2011/12/20 2011:12:20:09:54:56[NBS最新情報]
2012年2月に開催される<アリーナ・コジョカル ドリーム・プロジェクト>に、ハンブルク・バレエ、プリンシパルのアレクサンドル・リアブコの出演が決定いたしました!(Bプロのみ)
リアブコは、Bプロでアリーナ・コジョカルと「椿姫」より、第3幕のパ・ド・ドゥを踊ります。
また、Aプロで未定となっていた、ロベルタ・マルケスとヨハン・コボーの演目も決定いたしました。
【12/20追記】
Bプロ「ザ・レッスン」の出演者は、ヨハン・コボー、アリーナ・コジョカル、ローレン・カスバートソンとなります。
コジョカルの新境地をみせる「椿姫」
デュマ・フィスの悲恋小説を原作とするノイマイヤー振付のバレエ「椿姫」には、主役の恋人たちの大きなパ・ド・ドゥが三つあり、ヒロインの衣裳の色からそれぞれ「赤」(あるいは紫)、「白」、「黒」のパ・ド・ドゥと呼びならわされている。「赤」は始めての出会いの後青年アルマンが、胸を突かれるほどの誠実さといじらしさで高級娼婦マルグリットに求愛する場面。「白」は、田舎の別荘で人々がはけた後の、白昼夢のような二人きりの時間。いずれも愛の愉楽の極みを描く、幸福な踊りである。
衣裳の色がそのままパ・ド・ドゥのイメージにつながるのが、いかにも細部にこだわり、完璧なディテールを積み上げてゆくことからしか生まれない作品の一貫性を信奉する振付家ノイマイヤーらしい。今回の公演で踊られる予定の「黒」に、そのことは先の二つの踊り以上に明らかである。ここにあるのは、観ていて胸をえぐられるような、愛の地獄ともいうべき趣きである。それまで大人であろうとしすぎたマルグリットと、子どもすぎたアルマンが、すべての夢と幻想がはぎとられた中で、剥き出しの身体と心をぶつけあう。苦悩を訴え、相手の不実をなじる激しい動きと、そうでありながら互いに求めずにはおられない、いやさかる情熱。再燃する愛。そこに、肺を病んだマルグリットの、不吉な死の気配が影を落とす。
アリーナ・コジョカルは、2011年10月にハンブルク・バレエに招かれ、シーズン開幕演目である「椿姫」全幕を初めて踊った。
若い頃から彼女は、何を踊ってもはっとさせる逸材だった。だが私たちがもう何度も目撃してきたように、ダンサー生命が危ぶまれたほどの大怪我から2009年にカムバックして以降は、そもそものダンサーとしての高い力量、繊細で可憐な個性や奔放といっていいほど自在な音取りに加えて、一つひとつの舞台に人生を完全燃焼させて、凄みさえ感じさせる別格のバレリーナとなった。気まぐれなパリの夜の社交界に君臨して、下心の見え隠れする賞賛も妬みも艶然と受け流し、掌を返したような蔑視と嘲笑に耐えて毅然と顔を上げるマルグリット、とりわけ「黒」を踊る機は、まさに熟していたのである。そして翌月には、ノイマイヤーが彼女のために振り付けた「リリオム」(劇的バレエの先駆者の一人であるケネス・マクミランも晩年に手掛けたミュージカル「回転木馬」の原作戯曲による)の世界初演にも主演した。理性ではコントロールできない恋愛心理の不条理を白日のもとにさらけ出すこの振付家の作風を、彼女はさらに深く心身に浸透させて東京にやってくるに違いない。
アルマン役としてアレクサンドル・リアブコがこの公演に参加するというのにも、心をそそられる。女王のごとき存在だったマルグリットが、なぜ物慣れぬ若者にすぎないアルマンと恋に落ちたのか?身のほど知らずともいえる素朴な求愛にほだされたというだけでは、答えにならない。思いつめた純真さがほとんど狂気に変わる一歩手前の、それを向けられた相手にも乗り移ってくる炎のようなもの。それを瞳と全身で表現できる数少ない踊り手が、リアブコなのである。