男、大地である女、そしてそのどちらも持つエオン"という考え方はギリシャに代表される西洋の古代文明にも通じるし。とてもスケールの大きさを感じるわ」

11-08.20_01.jpg
 アクラム・カーンとのコラボレーション作品『聖なる怪物たち』でも、ダンスだけでなく、舞台上で自分の声を使うことを体験しているギエム。

「でもあれは、あくまでも自分のことを語るだけだったから(笑)。それに比べて今回は、ちゃんと決められたテキストがあるし、ロベール扮するボーマルシェとは激論を闘わせなければならないのよ。もちろん台詞劇ではないから、そういったシーンの私たちのムーブメントにも要注目だけど(笑)」

 台詞とムーブメント、と言えば、ルパージュが面白いことを教えてくれた。ギエムが台詞を覚える時、バレエを自由な振り付けで踊りながら頭に入れていくという。

「頭だけでなくて、身体にもね(笑)。あのやり方が私にとっては一番自然なのよ。シュヴァリエ・デオンの気持ちもスーッと入っていったし。それにしても、こんなに面白い人物がフランスでもあまり知られていないなんて!日本では漫画やアニメーションにもなり、エオンをモデルにした有名な漫画もあるんでしょう? 日本の人の好奇心の旺盛さには常々驚かされているけど、今回もそれ知って、3人で"やっぱりね"と納得してしまったわ」

 エオンをモデルにした有名作品とは、手塚治虫の『リボンの騎士』のサファイア姫、そして池田理代子の『ベルサイユのばら』のオスカルと、確かに日本人にとっては不滅のキャラクターだ。

「男でもあり、女としても振る舞えるというのは、あの時代、行動範囲がもの凄く広くなるってことでもあった。外国など、なかなか行けなかったでしょうからね。でも、と同時にエオンは"自分は何物か?"と生涯葛藤することになる。男なのか、女なのか、フランス人なのか、イギリスに帰化したいのかという風に」

11-08.20_02.jpg

 エオンの苦悩は、雄々しさとフェミニンな部分が合体した踊りはもちろん、光と影を多用した舞台照明からも明確に感じられる。そして、モノトーンに見える陰影の中、時折強烈なオーラを放つ赤のインパクト!

「クラシックだけでなくコンテポラリーの振付家と多く仕事をするようになって、彼らのフラットじゃない色や光の使い方にはいろんなインスピレーションをもらっているわ。今回だって、エオンの身体が赤いリボンと繋がるシーン。ロベールは女性の生理を表していると言うの。これでまた、彼が男だか女だかわからなくなるでしょ(笑)」 

 大きなテーブルが滑り台になったり、他の何かにイメージを変えたりする中でのスピーディな動きは、とても男っぽく、剣でのファイトも含め、ギエムならではの見せ場。そう言えば、女性ながらボブ・ディランやリチャード2世など男を演じたことがある女優ケイト・ブランシェットは「男を演じると、とても自由になれる」と語っていたが。

「私も『聖セバスチャンの殉教』で男を演じたことがあるけど。元々子ども時代から男の子っぽかったから全然違和感はないわ。ロベールやラッセルとは、上演の度に新しい発見をして、少しずつ細部を変えたりしているの。そういう意味では、エオンの人生はまだ続きがあるのよ」


取材・文/佐藤友紀(フリーライター)

Photo:ErickLabbé