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2012/01/05 2012:01:05:15:15:08

<ニジンスキー・ガラ>東京バレエ団ダンサーの見どころ(1) 『牧神の午後』~"NHKニューイヤーオペラコンサート"より

2012年の幕開けを飾る、東京バレエ団は<ニジンスキー・ガラ>の初日まで1週間となりました。
舞踊評論家の高橋森彦さんに、<ニジンスキー・ガラ>に出演する東京バレエ団のダンサーたちへの期待、見どころを2回にわたって紹介していただきます。

第1回目は、1月3日に開催された「NHKニューイヤーオペラコンサート」において、『牧神の午後』の牧神とニンフ役を初めて演じた後藤晴雄と上野水香の2人を取り上げていただいています。
届いたばかりの3日の舞台写真と合わせてご覧ください。


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 新春恒例の「NHKニューイヤーオペラコンサート」が1月3日夜に行われた。今年で55回目を迎えた伝統ある催しである。東京・渋谷のNHKホールから全国に生放送されたためご覧になった方もいらっしゃるだろう。内外で活躍するオペラ歌手が集い、名作オペラのなかから愛をめぐるアリアを中心に歌って華やかに競演した。そこに一組バレエの参加があった。東京バレエ団が上演した『牧神の午後』である。

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 同作はフランス象徴派詩人マラルメの詩に触発されてドビュッシーが作曲した「牧神の午後への前奏曲」に伝説の天才舞踊手ニジンスキーが振付・主演したもの。ちょうど今から100年前に初演された。牧神が水浴びに来たニンフたちと戯れるエロティックで夢想的な舞踊詩だ。今回主演したのはともに初役となる後藤晴雄と上野水香だった。

 幕が開くと、小川の側の岩棚で休んでいる牧神が笛を吹いたり、ブドウをむさぼり食ったり、まどろんでいたりする。そこへやって来たニンフに欲情し交わろうとするも果たせない...。やがて残されたスカーフに体を当て自らを慰める――。牧神役の後藤は客席に対し横を向きながら左右に歩いたり、絵画的なポーズを取ったりしながら半獣神に成りきる。フルートに始まる気だるい調子のテーマにのせた所作の一つひとつがナイーヴで、匂い立つような色香もある。野性味たっぷりに半身獣の牧神を演じたと伝えられるニジンスキーの残照を感じさせつつマラルメ/ドビュッシーの生んだ牧歌的な詩情に富む世界に息づいていた。

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 ニンフ演じる上野の演技も新鮮だ。高々と掲げられる脚が代名詞ともいえる抜群の身体能力、高度なテクニックを誇る彼女がエジプト壁画もしくはギリシャ陶器の絵柄を参照したといわれる平面的なポーズや鋭角的な動きの連なる独特な振付を踊るということにイメージが湧きにくいかもしれない。けれども上野は振付の一つひとつを丁寧に噛みしめるかのように踊る。牧神に気付くも逃げ遅れ、絡め捕られそうになり、驚き恥らいながら逃れようとするさまが違わずに伝わった。抑えた演技のなか、ほのかな色気が立ちのぼる。

 開幕迫る<ニジンスキー・ガラ>でも両者はパートナーを変えて『牧神の午後』に主演する。上野は世界のスター、ウラジーミル・マラーホフと組む。奇才マラーホフと、どのような化学反応を起こすか楽しみにしたい。後藤はニンフ役をマラーホフや牧神を当り役にする名手シャルル・ジュドと共演し好評を得た井脇幸江と踊る。ベテラン同士ならではの深みある演技となるだろう。ふたりの個性息づく舞台を、この目でしかと味わいたい。


高橋森彦(舞踊評論家)


舞台写真:NHKニューイヤーオペラコンサートより (c)NHK/NPS



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