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2016/10/31 2016:10:31:21:50:48

オレリー・デュポン「ボレロ」を語る 
最後に信じられないセンセーションが起こるダンス
踊りながら、疲れてくるのを待ち望んでしまうの。


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  バレエ・ファンには嬉しいことに、パリ・オペラ座バレエ団の芸術監督に就任後もオレリーは踊りを続けている。オペラ座のダンサーたちに曖昧さや疑問を生じさせぬよう、例外はあるものの、基本的に海外で踊ることにしていると語る彼女。来年2月の行き先は東京だ。パリ・オペラ座の劇場では踊らずじまいとなったモーリス・ベジャールの『ボレロ』を、東京バレエ団とともに踊る。

 この作品を彼女が初めて踊ったのは、引退年から遠くない2012年。オペラ座のツアー先、ニューヨークのリンカン・センターだった。

「ビデオでは見たことがあったけれど、実際に初めて『ボレロ』が舞台で踊られるのを見たのは、シルヴィ・ギエムがオペラ座のガラに招待された時でした。私はまだ若かったけれど、自分もこれを踊りたい! という強い思いが生まれ、その時から、踊っていいという許可が出るまで、じっと待っていたんですよ。それだけに、これ以上ないというほど舞台を満喫することができました。経験、成熟が要求される作品なので、若いダンサーが踊るのは良いこととは思えません。この時の私は、『ボレロ』に取り組むのに相応しい年齢になっていました。人生って、よくできていますね」

 初舞台の前、ローザンヌでモーリス・ベジャール・バレエ団のジル・ロマンと稽古をした。彼からは正確さ、そして音楽性を強く求められたそうだ。 

「ラヴェルの曲にのせて踊るのは、素晴らしいことです。これは肉体的にとても疲れるダンス。でも、最後には信じられないほどのセンセーションが得られることがわかっているので、踊りながら疲労に至るのを待ってしまうんですよ。踊っていて、あるところまで来るとトランス状態に陥って、もう何も思い出せないという疲労の極みに至ります。このセンセーションは経験しない限り、その存在すら想像できないというもの。それゆえに『ボレロ』を一度踊ると、それを知る前のときのようには踊らなくなります」

 音楽と振付が同等の力強さで互いに影響を与え合う、この 両者のパーフェクトなミックスにオレリーは神聖さを感じるそうだ。この作品は自分にとって素晴らしい贈り物。踊らずじまいでダンサーのキャリアを終えていたら、大切なことを逃したことになっていたと彼女は手放しで『ボレロ』を賛賞する。 

 あのセンセーションを再び感じたいと待ち焦がれているだけに、来年東京で再び『ボレロ』を踊る機会を得られたことが心から嬉しい。

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「以前踊った時から年齢を重ねたので、自分の体がどう反応するのだろうかというのも興味深いですね。この作品はとてもパーソナルなものなんです。なぜかというと、ある箇所に至ると、もう疲れ切ってしまっていて嘘をつけなくなり、まるで裸のような状態になるの...。それで踊るダンサーによって、まったく違う『ボレロ』になるのですね。それって、とても面白いことです。これは肉体的にとてもきつい作品なので、準備が必要。 1週間でやろうと思ったら、怪我をする可能性が50%あります。だから公演前に1か月半かけて、毎日少しずつ稽古をして行こうと思っています」

 コスチュームはとてもシンプル。ニューヨークで踊った時は長髪をポニーテールに結っていたが、今度の舞台ではショートヘアで踊る。その研ぎ澄まされた姿は、彼女のダンスにより力強さをプラスするのではないだろうか。乞うご期待だ。
 
 


インタビュー・文/濱田琴子(ジャーナリスト、在パリ)



photo: Sophie Delaporte(portrait), AFP=時事(stage)


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