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2016/01/29 2016:01:29:18:33:49

ハンブルク・バレエ団特集② 現地特別取材[2] カーステン・ユング インタビュー
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「リリオム」のタイトルロールを踊る個性派ダンサー

 旧東ドイツ、ドレスデンのバレエ学校で学んでいたカーステン・ユングの人生は、ベルリンの壁の崩壊とともに大きく変化した。混沌の時代の中で、ひとり旧西ドイツ側に渡ってハンブルク・バレエ学校に転入したユング。自らを"遅咲きのダンサー"と呼ぶ彼の人生最大の選択は間違っていなかった。地道な努力が実り、いまやハンブルク・バレエ団にとってなくてはならない個性派プリンシパルとなったユングは、ベテランとなった今なお、日々成長を求めてやまないハングリー精神の塊。そして『リリオム』は、2011年、そんな彼のために満を持して創作された、ユングの代名詞的ともいえる作品である。

 ユングにとって、『リリオム』のタイトルロールの創作過程は、ノイマイヤーとアリーナ・コジョカルとともに過ごした、決して忘れることのできない特別な時間となった。当初はどんなバレエになるか想像もつかなかったものの、物語の背景を十分に理解した上で、それをどう表現していくかを少しずつ探っていったという。「例えば、仕事を探しに出たリリオムが、仕事が見つからないままイライラして帰宅するシーン。ジュリーが料理をしたりして優しくしてくれるのに、彼はそれが気に食わない。リリオムは彼女に世話してほしいなんてこれっぽっちも思っておらず、そのフラストレーションを音楽にのって表現しなければなりません。『リリオム』は初演の時から少しずつ変化してきて、この役がすっかり自分のものになったという感覚がある今も、毎回踊るたびに新しい発見があります。それがこのバレエの素晴らしいところですね」

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「リリオム」より アリーナ・コジョカルと。 photo:Holger Badkow



荒くれ男の心にひそむ優しさを表現

 『欲望という名の電車』のスタンリー役など、粗野で乱暴な役はそれまでも経験済みではあったが、リリオムの場合、いわゆる"ならず者"という一言ではくくりきれない、複雑な心理表現が要求される。「原作ではジュリー親子の会話に、"殴られても少しも痛くないということがあるの?""ええ、確かにあるわ"というくだりがありますが、リリオムには荒っぽい部分だけではなくて、自分や愛する人を傷つけないようにしようとする優しさがあります。その微妙な境界を、わざとらしくなく、あくまで自然に表現してきたつもりです」

 『リリオム』のためにミシェル・ルグランが作曲した音楽も、そんな入り組んだ心理を表現する大きな助けになるという。「リハーサル初期はピアノ二台だけだったので、初演の一週間前に、初めてオーケストラとのリハーサルをした時は感動しましたね。舞台上にもジャズのビッグ・バンドが乗るので、オーケストラピットからも、舞台上からも、両方から音が伝わってきてものすごい迫力なんです。こんなバレエは、僕の知る限り他にありません」

 「ジョン(・ノイマイヤー)のバレエは、物語バレエであっても抽象バレエであっても、常に意味があります。僕も舞台の上に乗るからには、何かを表現したい、物語を伝えたいと思ってきました。ジョンのやり方は、彼にしかできないやり方。世界中の誰もが知っている『白鳥の湖』や『真夏の夜の夢』のような物語でさえ、ジョンの想像力で翻案されるととてもスペシャルなものになるんです」


取材・文:實川絢子(ライター)


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