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2010/04/28 2010:04:28:17:20:15

[オネーギン]主演ダンサーインタビューVol.4 /木村和夫(オネーギン)

「我を忘れてしまうほど役にのめり込んで」

取材・文/高橋彩子(舞踊・演劇ライター)


10-04.28_781f.jpg 当初、自分はオネーギンよりもレンスキーのような役柄が向いているんじゃないかと思っていたんです。ところが実際に踊ってみると、とくに激しく愛を告白する3幕にはすっかり感情移入してしまい、我を忘れるほど。違和感が皆無でした。思い返せば10代のころ、マルシア・ハイデさんとリチャード・クラガンさんがガラ公演で3幕の手紙のシーンのみを踊っていらしたのを観て強烈な演技に驚き、後から全体の流れを知って「そんな劇的な場面だったのか」と腑に落ちた記憶があります。こういう情熱的な物語って、演じていてとても楽しい。今は1幕や2幕のオネーギンの冷淡さをどう表現しようかと思案中です。僕はイメージの手助けとして時代を置き換え、"働き疲れたウォール街の若者が癒されるために田舎に来たけれど、いざ過ごしてみると退屈だったり都会のクールさと合わないところがあったりして嫌な態度を取る"などと、想像しながら取り組んでいます。
 それにしても、踊りこなすのは本当に至難の業。たとえば古典のように予備知識が豊富な演目ならば、おおよそのペース配分や、現段階で自分がどの程度できるのかといった予測ができる。けれどもこの作品の場合、越えなければならないハードルが多過ぎて見当がつかないんです。リフトでは女性を放り投げたり、飛び込んで来たところをキャッチしたりするため、初めは打ち身やあざもたくさんできて、よろよろと這うように帰宅していましたよ! でも、パートナーの斎藤友佳理さんと一緒に動きの解析をして、うまくできた時は、ロールプレイングゲームのような感覚が面白くて。そうこうするうち、踊り全体が身体に馴染んできましたね。
 最近、40歳になったんです。成熟した役柄だけに、20代~30代前半では演じきれなかった気がするので、精神的にはいい時期に出合えたなあと。体力的に言えばもう少し前が良かったかもしれませんが(笑)、今の自分にあるもので補ってうまくコントロールしたいです。技術も演技も両方大切だけれども、最後は何よりドラマの中で一貫したオネーギン像を造形できたらと願っています。


photo:Shinji Hosono、make-up:Kan Satoh