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2016/02/17 2016:02:17:21:59:04

ハンブルク・バレエ団特集⑦ 現地特別取材[5] ジョン・ノイマイヤー インタビュー
ノイマイヤーが語る「真夏の夜の夢」とガラ〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉
 
 40年以上にわたるキャリアの中で、数多くの全幕バレエを振付けてきたジョン・ノイマイヤー。古典バレエの形式に従うのではなく、常に"この題材にもっともふさわしい形式は何か"と問いながら、全幕バレエにおけるあらゆる可能性を探ってきたというノイマイヤーにとって、シェイクスピアの『真夏の夜の夢』は大きな可能性を感じさせる題材だった。きっかけは、大学時代にシェイクスピアの授業で聞いた、この作品における三つの世界の構造の話。なぜかいつまでも忘れることができず、原作の"貴族たちの世界"、"妖精世界"、"職人たちの世界"、という三層の構造に従って『真夏の夜の夢』をバレエ化することを思いついたという。

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「リリオム」リハーサル中のジョン・ノイマイヤー(カーステン・ユングと) photo:Holger Badekow


 それまでにも数多くの振付家がバレエ化してきた『真夏の夜の夢』だが、1977年初演のノイマイヤー版は、三つの世界のそれぞれにおいて、振付のスタイルを変えるだけでなく、三つの異なる音楽を使用した点が画期的で、その斬新さは今も色あせることはない。「貴族の世界は、オーケストラピットで生演奏されるメンデルスゾーンによる同名の楽曲ですが、妖精の世界では、録音されたリゲティの現代音楽を使用し、音が周囲全体から流れてきます。そして職人の世界では、ダンサーが舞台上の手回しオルガンを弾くので、非常に素朴な音です。音楽のスケールの違いによって三つの "空間"の違いを明確にすることで、シェイクスピアが意図したであろう、"別世界に迷い込んでしまった人間"という設定から生まれるユーモアを表現できるのではと考えました。バレエという言葉のない演劇という形式だからこそ、シェイクスピアの原作に何らかの形で忠実であるべきだと思ったのです」

バレエ版『真夏の夜の夢』は、シェイクスピアを読んでいなくても楽しめる(ノイマイヤー)
 
 シェイクスピアの戯曲のバレエ化にあたっては、場面ごと、台詞ごとに文字通り"翻訳"するのではなく、バレエ作品はあくまで観る者の想像力に訴えるような"翻案"であるべきと考えているノイマイヤー。「大事なのは、シェイクスピアを読んでいなくても、バレエ版『真夏の夜の夢』を観て楽しめるということです。私は、名作文学から生まれたバレエ作品は、それ単独で成立可能なものであるべきだと思っています。これは『リリオム』にも共通する大切な問題です」

 ノイマイヤー版『真夏の夜の夢』の初演は40年以上も前になるが、作品は常に変化し続けている。「作品を変えることに関して、私は非常にオープンです。リハーサルでは常にダンサーたちを注意深く観察し、同時に自分の過去の作品に対してもクリティカルであるよう努めています。というのも、私が死ぬその日まで、私のバレエは生きた作品であるべきだと思うからです。私が人として成長するにしたがって、作品も常に発展し続けていくのです」。『真夏の夜の夢』では特に、10人近くの主役たちが登場することもあって、層の厚いハンブルク・バレエ団の"今"を象徴するような舞台を目指している。

ガラでは私の人生において作品が意味するものを浮き彫りにしたい(ノイマイヤー)

 一方、〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉と題されたガラでは、本編上演前にノイマイヤー本人による解説が予定されており、観客は彼自身とダンスとの関わりについてより理解を深めた上で、ノイマイヤー作品の名作の数々を一晩で堪能することができる。「さまざまなバレエ作品の抜粋を同時に上演することで、私の人生においてそれぞれの作品が意味するものを浮き彫りにしたいと考えています」
 
 例えば、ノイマイヤーの原点であるアメリカのミュージカル映画の影響(『アイ・ガット・リズム』)、古典バレエとの関係(『くるみ割り人形』)、北欧神話への関心(『ペール・ギュント』)、信仰に関するスピリチュアルな側面(『マタイ受難曲』)、伝説のダンサー・ニジンスキーに対する敬愛(『ニジンスキー』)など、彼の個人的な思想や感情がどのようにして作品へと昇華していったのか、踊りという形式をとったノイマイヤーの"自伝"を通して、一人の偉大なる振付家のこれまでの歩みを振り返ることができるだろう。「ガラでは、あらゆるクオリティを見出すことができるはずです。それらはすべて、私の持つさまざまな側面であり、それらが合わさって私という人間を形作っているのです」

取材・文:實川絢子(ライター)


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