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2009/11/10 2009:11:10:21:08:51

[ルグリの新しき世界]「ホワイト・シャドウ」リハーサル・レポート〔前編〕

お待たせしました! <マニュエル・ルグリの新しき世界>、Aプロ(ルグリ×ド・バナ×東京バレエ団 スーパー・コラボレーション)で上演される、新作「ホワイト・シャドウ」のリハーサル・レポートが届きました。
オーディションから最終日まで、数回にわたって稽古場を取材してくださった市川安紀さんのレポートは公演をご覧になる方必読です!

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 パリ・オペラ座での華やかなキャリアに一区切りをつけ、新たなステージへと歩み始めたマニュエル・ルグリ。「過去ではなく今を見せたい」と語る彼にとって、振付家パトリック・ド・バナとのクリエーションは、実に刺激的な作業であるようだ。ベジャール・バレエのソリストとして活躍し、ナチョ・デュアト作品の経験も多いド・バナについて、ルグリは「豊かな音楽性と独自の世界観を持つ振付家。とりわけダンサーを生かす術に長けている」と惚れこんでいる様子。となれば、世界初演となる『ホワイト・シャドウ』で、ド・バナがルグリ&東京バレエ団と共にどんな世界を創り上げてくれるのか、期待を抱かずにはいられない。
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 10月中旬、来日したド・バナとルグリによる女性キャストのオーディションを皮切りに、2週間を超えるリハーサルがスタートした。男性キャストについては8月にオーディション済みだが、「創作の最初の段階からダンサーは私にとって非常に大きな存在。レントゲン写真を撮るように、ダンサーの人間性も見るようなつもりで直感的に選んだ」というド・バナ。振付家にインスピレーションを与える精鋭たちが揃い、全神経を集中させてゼロからの創作に挑んでいく。ソリストはルグリ、ド・バナ、吉岡美佳、上野水香、西村真由美という強力な布陣だ。

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 ド・バナによれば、ホワイト・シャドウ(白い影)とは「生と死を繰り返しながら、永遠や調和にたどり着いたときに見えてくる世界」だという。うーむ、目指す高みは普遍的かつ深遠なるものらしい。だがそこに到達するには、極めて具体的で緻密な共同作業の積み重ねがあるのみだ。原始の記憶を呼び覚ますパーカッションのリズムから、激しくも叙情あふれる弦楽奏まで、多彩な音色に乗せて、起伏に富んだシーンがひとつひとつ創り上げられていく。

 自身が優れたダンサーでもあるド・バナが、ダンサーたちに与えるイマジネーション豊かな指示も印象的だ。「魚が呼吸しているように」「鷲のように力強く」「サメのようにいつも獲物を探し求めて」......等々。テクニックはもとより、ダンサー自身の想像力、研ぎすまされた感性がいかに必要であるかを痛感させられる。「パトリックの要求は高く、彼独特の世界だと思うけれど、私には非常に訴えかけてくる力があるんです。東京バレエ団のダンサーがもともと好奇心旺盛で新しいものに興味を持ってくれることは知っていましたが、初日から本当にハングリーに、この作品の世界に入り込もうとする姿勢に感心しました」と、ルグリ。エネルギーを全開にして振付家に食らいついていくダンサーたちの熱気が、リハーサルスタジオの温度を確実に上げている。このクリエーションがどんな進化を見せていくのか、続きは後編で紹介しよう。



(取材・文=市川安紀)


photo:Kiyonori Hasegawa