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2017/09/22 2017:09:22:16:36:43

【ハンブルク・バレエ団】ダンサー・ファイル③ アレクサンドル・リアブコ

魂が震えるような瞬間を生み出す、傑物ダンサー

 アレクサンドル・リアブコの踊りは観る者の想像力をかきたてる。たとえ物語のない作品であっても、さまざまな風景や思いが脳裏に浮かび、私たちの世界は広がり、心が豊かに潤う。けれども、ときにそんな稀有な美点をも凌駕してしまうのが、彼の演技力である。いや、演じているのではなく、リアブコはリアブコとして舞台にいるだけなのかもしれない。まさに役を生きているとしか思えないのだから。
 
 とりわけ、2005年のハンブルク・バレエ来日公演「ニジンスキー」は、私にとって衝撃的な舞台だった。

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「ニジンスキー」より photo:Kiran West

 
 幕開け、サンモリッツのホテルから、時代は一気に遡る。栄光の日々。ディアギレフとの確執。そして戦争が始まる。舞台が進むに連れ、リアブコと作品は一体となっていく。いま私たちの目の前にいるのはニジンスキー本人で、私たちは彼の人生を赤裸々に観ているのだ。それゆえ、ニジンスキーの栄光を、苦悩を、葛藤を、痛いほどに感じる。まるで、私たち自身までもがニジンスキーになったかのように。そして終幕、舞台はサンモリッツのホテルに戻る。私たちはリアブコとともにニジンスキーの人生を駆け抜け、いま、この場にいる意味を知る。そしてリアブコの、魂を投げ出すかのような激しい踊りを前に、もはや涙なくしてはその姿を観ることができない。
 
 今回リアブコは再び、伝説のダンサー、ニジンスキーとして舞台に立つ。あの、魂が震えるような瞬間にまた立ち会えるのかと思うと、いまから興奮せずにはいられない。

柴田明子(バレエ評論家)




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