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2013/04/22 2013:04:22:18:49:24

<マラーホフの贈り物>いまボリショイでひときわ輝く若手-スミルノワ&チュージン

13-04.22_01.jpg 6年間の改修工事を終えて再開なったボリショイ劇場で、今ひときわ輝く若手ダンサーがオリガ・スミルノワである。ワガーノワ・バレエ・アカデミー出身で、在学中から英ロイヤル・バレエ・スクールとの合同公演などに出演して注目されていた。2011年、ワガーノワ・アカデミー卒業と同時にボリショイ劇場に採用された。
 ボリショイではかつての名花マリーナ・コンドラーチェワに師事。2011/12年の最初のシーズンから「眠れる森の美女」のリラの精、「ラ・バヤデール」のニキヤ、「ファラオの娘」のアスピチアなどの主要なレパートリーを踊ったほか、昨年11月、17年振りに再演されたグリゴローヴィチの「イワン雷帝」で皇妃アナスタシヤを演じて高く評価された。
 スミルノワは透明感のある、清楚なバレリーナだが、同時に確かなクラシックの技術とそれに裏打ちされた豊かな演劇性を備えている。彼女が踊るマスネ―の「タイス」(振付ローラン・プティ)を観たアンドリアン・ファジェーエフ(現ヤコプソーン・バレエ芸術監督)は彼女を「ペテルブルグ流派の精髄、驚嘆すべきラインと彫像のように美しい容姿、深い内面性」と絶賛している。
 彼女はモスクワ音楽劇場から移籍したセミョーン・チュージンと共演することが多く、昨年5月にボリショイがバランシンの「ジュエルズ」を上演したとき、「ダイアモンド」で彼とパートナーを組んで、初演で踊る栄誉に浴した。10月にもバランシンの「アポロ」(ボリショイ初演)でそれぞれアポロとテルプシコレを踊って大成功を収めた。
 今回、彼女は日本で初めてオデットを踊ると言う。モスクワではまだ「白鳥の湖」を踊っていないから、湖の情景だけとは言え筆者としては日本の皆さんが羨ましい限りである。


13-04.22_02.jpg 対するチュージンは03年にノヴォシビルスクのバレエ学校を卒業後、ソウル、チューリッヒで研鑽を積み、08年からスタニスラフスキー及びネミロヴィチ=ダンチェンコ記念モスクワ音楽劇場バレエで活躍した。11年、当時音楽劇場のバレエ監督だったフィーリンがボリショイに転じるに際して、チュージンもまたプルミエ・ダンサーとして移籍した。均整のとれた「アポロ」的な容姿と華麗な舞踊テクニックの持ち主で、特に美しい爪先と足さばきは往時のフィーリンに匹敵する。
 筆者はチュージンがまだ音楽劇場在籍中の10年3月、在モスクワ日本大使公邸で彼に会う機会があった。そのときフィーリンが「詩人チュージンは...」と彼をからかい、チュージンが「違うよ~」と少年のように拗ねていたのが楽しい思い出になっている。「ショパニアーナ」の詩人のようにノーブルな役こそ彼にふさわしいと思われたし、事実、移籍後は上述のバランシン作品のほか「ジゼル」のアルブレヒト、チャイコフスキーの三大バレエの王子など典型的なダンスール・ノーブル役を演じている。
 ところが昨年末、ボリショイで初演された子供向けバレエ「モイドディル」(穴が開くまで洗え、という意味)で、チュージンが主役のザマラーシュカ(泥んこ小僧)を演じるのを見て驚嘆した。彼は見事に泥んこ小僧になりきり、フィナーレでは観客席の子供たちと一緒になって歓声を上げながら踊っていた。彼の「詩人」とは古典バレエであれ、子供バレエであれ、ひたすらバレエの世界にのめり込んでゆく純粋無垢さにあったのだ。その意味でチュージンは、現在のボリショイが最も求めている男性ダンサーなのかも知れない。


赤尾雄人(バレエ研究/在モスクワ)

photo:Kiyonori Hasegawa(Chudin)