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2012/01/07 2012:01:07:10:36:56

<ニジンスキー・ガラ>東京バレエ団ダンサーの見どころ(2) 『レ・シルフィード』『薔薇の精』『ペトルーシュカ』


12-01.07_news_01.jpg ウラジーミル・マラーホフ&東京バレエ団が2012年新春に贈る<ニジンスキー・ガラ>。20世紀初頭に一世を風靡したバレエ・リュスで活躍した不世出の天才ニジンスキーが活躍した名品によるミックス・プロだ。ここでは『レ・シルフィード』『薔薇の精』『ペトルーシュカ』に登場する東京バレエ団の踊り手に焦点をあて、見どころを探りたい。

 ショパンのピアノ曲にのせ、月明かりに照らされた森のなかで詩人が妖精たちと舞う『レ・シルフィード』は東京バレエ団の誇るお家芸のひとつ。整然と揃ったシルフたちの群舞をはじめ細部まで美しく磨きあげられた舞台は海外でも賞賛を浴びてきた。

 ニジンスキーの踊った詩人役をマラーホフと競演するのが木村和夫。この作品は筋のないバレエの先がけと称されるも詩人の個性によって趣が異なる。木村の詩人は単にノーブルに取り澄ましただけでも絵にかいたような純朴なロマンチストでもない。愁いの色濃い面持ちで、メランコリックな空気を漂わせる。とはいえ妖精たちと華麗に舞い一幅の泰西名画の中心にしっかりと収まるさじ加減はベテランならではといえよう。

 プレリュードには吉岡美佳、小出領子というプリマを配する。清楚可憐にして気品あふれる吉岡には妖精役がよく似合う。マラーホフと踊る日もあり、長きにわたって彼と築いてきたパートナーシップの妙が発揮されそうだ。小出は伸びやかなラインと豊かな音楽性を誇る。上半身をなだらかにもちいた優美な踊りを披露するだろう。楚々とした風情が得難い高木綾(ワルツ)、力強い踊りに定評ある田中結子(マズルカ)、堂々たる存在感をみせる奈良春夏(マズルカ)といった選り抜きのソリストたちにも注目したい。

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 『薔薇の精』はゴーティエの詩に基づく佳品。舞踏会から帰った少女が居間でまどろみ夢うつつに薔薇の精と踊りに興じる。タイトル・ロールを踊ったニジンスキーの驚異的な跳躍、両性具有の官能美は語り草となっている。薔薇の精を踊る男性につい目が行ってしまうけれども少女が夢と現実のあいだに抱く淡い恋が見えないとドラマは立ちあがらない。

 『薔薇の精』をマラーホフの秘蔵っ子、ディヌ・タマズラカルが踊り、少女を高村順子と吉川留衣が演じる。高村は愛くるしい容姿といきいきとした踊りが身上。お人形のように可愛らしいなかに少女が抱く大人への憧れを浮き彫りにする。初役となる吉川は見目麗しい顔立ちにしてスタイルも抜群の気鋭。美しく品のある踊りをみせるのではないか。


 本公演の大きな眼目はマラーホフがタイトル・ロールを初披露する『ペトルーシュカ』だろう。人間の心を持ってしまった人形の悲哀をマラーホフがいかに表すか目が離せない。加えて、ペトルーシュカを取り巻く面々を東京バレエ団の実力派が演じるのも楽しみだ。

12-01.07_news_05.jpg ペトルーシュカの思慕するバレリーナは真っ赤な頬紅をつけた可愛らしい人形。不器用な彼の思慕を解らず相手にしない。このたびは小出領子と佐伯知香が挑む。小出は以前踊った際、チャーミングな容姿が映え好評を博した。「人形振り」も堂に入っている。初めて挑む佐伯は愛らしく小粋な踊りをみせる成長株。バレリーナ役にぴったりといえる。

 ペトルーシュカの恋敵ムーア人を後藤晴雄と森川茉央が演じる。以前踊った後藤はペトルーシュカを斬殺する悪漢を冷酷に演じるはずだ。森川はベジャール振付『ザ・カブキ』の直義に抜擢されるなど上り調子の若手であり嘱望される。縁日の見世物小屋の老魔術師シャルラタンを演じる柄本弾も若くして主役経験重ねる俊英ながら『白鳥の湖』の悪魔ロットバルトを演じるなど役柄の幅を広げるだけに迫力十分の演技をみせるだろう。

 東京バレエ団は近年バレエ・リュス作品、ニジンスキーが踊った名作を折にふれて取り上げている。古典作品と現代作品の間に位置し、両者を繋ぐ役割を果たしたレパートリーに接することは、歴史を知り、バレエをより深く楽しむためにも有意義だ。今回は個性あふれる踊り手たちがニジンスキーの伝説をいまに伝える絶好の機会。心ゆくまで堪能したい。


高橋森彦(舞踊評論家)

舞台写真:Kiyonori Hasegawa



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