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2011/01/19 2011:01:19:20:05:55

[ボレロ]開幕直前寄稿:三者三様、熱風を巻き起こす「ボレロ」

三者三様、熱風を巻き起こす「ボレロ」

吉田 裕(舞踊評論)


上野水香──  しなやかに謳う肢体が魅せる「決定版」メロディー

11-01.19-bolero01.jpg いま現在、本家のベジャール・バレエ以外では、彼女こそが「決定版」として人々の脳裏に焼き付いているのではないか。実際、国の内外を問わず、上野のしなやかに謳う肢体の神秘性に、客席は沸きに沸いた。その所作が訴えかけるベジャールの本意が声を発するとき、会場全体が圧倒的な高揚感に包み込まれてきたのである。
 だが、上野の凄みはそこにとどまらない。というのも、彼女のステージにはつねに驚きがあるからだ。同じ振付を二度とは同じ解釈では踊らない、という驚きが。たとえば、あるときは静かな闘志を燃やす挑戦者、あるときは獲物を狙う俊敏な豹、またあるときは天高く舞い上がる鷹 ──。豊かに膨らむイメージを喚起しつつ、舞台が生ものであるという実感を、上野ほど如実に呼び起こすメロディーはほかにはいない。
 次はどのような存在が目の前に立ち現われるのか。その謎が明かされる瞬間は近い。


高岸直樹──  元祖メロディーから円熟のメロディーへ

11-01.19-bolero03.JPG この名作がカンパニーのレパートリーとなったその日から、彼はいわば日本におけるメロディーの一番手、すなわち元祖だった。それまでのほかの誰とも似ていない、正真正銘の「アジアの雄」、そんな栄えある像を確立したパイオニアである。
 その本質を一言でいえば、トップ・アスリートのストイシズム、そして太陽神とでも評すべき大らかな男性性。いうなれば、はがねのような身体と、それを支える精神の高潔さ。これが、高岸が繰り出す『ボレロ』の興奮の源だ。赤い円卓の中心に在って揺るぎないリーダーシップを示しつつ、リズムたちの信頼を一身に集め、彼らに投げかける眼差しの一つひとつにも、大海原のように豊かな慈愛が満ちている。まさに高岸の舞踊人生を象徴しているかのようだ。彼のキャリアの深化に合わせ、このメロディーがさらに重厚化し、かつ完成の域に至っていることへの興味は尽きない。


後藤晴雄──  進化し続ける幻惑のメロディー

11-01.19-bolero02.jpg 2009年2月、彼はここ東京で初めてこの役を披露した。そのときの残像は、いま
だ記憶のすみずみまでをも覆っている。それまでの後藤のイメージを一新するかのような、謎めいた衝撃が走ったからにほかならない。
 客席に微笑みかけるように、柔らかな空気で始まった彼のメロディー。燃えるような激しさとも、また憑かれたような情熱とも一見距離があるものの、音楽とともに、いつの間にやら巻き込まれ、気がついてみるとすっかり幻惑し尽くされていた。が、これがなぜか無類に心地よい。全編をとおし、得体の知れぬマイルドな野生が彼を内面から衝き動かしていた。こんな『ボレロ』は見たことがなかったのである。
 「後藤のメロディーには、まだまだ先がある!」、と多くの観客に確信させたことだけは疑いがない。今後の進化を永く見続けたいとの思いを、皆が強烈に抱いている。

photo:Kiyonori Hasegawa



●東京バレエ団が誇る3人の「ボレロ」ダンサー。映像でもご覧ください!