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2017/07/11 2017:07:11:12:58:47

【ENB】イサック・エルナンデス インタビュー~ロホやコジョカルからの信頼も厚い、ENBの顔
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2014年の〈アリーナ・コジョカル ドリーム・プロジェクト〉より photo:Kiyonori Hasegawa

 2014年のアリーナ・コジョカル〈ドリーム・プロジェクト〉で初来日したイサック・エルナンデス。2015年のENB入団後、今やタマラ・ロホやアリーナ・コジョカルの相手役を務めるENBの顔として、ロンドンで最も人気のある男性ダンサーの一人となった。


 リード・プリンシパルとして活躍するエルナンデスは、まだ27歳ながら、カリスマ溢れるスターダンサーとして、豊富な舞台経験を誇る。「僕は常に、ダンサーが限られた時間しかないことを意識してきました。よりよいダンサーとなるには、早い時期から責任あるポジションが必須です。プリンシパルになるまで10年下積みで待つようなことは考えていませんでした」と語るエルナンデスは、主役を踊るより多くの機会と、自身を成長させてくれるようなレパートリーを求めて、常にその時の自分にとって最善なバレエ団を自ら積極的に選択してきた。ABT II、サンフランシスコ・バレエ団を経て、オランダ国立バレエ団でプリンシパルとして活躍。ユルギータ・ドロニナという名パートナーと、"自分のために作られたような"ハンス・ファン・マーネン作品との出会いもあり、24歳にして自分が求めていた全てを与えてくれたアムステルダムに腰を落ち着けようとしていたところ、 タマラ・ロホから『白鳥の湖』客演の誘いを受けたことで、全てが一変した。


ENBには何か特別なものがあると感じた。

「噂に聞くENBを一目見たいと思って快諾しました。当時、自分の状況にとても満足していたので移籍は一切考えていなかったんですが、ENBに来てみたらあのロイパ・アラウホがいて......ものの1週間で全てが変わりましたね。僕が"ここまでしかできない"と思っていたことが、実は限界ではなかったということに気付かされたんです。ロイパのお陰で、さらに多くの事が可能になり、自分が求めていた、舞台上での自由を手に入れることができました」


 その後再び、ENBの海外ツアーにもゲストとして参加。 ENBと合流しスケジュール表を見て初めて、憧れのタマラと踊ることになった事を知り、信じられない思いだったという。「ENBに来てみて、このバレエ団には何か特別なものがあると感じました。タマラとの初めてのリハーサルでは、すぐにお互いを理解でき、初めてと思えないほど踊りやすいと感じたのを覚えています。そして、タマラとの初共演となった中国での『白鳥の湖』は、自分のダンサー人生史上最高のパフォーマンスとなりました。自分が物語の一部となって、舞台の上で完全に自由になることができたんです」。もう、エルナンデスに迷いはなかった。その公演の翌朝、昨日の舞台で何かを"卒業"できたから、正式にENBに入団したいとロホに申し出たという。


「『コッペリア』も『海賊』も、もう何度もタマラと踊りましたが、飽きることがありません。彼女と踊ると、毎回の公演がスペシャルなものになり、価値のある舞台を創造できた、と心から思えるのです。これは、今まさに新しいアイデンティティを確立しようとしているカンパニー全体にも言えることです」

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7月6日のENB記者会見より photo:Maiko Miyagawa

故郷メキシコの次世代のために無料のバレエ学校を設立

 そんなエルナンデスの原点は、元バレエダンサーだった父親とのバレエレッスン。11人兄弟という大家族で経済的に余裕がなかったため、父親が庭にバーを作り、窓を鏡代わりにして、毎日数時間にわたるバーレッスンを3年間続けた。「父親が中途半端を嫌ったので、みっちり基礎を教えてくれたのは幸運でした。3年間ひたすらバーレッスンだけをした成果か、初めてスタジオでのセンターレッスンで挑戦したピルエットでは、いきなり4、5回転できたんです」。当時はYoutubeもなければ本物の舞台も見たことがなかったため、父親の教えてくれることがバレエの全てだったというエルナンデス。昨年、念願のパリ・オペラ座で『海賊』に主演した時には、庭で練習していた子供時代に、「ガタガタの床で練習すれば、パリ・オペラ座の斜めの舞台でだって踊れるようになる」と父親が言っていたのをありありと思い出し、胸が熱くなったという。


 自分が同年代のバレエ学校の生徒たちのはるか先をいっていることに気づいたのは、12歳でコンクールに出るようになって初めて外部の世界に触れた時だった。メキシコ人として初めてモスクワ国際バレエコンクール入賞、YAGP金賞およびグランプリ獲得を果たして一躍脚光を浴びるようになり、名門バレエ学校の間で争奪戦が起こったほど。そして、その後は一気にスターダンサーへの階段を駆け上っていった。


 こうした自らの経験を振り返り、故郷メキシコの若い次世代にバレエを根付かせたいとNPOを立ち上げたエルナンデス。無料のバレエ学校を設立し、今年8月に行われるメキシコでのチャリティ・ガラ公演の運営にも関わっている。今や無料のバレエ学校は2校になり、300人の生徒がエルナンデスのようなダンサーを目指して、エルナンデスの父からバレエを教わっているという。ダンサーとして、そしてオーガナイザーとして多忙な生活を送りながら、自らのダンサー人生、そしてバレエ界の将来をしっかり見据えて積極的に行動するエルナンデスに、今後も注目していきたい。


(取材・文 實川絢子/ライター)

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