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2009/02/27 2009:02:27:10:07:42

カサロヴァ、ウィーン国立歌劇場の『カルメン』デビューで圧倒的な大成功!

 ヴェッセリーナ・カサロヴァのウィーン国立歌劇場における『カルメン』デビューが大成功だ。長い準備期間を経て、昨年6月にようやくチューリッヒ歌劇場ではじめて『カルメン』の舞台上演に臨んだ彼女にとって、今回は二つ目のプロダクションになる。さすがウィーンだけあって、ホセ・クーラ(ドン・ホセ)、日本でも同じ役を歌うイルデブランド・ダルカンジェロ(エスカミーリョ)、ザルツブルク出身で目下躍進中のゲニヤ・キューマイヤー(ミカエラ)、指揮はアッシャ・フィッシュ、と最高のメンバーを揃えての上演。立ち見席までがすべて売り切れの場内は、このうえなく熱気に包まれている(2月25日)。


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 ウィーンの現行版『カルメン』は不世出のカルロス・クライバー指揮、それにフランコ・ゼフィレッリ演出/美術による1978年12月制作のプロダクションで、エレナ・オブラスツォヴァとプラシド・ドミンゴの出演により大反響を巻き起こした名舞台。カサロヴァが登場したのは、その134回目の公演にあたる。
 チューリッヒでは、いわば身の丈にピッタリ合わせたマティアス・ハルトマン演出によるオート・クチュールであり、自由奔放にステージで動いていた彼女だが、30年前のウィーンの舞台では、お仕着せを着せられたような窮屈感があったのは事実だろう。それでも登場の「ハバネラ」で感じられたそのような危惧感は程なく消えて、「セギディリア」から幕切れにかけて自分のペースを掴んだようだ。(2回目公演からは、勿論このようなことは起きないはず)。


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 ところで、ウィーンでは長年に渡ってアグネス・バルツアがカルメンとして君臨しており、舞台狭しと暴れ回り、吼えまくる雌豹のような攻撃的なカルメンで高い人気を誇っていた。それに対して、独自のカルメン像を主張するカサロヴァは意図的に非常に抑えた、むしろ心理的深層でセヴィリアの人々から一目置かれている、というステージ・プレゼンスだから、ウィーンの古くからの観衆が多少は戸惑ったかもしれない。
 第二幕、ゼフィレッリによるリリアス・バスティアの酒場のセットはスペインの夜の暑く気だるい空気を見事に醸し出す。そこに街一番の伊達男、ダルカンジェロ扮するところのエスカミーリョが登場して大見得を切れば、ステージ上の群衆のみならず全客席を巻き込んで大歓声が上がる。続いてクーラによるドン・ホセの「花の歌」と来て、場内の温度がさらに一段と上がる。


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 第三幕でカルメンが自分の運命を予感する「カルタの歌」は、たいへん困難ながら重要な聞かせどころであり、カサロヴァ自身がもっとも力を入れている箇所でもあって、歌い終わった彼女に客席からブラヴォーの歓声と大拍手が出る。終幕、エスカミーリョからの求愛、そしてホセとの別れのもつれから死に至るシーンで、カサロヴァは驚くべき集中力を発揮して目くるめくフィナーレへと持ち込んでいった。延々と続くカーテンコール。
 ここで3月8日までに4公演を歌うカサロヴァとダルカンジェロが、その直後に揃って日本で上演する『カルメン』だから、ウィーンのハイ・テンションそのままに、圧倒的なステージになるに違いない。


山崎睦(音楽ジャーナリスト、在ウィーン)