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2010/05/04 2010:05:04:10:02:36

[オネーギン]主演ダンサーインタビューVol.6 /高岸直樹(オネーギン)

「内側から湧き出るような演技を目指したい」

取材・文/高橋彩子(舞踊・演劇ライター)


10-05.04_426f.jpg 僕にとって『オネーギン』は、ノイマイヤー振付『椿姫』と並んでもっとも好きな作品。20年ほど前にカナダ・ナショナル・バレエの映像を目にしたのが最初かな。以来、この作品のさまざまな映像や舞台を観てきましたが、とくにこの何年か、ドラマティックな作品を踊りたいという思いが高まり、どんどん惹かれていきましたね。
 とはいえ、いざ踊ってみると大変でした。まず技術面。アクロバティックなリフトに最初はまったく歯が立たず、繰り返し練習したら筋肉がパンパンに張ってしまって。3週間の稽古も終盤になるころ、ようやくコツがつかめて楽になってきましたね。コツとは要するにタイミング。相手と自分の踏み込みをどうすれば成功するのかーーーたとえば高く飛び上がってその反動を利用するとか、そういうことです。身体は一人一人違うので、何度も試す中で、うまくいく方法をつかむしかないんです。
 一方、演技面で目指すのは、映画のような自然さ。1幕のオネーギンは言葉にならない倦怠感・絶望感でおおわれている。すべてが煩わしいんでしょう。そうした彼のたたずまいをリアルに描きたいです。ただし、タチヤーナの夢の場面に限っては、彼女の理想像ですから優しく素敵にと。そして3幕では、10年前に恋文をくれた女性がきれいになった姿を見、自分の気持ちに気づいて愕然とする......。いずれにせよ、理屈よりも、動くうちに生まれる感情に従って演じていきたいと考えています。リフトなどでおのずと"動"の部分が出るはずなので、演技では"静"を意識し、内側から湧き出るものを表現したい。その点、パートナーの吉岡美佳さんも内に秘めたものを表すことのできる人なのでやりやすいですよ。
 最終的には技術面と演技面をつなげ、なにもかもが細かく滑らかな、それこそ"踊る演技"といった雰囲気を作ることが理想です。ここ数年は古典/現代作品の区別なく、どれも演劇的に、指先一つにも表情がつくよう心がけて踊ってきました。その意味ではこれまでの経験がすべてつながっています。雑に見えないよう、あくまで丁寧に、心を込めて踊りたいですね。


photo:Shinji Hosono、make-up:Kan Satoh