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2015/06/01 2015:06:01:23:02:37

シュツットガルト・バレエ団 現地公演レポート!
 今週の土曜日(6/6)から一斉前売りが開始されるシュツットガルト・バレエ団公演。この5月に現地の州立歌劇場で公演を鑑賞された舞踊評論家の高橋森彦さんが、日本公演でも活躍が期待されるフレッシュなダンサーたちと、ガラ公演で上演されるジョン・クランコ作品を中心にレポートを寄せてくださいました!

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 ドイツ南西部バーデン=ヴュルテンベルク州の州都シュツットガルトは同国屈指の工業都市にして自然も多く景観のきれいな街である。中央駅から程近い宮殿広場にある州立のオペラハウスは、石造りのしっかりした構えを誇り、芝生と噴水のある池を前に悠然とたたずむ。ここがジョン・クランコ(1927〜1973年)の傑作群によって世界に名をとどろかせるシュツットガルト・バレエ団の本拠地だ。クランコは45歳の若さで亡くなるが、シュツットガルト・バレエ団は彼の作品を財産としつつ創造的なカンパニーとして躍進を続ける。


 さる5月11日夜、現地でクランコ作品によるミックス・プロ「ALLES Cranko!」(オール・クランコ!)を観劇した。クランコといえば『オネーギン』『じゃじゃ馬ならし』といったドラマティックな全幕バレエによって名高いが抽象的な作品でも卓越した音楽性を示し秀作が多い。ここでは、おなじみのスターから注目の若手まで多士済々のダンサーたちの活躍をご紹介する。

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「イニシャルR.B.M.E.」


 日本でも人気の高いアリシア・アマトリアンフリーデマン・フォーゲルは、幕開けの『フルートとハープのための協奏曲』(音楽:モーツァルト、初演1966年)において、軽やかな調べにのせて息もぴったりに踊った。絵に描いたような美男美女コンビに落ち着いた大人の雰囲気も備わってきた感がある。フォーゲルが地元出身ということもあるのかカーテンコールでは一段と熱烈な拍手が送られていた。

 アマトリアンと一緒に『オーパス 1』(音楽:アントン・ヴェーベルン、初演1965年)を踊ったのが実力者のジェイソン・レイリー。アンサンブルに掲げられたりする場面など「別格」の存在感が漂う。踊りから醸し出される精神性の高さにも圧倒されざるを得ない。新進プリンシパルのエリサ・バデネスも目を惹いた。『フルートとハープのための協奏曲』において優美・繊細に音楽と戯れる。昨年4月に『ジゼル』の表題役を踊るのを観る機会があったが、その時も表情豊かな演技と強靭なテクニックが際立っていた。


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「ホルベアの時代より」ミリアム・カセロヴァ、コンスタンティン・アレン


 今秋行われる日本公演の〈シュツットガルトの奇跡〉でも上演される『ホルベアの時代より』(音楽:エドヴァルド・グリーグ、初演1967年)は男女のパ・ド・ドゥ。バロック的な様式を取り入れた音楽とオフ・バランスや流麗なリフトも織り交ぜた創意に富む振付が響きあう。この日踊ったのは中堅のミリアム・カセロヴァと新鋭コンスタンティン・アレン。シャープさとしなやかさを兼ね備えるカセロヴァと、背が高く手脚も長いのに安定感抜群のアレンが隙のないコンビネーションを発揮した。


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「イニシャルR.B.M.E.」アルマン・サジャン、ダニエル・カマルゴ、ミリアム・サイモン、アンナ・オサチェンコ


 『イニシャルR.B.M.E.』(音楽:ヨハネス・ブラームス、初演1972年)は、30名以上が出演するシンフォニック・バレエであり、リチャード・クラガン、ビルギット・カイル、マリシア・ハイデ、エゴン・マドセンというクランコの創造を刺激した偉大なダンサーに捧げられている。第1楽章では若いダニエル・カマルゴが鮮烈だった。跳躍の高さといいポーズの美しさといい絶品で舞台袖にはける際に拍手喝采が起こる。男女3組による第2楽章にはアンナ・オサチェンコヒョ・ジョン・カンも登場。オサチェンコはベテランらしく音楽におのずとなじむ踊りで魅せる。カンは昨年4月に初演を観ることのできたデミス・ヴォルピ作品『アフターマス』での踊りっぱなしのソロも圧巻だったがフィジカルの強い踊り手だ。なお第3楽章は今秋〈シュツットガルトの奇跡〉でも上演。この日は主軸をフォーゲルとミリアム・サイモンが踊った。叙情的で胸に染み入る名場面である。


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「イニシャルR.B.M.E.」 ミリアム・サイモン、フリーデマン・フォーゲル


 クランコが世を去り40年以上が経つけれども、大いなる遺産に新世代の若々しいエネルギーが注入され、伝統が受け継がれているのを実感した。『オネーギン』『ロミオとジュリエット』〈シュツットガルトの奇跡〉という珠玉の演目による日本公演が待ち遠しい。


(舞踊評論家 高橋森彦)

photos:Bernd Weissbrod



シュツットガルト・バレエ団2015年日本公演公式サイト>>>