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2013/05/27 2013:05:27:10:30:50

東京バレエ団「ラ・シルフィード」リハーサルレポートvol.2

 今回の東京バレエ団『ラ・シルフィード』公演で注目されるのは、主役にキャスティングされた二組の若手スター──初日を踊る渡辺理恵と柄本弾、2日目に登場する沖香菜子と松野大乃の活躍です。柄本をのぞく3人が初役とあって、斎藤友佳理の指導は実に緻密。彼女のパートナーとしてジェイムズ役を踊ってきた高岸直樹も指導に加わり、バレエ・ミストレスの佐野志織を含め、斎藤と長く一緒に踊ってきた仲間との連携で、中身の濃い、充実のリハーサルが繰り広げられています。

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 この日のリハーサルは、第2幕、森の場面からスタート。シルフィードを追って森にやってきたジェイムズ、さらに客席全体をも魅了する、幻想的で美しい世界を創り上げていきます。
 斎藤いわく、ここでのシルフィードは、「自分の世界に戻って来て、1幕以上に生き生きとしている」。しかもそこには愛するジェイムズもいます。
「ねえみんな、私の彼を連れてきたの。紹介するわね」
「ほら、あそこにいるのは私の友達よ」
 心の中で会話するように、と促す斎藤が、うっとりとした雰囲気で"シルフィードのセリフ"を発すると、渡辺の動きはよりいっそうしなやかに。沖のシルフィードも、仲間たちにジェイムズを紹介する身振りにかわいらしさが際立っていきます。

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 本格的にパートナーを組むのは今回が初めてという渡辺と柄本。経験豊富な柄本が、確かなサポートで渡辺をリード、いっぽう、子どものためのバレエ『ねむれる森の美女』で組んだ実績のある沖と松野は、常に改善策を提案し合っている姿が印象的です。男性のサポートがあやしい場面では、すかさず高岸が立ち上がり、「そこはもうちょっと前に押してあげたほうがいいかもしれないね」とアドバイス。ジェイムズをはじめ、すべての役柄を把握している斎藤も、男性舞踊手の実践的な助言は、高岸のフォローをあおぎます。

 続いては、幕開きのヴァリエーション。客席を一瞬にして作品の世界へと引き込まなければならない重要な場面だけに、「これは毎日必ずやりたいの」と、力が入ります。椅子でまどろむジェイムズの傍らで踊るシルフィード。「それはジェイムズに対して! 全部ジェイムズに向けて!」と、すべての振りに、愛しいジェイムズへの思いがこめられていることが強調されます。そこで斎藤から飛び出た言葉──「都はるみみたいにね!」。一瞬「?」、となった一同ですが、これは、ジェイムズに向けて差し伸べられた手を、「都はるみが感情をこめて歌うときの、あの手の動きのように」、という実に的確なアドバイス。効果はてきめん、シルフィードの演技は着実に輝きを増しています。

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 さらにジェイムズのヴァリエーション、アダージオと一日のリハーサルは盛りだくさんの内容。連日、稽古場の制限時間いっぱいまで続けられますが、さらに斎藤は「もう終わりだけど、ちょっと残っていてね。注意しておきたいことがたくさんあるの」。後輩たちに、できるだけ多くのことを伝えたい──彼女のそんな思いが、そこかしこに感じられるリハーサルでした。

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取材・文:加藤智子

撮影:引地信彦