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2017/05/29 2017:05:29:20:01:31

【ENB】次世代スターの試金石、「イマージング・ダンサー2017」で金原里奈が優勝

次世代スターを生み出す、世界でも珍しい団内コンクール

 5月25日、今年で8回目となるイングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)の若手コンクール、「イマージング・ダンサー・アワード」がロンドンのダンス専門劇場、サドラーズ・ウェルズ劇場で開催された。バレエ団内でのコンクール、というのは世界でも珍しい試みだが、ENBのミッションのひとつである"若手の育成"に大きく貢献するイベントとして、今やすっかりロンドン・バレエ界初夏の風物詩として定着した感がある。

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「イマージング・ダンサー2017」で優勝した金原里奈とアイトール・アリエッタ
photo: Laurent Liotardo


 ファイナリストとして出場するのは、同僚であるENBの団員たちか らノミネートされた若手ダンサー計6名。男女ペアでクラシック作品のパ・ド・ドゥ、そしてコンテンポラリー作品のソロを踊るが、カンパニーの中で比較的ランクの低い、普段コール・ド・バレエを踊るダンサーでも、この日1日だけプリンシパルの役を踊れるとあって、若手団員にとっては大きなモチベーションとなっている。面白いのは、メンターとしてコーチにあたるのが、団員の先輩ダンサーたちということ。小規模なバレエ団ならではの家族的な雰囲気は ENBの魅力のひとつだが、このメンターシステムもまた、"皆でサポートしあい、バレエ団の中から次世代のスターを育て上げよう"というENBのカンパニー・スピリットを体現する格好の例といえるだろう。実際、2011年、2012年に優勝した加瀬栞とヨナ・アコスタは、ともに受賞の数年後にプリンシパルに昇進しており、 このコンクールで成功することがプリンシパルとしての力量を問う第一の試金石にもなっている。

 今年は、例年になく スコアが同点となり、クラシック部門の『エスメラルダ』のパ・ド・ドゥでパートナーを組んだ金原里奈とアイトール・アリエッタが同時優勝という予想外な結果になった。なかでも日本公演の『海賊』でギュルナーラ役を踊る予定の金原は、昨年『くるみ割り人形』で金平糖の精デビューを果たした注目の新人で、4回転ピルエットを難なくこなす抜群の安定感 、どの瞬間を切り取っても美しいブレのないラインで、6人の中でも群を抜いた完成度の高さだった。『エスメラルダ』では全身から踊る喜びが光のように放たれていたのが印象的だった一方で、コンテンポラリー部門ではレイモンド・レベック振付『ブラインド・ドリームズ』を踊り、 静謐さと激しさが交錯するダイナミックなダンスで移り変わるさまざまな表情を見せ、観客の心を揺さぶった。ちなみに金原の出番は、ギルヘルム・メネゼスが飛行機の機内アナウンスに合わせて踊る『フライト・モード』で会場中を笑いと歓声に包んだ直後だったので、かなりやりにくかったに違いないが、笑いから一転、胸をしめつけるような物語に観客を引き込むことに見事成功していた。

 審査員は、芸術監督タマラ・ロホを始め、元ロイヤル・バレエ、元ENBのプリンシパル・ダンサー、ダンス批評家など6名。技術のみならず、音楽性、芸術性の理解など細かく採点し、受賞者を決定する。その他にも、観客が投票して受賞者を決める"ピープルズ・チョイス・アワード"が同時に発表され、昨年はセザール・コラレスがこれらの賞をダブル受賞して大変話題になった。さらに昨年からは、"コール・ド・バレエあってのバレエ団"と考えるロホが、バレエ団内外の活動で卓越した業績を残したダンサーをコール・ド・バレエから一人選んで表彰する"コール・ド・バレエ・アワード"を設置し、団員たちに刺激を与えている。
 
 ENBのもう一つのミッションは、新しい観客層にバレエを届けること。今年から会場となったサドラーズ・ウェルズ劇場は、バレエのみならず幅広いジャンルのダンスを通年上演しているが、 ロンドンの他の劇場に比べると観客層がずっと若いのが特徴で、従来のバレエ・ファン以外の層にアピールするには最適な劇場だ。ファイナリストのプロモーションビデオやSMSでのキャンペーンにも相当な力を入れており、観客にとっても、このコンクールは 普段あまりスポットライトの当たることのないダンサー一人一人の個性を知る貴重な機会。特にコンテンポラリー部門では、ダンサーの個性に合わせた幅広いスタイルの振付家の作品に触れることができ、バレエを初めて見る観客にも興味深い内容となっている。

(取材・文/實川絢子 ライター)



「イマージング・ダンサー2017」にエントリーしたダンサーたちのプロモーション動画


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