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2009/01/06 2009:01:06:19:33:18

ミラノ・スカラ座08-09シーズン開幕レポート~ガッティ指揮「ドン・カルロ」


オペラ・ファン注目のミラノ・スカラ座開幕! ガッティ指揮『ドン・カルロ』

 
 「スカラ座は若者に広く扉を開け将来の観客を育てるべきである」という総裁の強い意志で12月4日にスカラ座はアンテプリマ(プレオープニング)と称して26歳以下の若者にシーズン・オープニング(伝統のミラノ守護聖人サント・アンブロージョの祝日)に先駆けて『ドン・カルロ』を上演した。10ユーロで売り出されたチケットは瞬く間に完売し、大部分がスカラ座は初めてという若者たちで2000席が埋められた。しかし、やはりミラネーゼにとっては何といっても12月7日こそがシーズン・オープニングである。いつの間にかアンテプリマという言葉は姿を消し、公開ゲネプロに置き換えられていた。
 新鋭というにはすでに立派な経歴を持つミラノ出身の指揮者ダニエレ・ガッティがヴェルディの大作『ドン・カルロ』を振り、主要キャストもイタリア人ということに大きな期待が寄せられ初日の三日前からはボックスオフィスの前に当日券を買うための長蛇の列ができた。 もちろん2000ユーロの席は発売とともに完売している。劇場はミラノの花屋が全員集合して2000本の白いバラで装飾された。ところが開幕24時間前になって突然スカラ座はタイトルロールのテノール、ジュゼッペ・フィリアノーティの代役としてアメリカ人スチュワート・ニールが初日を歌うと発表した。この判断に対してフィリアノーティは突然殴打されたようだと声明を発表した。指揮者ガッティの強い要望でワシントンの契約も破棄して長い稽古をしてきたのに納得がいかないというのだ。リスナー総裁はチームが良い試合をするにはベンチに残る選手もいるし、劇場では良く起こることと軽くかわした。スカラ座ではパヴァロッティもドン・カルロでブーイングを受けているし、アラーニャがアイーダ上演途中で舞台を投げ出した事件も記憶に新しい。スカラ座シーズン・オープニングという高いハードルを乗り越えるための判断だったのだろう。
 今回の上演はイタリア語版の4幕仕立てである。演出家で装置もデザインしたブラウンシュヴェイグは白と黒を基調にした装飾のないすっきりした舞台を実現した。歴史上で実在する登場人物は肖像画を再現した1500年代の衣装を身につけているが、物語はいつの時代にも通じるという意味であえて様式化したのだそうだ。異端者の火刑の場で広場に集まった群衆は1940年代の衣装でフランコ政権下のスペインの民衆を表している。演劇の世界の演出家ということもあってかシラーの原作を想像させる場面も所々に見られる。ドン・カルロが初めてエリザベッタとフォンテンブローの森で出会った思い出や、カルロの親友として育ったロドリーゴとの思い出が子供の姿を使って再現される時にのみ、美しい色の背景が現れる。演出家はこの作品をドン・カルロとエリザベッタの愛の物語に終わらせず、世界を支配するほどの権力者でも孤独からは逃れられないという現実に焦点を当て、砂漠のような心と不安をモノトーンの壁で囲まれた装置で表現している。
 音楽だけでも3時間45分という大作をガッティの指揮は観客の注意をひきつけ通して初日を成功に導いた。今年はイタリア国内ばかりでなくパリのルーヴルとニューヨークで同時中継された。公演終了後には市庁舎で晩餐会が催された。1500年代の装飾を施した大広間に850人を招いての大晩餐会である。折からの経済危機でストが続く中、華やかなオープニングや贅沢な晩餐会に抗議する声も際立った。着飾った観客は80%が黒を基調にしたドレスで豪華さをおさえた簡素なデザインが多かった。これも経済恐慌の表われなのだろうか?

田口道子・在ミラノ

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ミラノ・スカラ座2009年日本公演

「アイーダ」
指揮:ダニエル・バレンボイム
演出:フランコ・ゼッフィレッリ

公演日:9月4日(金)、9月6日(日)、9月9日(水)、9月11日(金)
会 場:NHKホール

「ドン・カルロ」
指揮:ダニエレ・ガッティ
演出:シュテファン・ブランウンシュヴァイク

公演日:9月8日(火)、9月12日(土)、9月13日(日)、9月15日(火)、9月17日(木)
会 場:東京文化会館

※2009年3月前売開始予定! (詳細は決定次第、当HPにてお知らせいたします)