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2016/01/26 2016:01:26:22:19:46

ハンブルク・バレエ団特集① 現地特別取材[1]  エレーヌ・ブシェ インタビュー
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「真夏の夜の夢」のヒロインを踊る

 2010年、最優秀女性ダンサーとしてブノワ賞を受賞したフランス人プリンシパル、エレーヌ・ブシェ。ひとたび舞台に立つと、その繊細でリアルな感情表現と、うっとりするほど美しい脚のラインから繰り出される、流れるようなステップが観客を魅了してやまない。マルセイユ・バレエ団でローラン・プティのもとで踊った後に、1998年17歳でハンブルク・バレエ団に入団、2005年にプリンシパルに昇進。以来、幅広いレパートリーで主役を踊り、ノイマイヤーによる新作では数多くの役が彼女のために振付けられてきた。

 日本公演で踊る『真夏の夜の夢』のヒッポリータ/タイターニアの一人二役は、ブシェが長年踊りこんで得意とする役柄のひとつ。「この役は、二つの顔を持った一人の女性として演じています。ヒッポリータは、シーシアスと結婚することに確信を持てず、結婚式の準備が着々と進んでいくなかで、その重圧に耐え切れず悩んでいます。一方、彼女の別の一面である妖精の女王タイターニアは、とても強い女性で、夫オベロンに一歩も引かず常に喧嘩状態。そんなまったく異なる二つの顔を、短時間で演じ分けるのはとても興味深いですね」


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「真夏の夜の夢」よりヒッポリータ photo:Holger Badekow


悩めるヒッポリータ、強く官能的なタイターニア。

 二役の早替わりはさぞかし大変かと思いきや、音楽と衣裳、舞台装置が変わるのと同時に、自然とキャラクターを切り替えることができるという。「プロローグでは、結婚を前に困惑しているヒッポリータとして登場しますが、その後すぐにタイターニアに切り替わり、ロバのボトムに出会ってからは彼女の遊び心あふれる、官能的な一面も出てきます。二幕で再びヒッポリータに戻りますが、そこで彼女はシーシアスとの関係に、わずかな希望を見出します――"もしかしたら、私にも愛せるかもしれない"と。作品の中で登場するバラの花は、彼女が手に入れることができるかもしれない、愛の象徴なんです」
 
 二幕でヒッポリータが眠りから目覚め、初めてシーシアスと二人きりになってお互い歩み寄る場面は、ノイマイヤー版ならではの感動的なシーンだ。「王であるシーシアスは、皆の前では常に周りの視線を気にしていますが、ヒッポリータと二人になった時、本当は彼もまた普通の人間であり、彼女を深く愛していることがわかります。そしてただの人間同士であることこそ、ヒッポリータの求めていたこと。彼女だって、女王だからといって感情を抑制するのではなく、友人のハーミアやヘレナのように、自分の心が感じるがままを表現したいのです」
 
 「ジョン(・ノイマイヤー)の振付はとても人間的で、私たちは形式的なバレエではなく、日々、血の通った人間の物語を語っているのです。『ロミオとジュリエット』、『椿姫』といった誰もがよく知る話でも、私たちがやると、それぞれの人間性がにじみ出てきます。私たちは、単に衣裳を着て舞台に出ているだけではなく、キャラクターを演じる中でも、あくまで自分自身が実際に感じていることを表現しているのです。ジュリエットや椿姫の場合にしても誰もが人生のどこかの時点でジュリエットであり、椿姫であったことがあるはずですから」


取材・文:實川絢子(ライター)


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