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8月の最新情報一覧

リード・アンダーソン インタビュー

芸術監督 リード・アンダーソン インタビュー



シュツットガルト・バレエ団という名前にあまりなじみがない人はまず、このサイトに載っている彼らの舞台写真を眺めてみて欲しい。その写真からは、ダンサーひとりひとりが、このカンパニーで踊ることに誇りと喜びをもって臨んでいることがハッキリと読み取れるはず。会社経営が芳しい状況にあるかどうかを知りたければ、社員の顔つきを見ればいいと言われるのと同じように、このカンパニーが脂ののりきった状況にあることはこうしたダンサーの表情から明らか。地元の観客もそれが分かっているからこそ、年間の人気演目はほぼ完売。他の券売も8割を切ることはないという。このカンパニーのトップの座について今年で12年目となる、芸術監督のリード・アンダーソンもいまの状況に少なからず満足していると語る。


―――シュツットガルトのプリンシパルたち多国籍で個性的で、みな自分だけのユニークな才能をのびのびと開花させている。それはあなたの指針ですか?

おっしゃるとおり、いま現在カンパニーには約30ほどの国籍のダンサーが集まっています。だから我々はダンス界の国連ですね(笑)。でも彼らはある日突然、世界のどこかからやってきて、オーディションを受けるわけではない。そうではなく多くの団員はカンパニー付属のスクールからそのまま成長して入団してくる。つまり私はほとんどのダンサーをティーネージャーの頃から知っているわけです。すると子育てと同じ要領で、この男の子はここが優れている、この女の子はここが優れているということが、時とともに次第に分かってくる。そうしたときに決してAの才能を持つ子をBに変えようとしたり、Bの長所を持つ子にAを押しつけたりしてはいけません。私の思想は一人一人のダンサーを、まったく別の特別な個人として尊重して育てること。これは私の恩師でありカンパニーの創設者であるジョン・クランコから受け継いだ理念でもあります。


―――そのクランコによる代表作のひとつである『オネーギン』を今回は東京で上演されます。

少しひいき目が入っているかもしれませんが、私はこの作品はバレエ史上最も美しい全幕物だと思っている。私自身、かつてダンサー時代にオネーギン役を踊りましたが、オネーギンと相手役のタチアナが踊る最後のパ・ド・ドゥは、この世でダンサーが味わうことのできる最も素晴らしい体験のひとつ。あの感情は......、いまでも思い出すだけで体の芯が震えます。本当に国籍も人種も宗教も政治も越えて、誰もが心から感動することができる壮絶な愛の物語です。

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―――もうひとつ東京で上演されるのは、非常に斬新な演出で人気の『眠れる森の美女』。

私自身このマリシア・ハイデ演出版のプロダクションが大好きです。まず幕が開いたときに目を奪われるのが、美術家ユルゲン・ローズによるセットの美しさ。プロローグでは春、一幕では夏、二幕では秋、三幕では冬、と背景が次々に変わっていき、その木々や花々の変化とともに私たちも時間の流れを体感することができる。それに何よりこの『眠り』の演出で素晴らしいのは、カラボスの描き方。普通のカンパニーではプリンシパルの男たちは皆、王子役を演じたがるのですが、ここではみんなカラボスをやりがたるぐらいです(笑)。とにかく『オネーギン』にしろ『眠り』にしろ、一日として同じ演目を同じプリンシパルが踊ることがありませんので、ぜひ素晴らしく個性的なダンサーたちの魅力を、存分に楽しんで頂ければと思います。

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シュツットガルト・バレエ団 「眠れる森の美女」レビュー

演劇・舞踊ライターの岩城京子さんが、7月にシュツットガルトを訪ね、シュツットガルト・バレエ団2007/2008シーズンの最終公演であるハイデ版『眠れる森の美女』を観劇。芸術監督リード・アンダーソン、プリンシパルのアリシア・アマトリアン、フリーデマン・フォーゲルを取材してくださいました。日本で取材を行ったプリンシパルのジェイソン・レイリーも含め、5回にわたり岩城さんのシュツットガルトレポートを掲載してまいります。初回は、ハイデ版「眠れる森の美女」レビューをお届けします。



光と闇のドラマティックな対決を見事に描く、ハイデ版『眠れる森の美女』


岩城京子(演劇・舞踊ライター)

 『眠れる森の美女』を観ていてふと『スター・ウォーズ』を思い出したといったら、頭がおかしいと笑われるだろうか。だがシュツットガルト・バレエ団による87年初演のマリシア・ハイデ版は、どこかあの映画のスリリングさを思わせる要素がある。そもそも芸術監督のリード・アンダーソンも取材において「これは絶対善と絶対悪の対決を描く物語だ」と嬉々として語っていた。だからこそここではリラの精率いる善の世界とカラボス率いる悪の世界の物語が、対等に、表裏一体に描かれる。光の引立て役として闇があるのではなく、光と闇がほぼ同等に描かれるのだ。そしてシュツットガルトの観客も、この陰陽のドラマティックな対決物語にやんやと拍手を送っている。今シーズン、シュツットガルト本拠地のオペラハウスで本作を上演するのは既に13回目だというが、筆者が観劇した当日も「売り切れ」の札がボックスオフィスに掲げられていた。


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カラボス:ジェイソン・レイリー

 この『眠り〜』の何がそんなに、他のバージョンと違ってスリリングなのか。その筆頭理由にあげられるのは、悪の権化カラボスの演出法にある。プロローグ、善の妖精たちのパ・ド・シスのあと、オーロラ姫洗礼の宴に招かれなかったことに怒りを覚えたカラボスが、冷ややかな妖気をたたえ中2階のバルコニーにせり上がる。そして天空に向かって一笑、まるでパンクロッカーのような雄叫びをあげたかと思うと、5メートルはあると思われる漆黒のマントを翻し式典の場になだれこんでくる。美しい洗礼式の場が、一瞬にして闇の世に。背筋が震えるほど美しく大胆な演出だ。当日、この役を演じていたジェイソン・レイリーは息を呑むほど不敵な演技でこの場を演じ、観客からショーストッパーな喝采をさらっていた。

 さらにこのハイデ版の特徴として挙げられるのは、ユルゲン・ローズの衣装と美術により彩られる、絵構図の美しさ。プロローグの幕が開くと、そこには抜けるような青空を体現する衣装に身を包んだダンサーたちが。その青一色のキャンバスに見惚れていると、カラフルな善の妖精たちが一人また一人と登場し、レモンイエロー、ゼラニウム、ライラックといった美しい色を舞台上に乗せていく。また第三幕のカラボスとデジレ王子の対決の場。ここでは歌舞伎の大立ち回りを思わせるダイナミックな戦いの振り付けが採用され、カラボスの手下たちの扮装にも隈取りを思わせる化粧が施される。なかなか奇抜な考案だ。

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 もちろんこうした素晴らしい美術、衣装、演出がいくらあろうとも、バレエの場合、ダンサーが良くなければすべてが台無し。だが現在のシュツットガルト・バレエではそのような心配は皆無。当日、主役のオーロラ姫と王子を踊ったアリシア・アマトリアンとフリーデマン・フォーゲルは世界でもトップクラスの実と華をもつ説明不要のスターダンサー。他のソリストに目をやっても「彼も彼女もいつかプリンシパルになるのでは」と思えるイキイキとした覇気のあるダンサーが思いのほか多く、舞台のエネルギー値が一定以上落ちることがない。芸術監督のアンダーソンが「いいダンサーが内部ですくすく育っているから、今は公開オーディションをする必要がないんだよ」と満足そうに語っていた意味がのみこめた。

 パリ・オペラ座やロイヤル・バレエ団ほど日本では知名度やブランド感はないものの、今、本当に観るに値する古典バレエを生み出しているのはこのシュツットガルト・バレエかもしれない―――。3時間のスリリングな観劇後、木々のざわめきしか聞こえないドイツの穏やかな小道を興奮気味の歩調で歩きながら本気でそんなことを考えた。

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シュツットガルト州立歌劇場~『眠れる森の美女』の幕間~(岩城京子さん撮影)

シュツットガルト・バレエ団Blogスタート

11月に3年ぶりの来日を果たす、シュツットガルト・バレエ団。
このページでは、現地レポートや舞台映像をなど、日本公演に向けての最新情報をお届けいたします。
開幕まで、ご愛読ください。

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