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2015/10/01 2015:10:01:16:00:41

【寄稿】音楽評論家 奥田佳道氏~リッカルド・ムーティ、シカゴ交響楽団に寄せて


文:奥田佳道(音楽評論家)


 1月18日、19日以降、オペラ好きもシンフォニー好きも、みんな気持ちを高ぶらせているのではないか。
「ムーティ、シカゴ、聴いた?」「聴いた!」
もちろん、独り静かに感動を噛みしめる方も、いらっしゃるだろう。いずれにせよ「ムーティ、シカゴ」は音楽ファンの合い言葉となる。いや、すでになっている。
 現代最高峰のオーケストラ芸術に抱かれる時が近づいてきた。
 マエストロという誇らしい響きが、これほど似合うマエストロは、いない。信念に満ちた音楽家リッカルド・ムーティ、74歳。2010年秋、シカゴ交響楽団の第10代音楽監督に就任した。就任した、などといういつもの表現では駄目だ。シカゴ響の定期会員を含む地元サポーター、オーケストラ・メンバーの熱心なラヴコールが実り、満場の喝采をもって迎えられた、が正しい。
この、歌も器楽もお任せあれの匠の指揮に導かれ、オーケストラ界の雄シカゴ交響楽団が奏でる。熱く、烈しく、妖艶に。創立125周年の記念すべきシーズンに、満を持して行なわれる東京公演。
 開演前から、いささか興奮してしまっても許されるのではないか。
機智に富んだプロコフィエフ若き日の調べが早くも聴こえてくるかのよう。ムーティとシカゴの芸術的蜜月を体感できるオープナー。
 ハイドンの精神と型を受け継ぎ、しかし音楽はどこをとっても才人プロコフィエフの筆致という佳品「古典交響曲」(1917/18)で明らかになるのは、小気味いい跳躍? それとも劇音楽にも通じる、イ短調の清冽な歌心? あのラルゲットを、私たちはムーティとシカゴで味わうのだ。
指揮台でガヴォットを舞うムーティも客席の喜びとなる。いっぽう、オペラのストレッタとも呼応する、モルト・ヴィヴァーチェの第4楽章を今思い浮かべるだけで、ほほ緩む。ブラヴィの声が飛び交っても決して不思議ではない。
 20世紀アメリカ音楽界の要人でもあったドイツの鬼才パウル・ヒンデミット(1895~1963)の屹立する音響、劇的に前進してくる調べこそ、揺るぎのないムーティ=シカゴの名人芸で聴きたい。シカゴ響のライバルでもあるボストン交響楽団の創立50周年を祝って1930年に作曲、翌年初演された「弦楽と金管のための協奏音楽」が、東京文化会館の空間を満たす。シカゴ響の輝かしいブラスを、弦の妙技を満喫したいものである。ジャズのイディオムもこだまするヒンデミット!
 激情も哀愁もお任せあれのチャイコフスキーに、野暮な解説は要らない。2014/15年のシーズン、ムーティとシカゴ響は交響曲全曲に腕を揮ったばかりである。マエストロのチャイコフスキーへの愛は、キャリアの黎明期から今日に至るまで変わらない。
 さあ<運命のファンファーレ>が響く。管弦打楽器の「響宴」に心ときめかせたい。1月19日火曜の夜、私たちは、おなじみの交響曲第4番に、まだ魔境があることを知る。


◆リッカルド・ムーティ指揮シカゴ交響楽団 公演概要はこちら>>>