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2017/09/19 2017:09:19:09:30:00

【ハンブルク・バレエ団】ダンサー・ファイル② アリーナ・コジョカル

物語の瞬間を、観る者の心に深く刻みつける演技力

 2016年のハンブルク・バレエ日本公演で「リリオム−回転木馬」を踊ったアリーナ・コジョカルのことを、私はいまなお鮮明に覚えている。細やかな心理描写を積み重ね、人物の心情を描きだすノイマイヤーの作風に、コジョカルの個性が見事に呼応し、一瞬一瞬が強く心に刻み込まれる舞台だったからだ。

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「椿姫」より photo:Kiran West


 コジョカルの魅力はまず、豊かな音楽性とみずみずしい感性である。作品や共演者、そのときの心模様や観客たちの反応で、音の取り方や表情が絶え間なく変化していく。それが演じる役柄に生命力を与え、舞台に奥行きを生み出す。
 
 しかし、あの日の「リリオム」では、コジョカルの演技はもはや、自然とか、生き生きというレベルを遥かに超えて、観る者の胸に激しく迫った。終幕、コジョカル演じるヒロイン、ジュリーは、一日だけ地上に戻ったリリオムと再会する。彼が戻っていることなど知る由もなく、その姿を見ることもかなわない。だが、ジュリーは彼の存在に気がついている。二人の間にある魂の結びつきが観客たちにも生々しく感じられたのである。
 
 今回コジョカルが演じるのは「椿姫」。世界中の名だたるスターダンサーが踊りたいと望み、幾多の名演を生んだノイマイヤーの代表作である。いまや第二の本拠地ともいえるハンブルク・バレエ団で、円熟期を迎えつつあるコジョカルがどのような舞台を見せてくれるのか。その日が待ち遠しくてたまらないのは、きっと私だけではあるまい。

柴田明子(バレエ評論家)



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