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2013/05/21 2013:05:21:14:30:37

東京バレエ団「ラ・シルフィード」リハーサルレポートvol.1

 『ラ・シルフィード』公演まで1カ月を切り、稽古場の熱気は上昇傾向、静かな緊張感に包まれています。
 今回の公演で振付指導にあたっているのは、東京バレエ団プリンシパルの斎藤友佳理。自身の代表作の一つであり、「大好きな作品」でもある『ラ・シルフィード』だけに、指導への思いには並々ならぬものがあるようです。稽古場の鏡の前の席に着く斎藤は、ダンサー全員のすべての動きを見逃すまいと、常に前傾姿勢。その目は、全役柄の振付はもちろん、コール・ド・バレエ一人ひとりのちょっとした動きの違いまでも捉えていきます。

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 この日のリハーサルは第2幕の冒頭、魔女マッジの登場から。
 よろよろと長い杖をついて、禍々しいオーラを放ちながら現れたのは木村和夫。その手が力強く振り上げられると、6人の手下たちが結集、邪悪な空気が一気にその場を包みます。
「手! 手を止めないで!」。
 斎藤がするどく指摘したのは、彼らの不気味な手の動き。
「上体は常に動かして! 下は衣裳で隠れて見えなくなるから、何も伝わらないよ」。
 どんなに必死に踊っていても、「お客さんに伝わらないようでは意味がない」とは、斎藤が口癖のようにたびたび発する言葉です。
 やがて、中央の妖しい鍋から魔法のヴェールが取り出されます。マッジ=木村は、のちにシルフィードの命を奪う呪いのヴェールを高々と頭上に振りかざし、意気揚々。ここで斎藤がずっと気にしていたのが、小道具のヴェールのこと。ミストレスの佐野志織にも、「ちょっと長さが足りないと思うのだけど?」としきりに問いかけます。木村と、2日目にマッジを踊る後藤晴雄にも、ヴェールをより効果的に扱うようにと、具体的な指示が出されました。


 続いては、2幕の大きな見せ場となるコール・ド・バレエ。"白いバレエ"の代名詞、『ラ・シルフィード』最大の見せ場であり、この群舞が美しいか否かで舞台の印象が大きく変わる、重要な場面です。
 そのカギとなるのは、一人ひとりが正しいポジションをキープしながら、最大限のパフォーマンスを発揮すること。
「顔の角度! そこ違うよ!」
「かかと、かかと! かかと見えてる!」
 たった一人のちょっとしたポジションの間違いも見逃さない──。ときに斎藤の指導の声は、厳しく響きます。
「もっと明るく! もっとコケテッィシュに!」
「そこはアクセントが必要なの!」 
 斎藤の声に応えるかのように、シルフィードたちのふっと顔を横に向けるその仕草が、グンと魅力的に。

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 さらに女性ダンサーたちに多くの指摘がとんだのは、「上体を前に!」。普段よりも上体をずっと前にキープしないと、シルフィードの美しい佇まいは実現できないとのこと。この注意はくどいほどに繰り返されます。ついには、「"上体が前過ぎ"って私に言われたら、それは勲章ね(笑)」とまで!

 クリアすべき課題はまだ残っているものの、稽古場のダンサーたちは確実にステップアップを続けています。

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取材・文:加藤智子

撮影:引地信彦