What's NewNews List

2017/07/07 2017:07:07:16:36:26

イングリッシュ・ナショナル・バレエ 開幕記者会見レポート

web_7F5A2090.jpg


 7/8の『コッペリア』で日本ツアーの幕を開けるイングリッシュ・ナショナル・バレエ。芸術監督タマラ・ロホと主役ダンサーたちによる来日記者会見が7/6に東京文化会館で行われた。元英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルであるロホが2012年に芸術監督に就任して以来、このカンパニーは次々と独創的なプロジェクトを実現し、2017年度のローレンス・オリヴィエ賞ダンス部門の業績賞、英国ナショナル・ダンス・アワード7部門ノミネート(2部門受賞)など、大きな脚光を浴びている。バレエを生きたアートとして捉えるロホの進歩史観、その姿勢に賛同するダンサーたちの知的な言葉が飛び交った。

web7F5A2049.jpg



タマラ・ロホ「多くのバレエ・カンパニーが訪れている日本で、今の私たちの姿を見ていただけることを光栄に思います。私が芸術監督になってからイングリッシュ・ナショナル・バレエは色々な変革を遂げてきました。それまでダンサーとして評価していただくことはあっても、私自身は芸術監督としての経験はなかったわけですが、現役ダンサーである私にスポットライトが当たることで、他の素晴らしいダンサーたちも注目してほしいと思いこのポストを引き受けました。芸術監督とはいえ、自分が踊れるうちは自分の身体で示して教え、技術や私の想いを伝えながら、若手にチャンスを与えていきたいと思っています」


web7F5A1889.jpg

 今回の来日公演で「観客全員が彼に恋をすると思う」とロホが太鼓判を押す弱冠20歳のセザール・コラレスは、『コッペリア』のフランツと『海賊』のアリを踊る。
セザール・コラレス「来日して3日目ですが、すぐに東京の街が大好きになりました。フランツはこれがデビューになりますが、この役を日本で踊ることが出来て誇りに思っています。『海賊』は花火のようなスーパー・エンターテイメントで、自分が出ていない日はチケットを買って舞台を見たいと思ってしまうくらい(笑)。とても楽しいバレエです」


web7F5A1986.jpg

 リード・プリンシパルの高橋絵里奈は96年からカンパニーに在籍する現地でも人気の日本人バレリーナ。ENBで数々の主役を踊ってきた。『コッペリア』でスワニルダを踊る。
高橋絵里奈「自分が生まれた日本で、大家族のように過ごしてきたカンパニーと一緒に主役を踊れるのは夢のようです。他の日本人ダンサーたちも来日が決まってからというもの、このことばかりが話題でした。英国に渡って『日本人は表現力に乏しい』と言われることもありましたが、自分の生き方や想いをバレエで伝えていければと思っています」


web7F5A1919.jpg

 ロシア出身で国際的なキャリアを積んできたユルギータ・ドロニナは、ゲスト・アーティストとしてENBで活躍し、今回正式なメンバーとなった。
ユルギータ・ドロニナ「私は『コッペリア』に出演しますが、セザールさんとのリハーサルは本当に楽しくて、お互いに会話をするような生き生きとした雰囲気があります。ダンサーが自分のパーソナリティを発揮できるのがこのカンパニーの素晴らしいところ。とても軽やかで、小さいお子さんにも楽しんでいただける演目だと思います」


web7F5A2003.jpg

 プリンシパルのローレッタ・サマースケールズは二度目の来日。『このバレエ団を一言で表すなら』という質問に情熱的に答えた。
ローレッタ・サマースケールズ「イングリッシュ・ナショナル・バレエはタマラさんそのものです。彼女がこれまでのキャリアで出来なかったことを、非常に高い芸術性を追究しながら実現しているのです。タマラさんは、私たちを型にはめず、自発性を尊重してくれますが、そのことで私たちはすべてのことを違った視点で見られるようになりました」


web7F5A1887.jpg

 メキシコ出身のイサック・エルナンデスはダンサーである父からバレエを習ったサラブレッドで、語る言葉にはパワフルな知性が漲る。カンパニーの柱をなすアーティストの一人であることが伺えた。
イサック・エルナンデス「このカンパニーは特別な場です。皆、色々な国から来ていますし、タマラさんが連れてきたバレエ・マスターやダンサーも色々なヴィジョンを持ち、違ったスクールから集まってきています。そういう人たちが理解しあってひとつのものを作り出す場所というのは、ありそうでなかなかないと思います。偉大なカンパニーが、その歴史の黄金期を取り戻そうとしている傾向にある中、ここではつねに未来へ目が向いているのです」


web7F5A1964.jpg

 ダンサーの言葉通り、ENBはピナ・バウシュの「春の祭典」を英国のバレエ団として初めて上演し、アクラム・カーンに振付を依頼して「ジゼル」を創作するなど、斬新な路線を打ち出している。
タマラ・ロホ「方向性としては、他の芸術が行っている達成をバレエにも反映させ、伝統を重んじながらも過去にとらわれない活動を目指しています。私はロンドンで暮らして20年くらい経ちますが、シェイクスピアの演劇上演にしても、50年前と同じ演じ方をしていないのに気づかされます。シェイクスピアの本質を伝えながら、今の人たちも楽しめるような演出や解釈を舞台で見せているのです。私はスペイン出身で、日本と同じようにクラシック・バレエの伝統が浅い国に生まれました。伝統がない分、色々な伝統を取り入れるチャンスに恵まれたともいえます。色々な国のバレエを客観的に見て、コンテンポラリーも含め、多様な伝統の最良の部分を取り入れていきたいと思っています」


 ENBバレエスクールについての質疑応答も交わされ、後進の育成に対するヴィジョンも語ったロホ。文化の担い手として、しかるべき舵取りをしている真摯な姿勢が見えた。英国ロイヤルに次ぐ「ロンドン第二のバレエ団」として認識されていたENBは、現在最も勢いのあるカンパニーに成長している。

(取材・文 小田島久恵/ライター)


撮影:宮川舞子



イングリッシュ・ナショナル・バレエ2017年日本公演 公演概要はこちら>>

■ チケットのお求めはこちら>>