この7月、ミラノ・スカラ座バレエ団公演を鑑賞するため現地を訪れた舞踊評論家の長野由紀さんによる現地レポートと、「ドン・キホーテ」日本公演に主演するニコレッタ・マンニ、クラウディオ・コヴィエッロのインタビューを今週、続けてお届けします。
美しく風格ある歌劇場と、設立以来の由緒あるバレエ団
ミラノ・スカラ座といえば世界にその名を轟かすオペラの殿堂だが、そのバレエ団もまた、1778年に現在の歌劇場の開場と同時に設立された由緒あるカンパニーである。19世紀にはマリー・タリオーニ、ファニー・エルスラーら稀代の舞姫、20世紀後半には生え抜きのカルラ・フラッチや時代の寵児だったルドルフ・ヌレエフらがたびたびその舞台に立った他、付属のバレエ学校からは、後に『白鳥の湖』の初演者となるピエリーナ・レニャーニらを輩出した。
現在でもロベルト・ボッレ、スヴェトラーナ・ザハーロワ、レオニード・サラファーノフら華やかなゲストの名前がプログラムを彩るが、その妙技に酔うだけでなく若手の成長を見守ることが、現地の観客の気質だとか。
「ドン・キホーテ」の舞台より
そのことを象徴するように、2015/16年のシーズンを締めくくったアレクセイ・ラトマンスキーによるプティパ/イワーノフ復刻版『白鳥の湖』は、団員ばかり三組の主演キャストを揃え、じつにみごとな出来栄えだった。そもそもの強みである豊かで自発的な個々の表現力に加え、古い時代の舞踊や衣裳のスタイルがよく再現され、この名作が生まれた時代にタイムスリップしたかのよう。
赤、白、金を基調とする観客席には華美とは無縁の風格があり、見渡すほどに美しい。もしかしたらレニャーニの魂もこのどこかに舞い降りて、満足気に舞台を見つめているのではないか―ふとそんな夢想に捕らわれるほど、歴史の重みと現在の充実を実感する舞台だった。
長野由紀(舞踊評論家)