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フリーデマン・フォーゲル インタビュー

フリーデマン・フォーゲル(プリンシパル) インタビュー




初来日時は弱冠17歳。それから10年の月日が経ち、シュツットガルト・バレエ団のフリーデマン・フォーゲルは、堂々、世界指折りのダンスール・ノーブルとして名を成す身となった。その少女漫画の世界からそのまま抜け出てきたような線の細い美貌から、イノセントで純粋な王子役を振られることが多い彼だが。取材場所に現れた実際のフリーデマン青年は、意外なほど芯が強く魂がタフな成熟したアーティストであった。

―――今あなたはバレエ団で唯一のシュツットガルト生まれのダンサーだそうですね。

シュツットガルト生まれどころか、唯一のドイツ人ダンサーなんですよ。ドイツのカンパニーなのに面白いですよね。でもそれがこのカンパニーのいいところ。いろんな国籍の人間が集まっているから、いろんな視野が生まれる。そしてお互いに意見を交換して高めあうことができる。それにまた芸術監督のリード(アンダーソン)が、ダンサー個々に「自由」を与えてくれるのも、このカンパニーの素晴らしさのひとつ。彼は決してダンサーを束縛せず、外部のバレエ団に客演することを、むしろ推奨する。だから僕らはいつでも広い視野を持って、アーティストとして人間として、成長していくことができるんです。ここ10年で僕自身、本当に人間としてよりいっそう強くなることができたと実感しています。


―――あなたはロミオやレンスキーなど、脆く繊細な役を踊ることが多い。けれどプライベートでのあなた自身はどちらかというと「強い」人間なんですね。

そうですね、僕はまったく脆くない。だからどうしてそういう役を振られることが多いのか不思議。まあ外見的なことなんでしょうけど。実際の僕はどちらかというと、とても芯の強い......、図太いと言ってもいいような人間なんです(笑)。たとえば僕は他人が自分のことをどう思うか、どう評価するか、なんてまったく気にしない。だからこのあいだ中国国立バレエ団に客演したときに、ドイツのメルケル首相が、わざわざ僕の踊りを観に来てくれたんですけど。それで余計に緊張するなんてことはなかった。まあ、首相が僕の踊りを観てくれるなんて事件としては面白いですけど(笑)。僕はたとえ5人の一般客の前で踊ろうと、5000人のセレブな客の前で踊ろうと、自分自身で満足のいく踊りをするためにベストを尽くすだけ。


―――日本で踊られる役柄についても教えてください。まずは『オネーギン』のレンスキー。

冒頭でのレンスキーはとてもイノセントでピュアで、人生のすべてを愛している。だけどあるとき、大人になるには皆通らねばならない人生の辛さにぶつかる。「人に騙される」という人生の汚さに心を踏みにじられるんです。で、普通の人間ならそれに対処して、成熟した大人になっていくわけですけど。彼はあまりにもピュアだから、その汚さに絶えきれない......。だから僕の解釈では、レンスキーは決闘に赴くときには既に死を覚悟している。彼はもう完全に人生の汚さに絶望しているから。せめて自分だけはピュアなまま死のうと、あえて決闘などという無茶なことに臨むんです。


―――『眠れる森の美女』の王子役に関しては。

たいがいの『眠り』では王子役にはさほどドラマティックな見せ場がありません。2幕に出てきて、ちょろっと踊って、それでお姫様にキスして、結婚式(笑)。だけどこのバージョンでは、僕は姫を得るために、必死に、戦わなくちゃならない! むちゃくちゃ汗をかいて彼女のために頑張る。だから、僕はこの王子役を踊るのが大好き。とても人間的で、演じがいがある役柄だと思います。

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オーロラ姫:マリア・アイシュバルト、王子:フリーデマン・フォーゲル