2017/06/21 2017:06:21:17:06:01[NBS最新情報]
会話を楽しむように、舞台でお客さんを巻き込んでいきたい
『ジゼル』のアルブレヒト、アクラム・カーン振付『ジゼル』のヒラリオンなど、今シーズン立て続けに重要な役に抜擢され注目を集めている猿橋賢は、関西育ちの25歳。役ごとにまったく違う表情を見せて観客の心をつかんでやまない、まさに生粋のエンターテイナーだ。
もともと「姉のバレエの発表会で同年代の男の子たちが持っていた剣ほしさに始めた」というバレエ。10代の頃は色々な葛藤もあったというが、17歳で奨学金を得てイングリッシュ・ナショナル・バレエスクールに留学してからは、腹をくくってバレエに取り組み、のめり込んでいった。ただし全て順風満帆というわけではなく、卒業を控えた3年生の時にバイク事故にあい、大怪我をしたことも。周囲が就職を決めていく中、焦りながらもリハビリに耐えて半年ほどで復活し、見事ENBへの入団契約を獲得した。
昨年にはジュニア・ソリストに昇進し、ロホからも大きく期待されている猿橋。「これからは重要な役を当たり前にやっていけるダンサーにならないといけないなと思っています。以前は大きな役をもらうと一杯一杯になってしまうことが多かったんですが、最近は余裕を持って舞台に立てるようになってきたので、これから自分の違った部分を伸ばしてもっといいダンサーになって、お客さんにより楽しんでもらえるようになりたいですね。そして舞台に立つ時には、自分自身が楽しむことにも重点を置いています。自分は会話が好きなのですが、踊りはある意味、時にお客さんをも巻き込むような会話だと思っていますから」
パリ・オペラ座公演の初日でも披露した、"悪い奴だけど憎めない"ランケデム
そんな演技をこよなく愛する舞台人猿橋にとって、『海賊』のランケデムは、演じていて楽しく、やりがいのある役の一つ。「悪いやつだけど憎めない、おもしろい役どころです。今はもうすんなり役に入っていけますが、初めて踊った時は"ここでコンラッドがこうきたらこういう反応しよう"とか、たくさんのバリエーションを考えてシャワーの中でフル演技していましたね(笑)。やはり市場を仕切っているボスなので、ヘコヘコしてはダメだけれど、海賊のコンラッドに対しては自分より力もあるから、あまり強く出すぎないように...などと色々考えて踊っています。ただあまりにも自分の頭の中で全てを決めてしまうと、振付になってしまって感情が伝わらないと思うと思うので、毎回の舞台で少しずつ変えてみたりもします」。昨年のパリ・オペラ座ガルニエ宮での公演では、初日のタマラ・ロホ主演日に堂々ランケデム役を踊った猿橋。「夢のような経験でした」と振り返るが、これは彼が踊る味のあるランケデムがそれだけ高く評価されていることの証であり、なるべくしてなったことといえるだろう。
ENBの躍進ぶりと実力を、日本のお客さまに見て、楽しんでもらいたい
ロホが監督になって以来、大きな変革を経てきたバレエ団だが、その全てが自分の成長の糧になってきたという猿橋。「今のENBは、将来"あの時のENBはすごかった"と語り継がれるようなカンパニーになってきていると思うので、その中で踊らせてもらっているというのは光栄なことです。そして今回日本で踊るというのは、やはり思い入れのある故郷ですから、自分にとって特別なものがあります。前回2001年の日本公演から、ENBがどれだけ変わったのか、そして、カンパニーに今どれだけの実力があるかを自分の国の観客の皆さんに見せられるのは本当に楽しみです。謙虚に自分のできることを精一杯やって、お客さんに楽しんでもらえるよう、盛り上げていきたいですね」
photos:ASH