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シュツットガルト レポート[特別編]

シュツットガルト・バレエ団2008年初日まで、あと10日となりました。
3年ぶりの日本公演に向けて、2度にわたりシュツットガルトを訪れ、精力的な取材をしてきてくださったライターの岩城京子さん。今回は開幕直前スペシャル、シュツットガルト レポート「特別編」として、岩城さんの"シュツットガルト旅行記"をお届けします。
シュツットガルト・バレエ団をはじめ、2007年のブンデスリーガで優勝したサッカークラブ、2004年に日本公演を行った歌劇場など、シュツットガルトという地名は耳にしても、実際に訪れたことのある方はそれほど多くないのではないえしょうか?
岩城さんが撮影してきてくださった美しい写真とともにご一読ください。


シュツットガルト訪問記




 東京、パリ、ロンドン。1週間のうちに世界の燦然たる大都市を早足に駆けぬけ、いざ、ドイツ南西部のシュツットガルトの地に降り立つ。と、眼前には朗らかな太陽の粒を受けきらめく、豊かな緑と清らかな水。草いきれの香りとともに、穏やかな空気がふっと身を包みこむ。
「この街ではね、時間がゆったりと流れていくんですよ」

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 宮殿広場のベンチで「Stuttgart Zeitung(シュツットガルト新聞)」に目を通しながら、昼下がりの雑談に応じてくれた地元老人の言葉どおり、この街の持つラルゴな時間感覚は人の思考速度をゆるやかで豊潤なものにする。大哲学者ヘーゲルがこの地で育まれたという事実も、シュツットガルトの青空の下で深呼吸をすれば納得がいく。

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 さらに驚くのは、この街が抱く純度の高い静けさ。日本でいうなら京都のように、街中央を山並みが取り囲む盆地都市を形作っているため、教会の鐘の音が一時間ごとにゴーンと鈍色の時を告げると、その荘厳な響きが濁りなく街全体に響きわたる。標高549メートルの山頂と、海抜207メートルのネッカー川。その高低差を、鮮やかなカナリア色の路面電車と、街中にうねる400基の階段が結ぶ。

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 この静けさに包まれた人口約60万人の街には、いくつかのひかえめな観光名所がある。メルセデス・ベンツやポルシェなど世界有数の自動車企業本社が誇る美術館、初秋に賑やかに開催される「Stuttgart Weindorf(シュツットガルト・ワイン村祭り)」でドイツ全土にその名を知らしめる愛らしいワイン畑、それに中心部に建つ数々の州立美術館と州立劇場。とりわけ優美な姿で街中央にそびえるのが、ドイツ全土で唯一、第二次大戦の爆撃を免れた威風堂々たるオペラハウス。地元民に「Grosses Haus(大きな劇場)」という愛称で親しまれるこの劇場は、いうまでもなくシュツットガルト州立歌劇とシュツットガルト・バレエの本拠地であり、富裕層居住者の多いこの街の、芸術愛好家の魂のふるさととなっている。

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 『眠れる森の美女』の30分の幕間中に、ヒューレット・パッカード社で働くという中年夫妻に声をかけられた。
「あなた日本人? なぜこんな小さな街に来てるの? え、バレエ団を取材しに? 確かにこのバレエ団はこの街では一、二を争う知名度だけど、まさか日本でも有名だなんて。すごいんですね! 私たちのバレエ団は」
 私たちの、バレエ団。
 満面の笑みと共に思わず口をついて出た夫妻の飾らぬ言葉。この言葉から、どれほど今回来日するシュツットガルト・バレエ団が、深く固く強く、地元の人々に愛されているか、その温かな情愛が伝わってきた。