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2010/05/01 2010:05:01:09:08:15

[オネーギン]主演ダンサーインタビューVol.5 /斎藤友佳理(タチヤーナ)

「今がタチヤーナを踊るベスト・タイミングなのかも」

取材・文/高橋彩子(舞踊・演劇ライター)


10-05.01_893f.jpg タチヤーナ役には大変な思い入れがあるんです。きっかけは、モーリス・ベジャールさんが「ユカリは『オネーギン』のタチヤーナを踊るべきだ」と言ってくださったこと。それで、この作品の勉強を始めました。やがて結婚してロシアへ行き、ロシア語のレッスンを受けている時、文法の複雑さにくたびれている私を見かねた先生が「何にだったら興味がある?」と。「プーシキンの『オネーギン』です」と答えたら、なんと先生はプーシキンの専門家、"プーシキニスト"だったんです! その日から小説『オネーギン』が教材となりました。だから私がロシア語を話せるようになったのはこの作品のおかげです。
 その後、ベジャールさんや(東京バレエ団代表の)佐々木さんのご尽力により、91年の第6回世界バレエフェスティバルで、タチヤーナを踊ることができるかもしれないという機会が訪れました。第3幕の「手紙のパ・ド・ドゥ」をオリジナルキャストのマリシア・ハイデさんが指導してくださり、リチャード・クラガンさんのオネーギンとともにゲネプロを終え、本番も衣裳メイクを付け、舞台袖で待機していたのですが、書類が整わず実現しなくて。ハイデさんにお借りした頭飾りをお返ししようとした時、「将来必ず踊ることになるから持っていなさい」と言われたのをおぼえています。その後も踊れる可能性が浮上しては消え、諦めかけた矢先に今回の上演が決まってタチヤーナに選ばれ、本当に幸せですね。
 小説とバレエとは違いますけれども、ロシアで暮らす私は、ロシア国民にとってのプーシキンの存在を意識せずにはいられません。彼の誕生日には何百人もの人が広場に集まり、韻文で書かれたこの小説のフレーズを一人ずつ暗唱してつないでいくんですよ。あと、忘れたくないのが、彼の世界ではタチヤーナはロシア、オネーギンはヨーロッパの象徴だということ。つまり、異文化なんです。
 もし91年の時点で踊っていたら、この奥深い世界をきちんと表現できなかった気がします。年齢を重ね、たくさんのことを学んだ今だからこそのタチヤーナを踊りたいと思います。


(NBSニュース Vol.278より転載)

photo:Shinji Hosono、make-up:Kan Satoh