インタビュー 一覧
ナタリア・マカロワ インタビュー
「ラ・バヤデール」開幕まで、あと3日。初日を前に振付家のナタリア・マカロワさんに、マカロワ版「ラ・バヤデール」はどのように創られたのか、そして東京バレエ団の印象についておうかがいしました。
■マカロワ版「ラ・バヤデール」の制作について
アメリカのダンサーたちに、ロシアで学んだ自分のクラシック舞踊の知識、アカデミックなスタイルを教えるのに最適だと考え、1974年に「幻影の場(影の王国)」のみ、アメリカン・バレエ・シアター(ABT)で上演したのが、「ラ・バヤデール」の全幕を振付するきっかけとなりました。このときはひとつひとつのステップ、指一本一本の動きまで、すべて自分が動いて教えました。苦労の甲斐あって、批評家に「マカロワの奇跡」と賞賛される仕上がりとなり、1980年「ラ・バヤデール」の全幕を新演出へとつながりました。
私はワガノワ・バレエ学校時代から、この作品の持つエキゾティックでドラマティックなところが大好きでしたが、一方で古めかしさも感じていたのです。そこで、自分が演出するにあたっては、プティパの原振付の優れた箇所は残し、物語にあまり関係していない箇所を削除し、4幕から3幕へとまとめました。また、長い間上演されていなかった(第4幕の)ソロルとガムザッティの結婚式の場面、寺院の崩壊を、新たな振付でよみがえらせました。これが私の演出の大きな特徴といえます。
復活させた場面の音楽は、新たにジョン・ランチベリーに依頼しました。当時、ソ連から全幕の楽譜を入手することは、困難を極めましたし、プティパがミンクスと共同作業を行ったように、私もパートナーが必要だと考えたのです。演出、振付、音楽、そして美術にまで自分で関わったため、実に2年にもわたる大掛かりなプロジェクトとなりました。自分の記憶とプティパ時代の作品が描写された批評などを参考に全幕を再構築したのですから、これは本当に大変な取り組みでした。
初演の時には、私もニキヤを踊る予定だったのですが、ゲネプロの際、振付家・演出家としてニキヤの衣裳を着たまま、客席で指示を出し、自分の出番になると慌てて舞台に上がって踊るということを繰り返していたので、膝を痛めてしまい、途中で降板せざるを得なかったのが残念で仕方ありません。
このように2年にわたって心血を注いだこのプロダクションが世界各地のバレエ団で上演され、多くの方に愛されているのを本当に幸せに思っています。
■東京バレエ団の印象
リハーサルが始まって2週間が過ぎましたが、団員の皆さんが私の指導から、すべてを学びたいという姿勢でいてくれるのでリハーサルの様子にも満足しています。私も自分の持っているものをひとつでも多く伝えようと思っています。
リハーサルでは役柄の解釈だけではなく、細かいことまでダンサーと話し合ったりしていますが、とてもレベルの高いダンサーたちですね。皆さん、このクリエイティブな時間を楽しんでいるようで、私もワクワクしています。
今は身体をもっと表現力豊かにいかに動かすかということ、心の中で強く感じている感情をいかに豊かに表現し、奏でるかということを指導しています。
ぜひ、一人でも多くの方に私と東京バレエ団の皆さんが創り上げた舞台をご覧いただきたいですね。
オルガ・エヴレイノフ インタビュー2
─ニキヤ、ガムザッティ、ソロル役の重要な資質は?
どの役柄もまず揺るぎないテクニックが必要です。ニキヤは視覚的に美しいライン、そして重要なのは音楽性と官能性、ミステリアスであること、さらにまるで歌うかのように完璧に踊ること。ガムザッティにはパワーと情熱、そしてエキゾティックな面、猫のように流動的に踊ること。また、この2役を踊るダンサーはともに、素晴らしい役者でなければなりません。ソロルは、男らしく、エレガントで、ロマンティックであること。彼は謙虚で、まるでジャングルにいる動物のように強く、またそのように動く資質も必要です。
─マカロワ版の魅力はどこにあると思いますか?
マカロワ版は数ある演出の中でも最も成功を収めている作品だと思います。1877年に初演されたプティパによるオリジナルは、とても長大で現代の美学には沿わないものですが、マカロワ版はそのオリジナルから東洋的なエキゾティシズム、ロマンティックな概念、クラシック・バレエという3つの重要な要素を一つも失うことなくコンパクトにまとめ上げ一体化させています。また、1917年のロシア革命以後失われていた結婚式、神殿の崩壊というドラマティックな最後の場面を復活させたのもマカロワ版の素晴らしい点です。
─これまでいくつのカンパニーでマカロワ版の振付指導を行ってきていますか?
東京バレエ団を含めて11です。実は東京バレエ団の公演は1989年にミラノ・スカラ座でバレエ・マスターをしていたときに『月に寄せる七つの俳句』を、2001年にブラジルでマカロワ版『白鳥の湖』の振付指導をしていたときに『ザ・カブキ』を観たことがあります。『月に寄せる』は幕開きのボートで男性が登場する場面が美しく印象的で、日本人の精神を表した詩的な作品だと思いました。また、『ザ・カブキ』は本当に素晴らしい作品で、特に男性のコール・ド・バレエはとても力強く、本当に圧倒されました。ですから今回『ラ・バヤデール』を指導できることをとても楽しみにしていました。
オルガ・エヴレイノフ インタビュー1
5月12日から28日までの17日間にわたり、「ラ・バヤデール」の振付指導をしてくださった、オルガ・エヴレイノフさん。
リハーサルの合間を縫って行われたオルガさんのインタビューを、2回にわたりお届けします。
─まずエヴレイノフさん自身の経歴について教えてください。
ワガノワ・バレエ学校を卒業してから、早い時期に足を故障してしまったことなどもあって、ダンサーとしてのキャリアは長くありませんでした。1982年にミーシャ(ミハイル・バリシニコフ)に呼ばれてアメリカン・バレエ・シアターで指導を行い、今では約30年この仕事を続けています。振付指導はダンサーから返ってくるものも多く、とてもやりがいがあります。たとえ同じ振付でもダンサー一人ひとり異なるので、ダンサーを信じて一緒になって表現を形作り、時には励まし、たとえ果てしなくとも理想のゴールを示し続けてあげることが大事です。それが不可能に到達する唯一の方法だからです。本当に大変ですが、ダンサーの成長の様子が見られるとやっていてよかったと思えます。
─9 月の初演に向けて連日リハーサルが行われていますが、様子はいかがですか?
とても順調です。ダンサーは皆、やる気に溢れ、規律正しく、作品に興味を持って取り組んでくれています。特に女性ダンサーはステップを覚えるのがとても早いので、影の王国を踊るのはそれほど難しくはないと思います。ただ、皆さん少し恥ずかしがりやなので、感情表現や普通では起こりえない場面を演じる際の表現など、このリハーサルの間に徹底的に指導やサポートを行っていきたいと思っています。
─主役を踊るダンサーの印象はいかがですか?
3キャストとも強い個性を持った、異なるタイプの素晴らしいダンサーです。もちろんこういった作品は、ステップをこなすだけではなく、それぞれのダンサーが違う方法で、それも役柄の心理や外見的特徴などから全体を理解しなければなりません。テクニック的には全く心配していませんし、演技やマイムなどはこれから指導を行っていくので、きっとうまくいくと思います。