インタビュー 一覧

リュドミラ・パリエロ インタビュー

リュドミラ・パリエロ(プルミエール・ダンスーズ)


1993-1999年 ブエノスアイレスのコロン劇場バレエ学校で学ぶ。
2000年 チリのサンチャゴ・バレエ団に入団
2002年 ソリストに昇格
2003年 
第7回ニューヨーク国際バレエコンクールで、銀賞とイゴール・ユスケビッチ賞を獲得し、アメリカン・バレエ・シアターと契約。同年、パリ・オペラ座バレエ団にコール・ド・バレエとして入団。
2006年 コリフェに昇格
2007年 スジェに昇格
2009年 プルミエール・ダンスーズに昇格


 彼女の名前を知る人は、まだバレエファンの間でも少ないかもしれない。 あっという間にオペラ座のピラミッドを上がり、昨年の昇進コンクールでプルミエール・ダンスーズの1席を射止めたリュドミラ・パリエロ。東京では、「ジゼル」のペザント(パ・ド・ドゥ)を踊る。

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2009年12月のコンクール
(photo:Sebastien Mathe/Opéra national de Paris)

 アルゼンチン出身のリュドミラは、オペラ座バレエ学校を出ていない。ブエノスアイレスのバレエ学校に通い、チリのバレエ団でキャリアをスタートした。2年後にソリストとなり、翌年参加したコンクールでNYのABT入団が決定。それと時を同じくして、オペラ座から研修団員として3カ月契約の話があり・・・。そして現在に至っている。プルミエール・ダンスーズに選ばれたことについて、彼女はこう語る。「この昇進はとても幸せだった。なぜってフランス・スタイルのダンスの体得が認められ、そして、その努力が報われたということだから」。チリからオペラ座に移ってすぐに踊る機会に恵まれたが、その後しばらく舞台のない時期が続いた。舞台に立てないことは辛く感じられたが、オペラ座でやってゆきたいとい意欲から、その時期をオペラ座のフレンチ・スタイルに適用できるようにと観察の時間にあてたそうだ。
「ペザントは大役ではないにしても、テクニックという点でとても多くのことを学べるの。さまざまな技術を披露しなければならないし、きつい振付だから、スタミナの配分とか・・。これを踊ることでストレスの管理もできるようになる。役を演じるという振付ではないけど、これを踊ることで、その後大役に配された時に自信を持って踊れるようになるのよ。たとえば私の場合は技術的にも難しい「くるみ割り人形」のクララ役だった。だから昨年秋にペザントが決まったとき、素晴らしい!って思ったの。だって最高のトレーニングですものね。それに第3配役だったのが、最終的には第1配役となって・・」。

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「ジゼル」パ・ド・ドゥ
(photo:Julien Benhamou/Opéra national de Paris)

 驚くほど華奢でとても優美な足首と手首の持ち主である。そして、すらり美しい脚!ペザントを踊る彼女が、トゥで軽やかに立ち、あげた手首を空でそよがせると、そこには爽やかな風が揺れるように見える。東京ではアレッシオ・カルボネが彼女のパートナー。溌剌と生気に満ちた、それでいてエレガントなパ・ドゥ・ドゥを見ることができそうだ。
 リュドミラが興味深いのは、どの作品でも確固たるテクニックは変わりないが、その見事な変身ぶりである。オフ・ステージでは控えめに見える彼女だが、いざ舞台で踊りだすとその存在感はとても大きい。「くるみ割り人形」の第1幕では、あどけなさの残る15歳の女の子そのものだった。それゆえ第2幕の成長したクララとのコントラストがくっきりと描かれた。現在オペラ座で公演中の「椿姫」では、悪魔的に男を振り回すマノンを妖艶に踊ってみせる。このように演じる役に魅かれる一方で、マッツ・エックの「ア・ソート・オブ・・」では、その振付を踊るのがうれしくて、舞台に出るたび自然と笑みがこぼれたという。次はどんな舞台をみせてくれるのだろう、と期待させる。
 昨秋オペラ座の「ジゼル」では2人のウィリの一人にも配されていた。ある晩、ミルタ役のダンサーが公演の最中に怪我をしたので、彼女が衣装はそのままミルタの王冠をかぶり、ミルタ役を引き継いで踊るというハプニングがあった。「チリ時代にすでにミルタは踊ったことがあったし、それに毎晩舞台でコール・ド・バレエで踊りながらミルタをみているのだから・・・」と、ウイ!と冷静に役を引き受け、見事にその任務を全うした。頼もしいダンサーである。

大村真理子(フィガロ・ジャポン・パリ支局長)


◆リュドミラ・パリエロ出演予定日

「ジゼル」
2010年3月19日(金)7:00p.m.(パ・ド・ドゥ)
2010年3月20日(土)6:30p.m.(パ・ド・ドゥ)

ジョシュア・オファルト インタビュー

ジョシュア・オファルト(プルミエ・ダンスール)

1998年 パリ・オペラ座バレエ学校入学
2002年 パリ・オペラ座バレエ団入団
2003年 コリフェに昇格
2004年 ヴァルナ国際バレエコンクールで銀賞受賞。カルポー賞受賞。スジェに昇格。
2009年 プルミエ・ダンスールに昇格


 昨年末の昇進コンクールでプルミエ・ダンスールに上がったジョジュア・オファルト。
「これが最後のコンクール」と彼が感慨深げに口にしたとき、オペラ座のピラミッドの階段を上がるためのコンクールがいかにプレッシャーだったかが感じられた。

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2009年12月のコンクール
(photo:SEBASTIEN MATHE/ OPERA NATIONAL DE PARIS)

 今回、ソリストとして来日することに今から胸をときめかせている。彼が初来日したのは8年前、入団した年で代役だった。「ラ・バヤデール」の舞台に立つことなく毎晩舞台裏で過ごした。来月、「シンデレラ」では四季の1つに配役され、「ジゼル」ではヒラリオン役を踊る。これはオペラ座でもまだ踊ったことがなく、東京で初披露となる。
「ヒラリオンというのは頭がすごく固くって、先のことが読めない単純な人間だ。自分の行動の結果を考えることもなく、本能的に動いてしまう。ジゼルへの情熱ゆえともいえるけど、粗野なタイプ。だからこそ、こうした性格の役を踊るのは興味深いんです。これまで僕はプリンス役とかエレガントな役が多かったので、踊り方から変えてゆく必要がありますね。姿勢も歩き方も違えて、重心の位置も変えてプリンスとは別の雰囲気で踊るようにしなければ・・・」
 と、稽古のスタートを前に彼は役の解釈を始めている。
 オペラ座では「リーズの結婚」「くるみ割り人形」ですでに主役に配され、どちらも高い評価を得ているジョジュア。感情表現という点でいえば後者を選ぶが、ダンスという点では激しくダイナミックな踊りをみせる「リーズの結婚」が好みという。舞台上でエネルギーの消費が大きいことが、心地よいのだ。8歳のときにテニスや体操の代わりに、という感じでバレエを始めた彼らしい。
「でも、バーレッスンとかほとんど体を動かさないので、最初あまりバレエが気に入ったとは・・・。でもバレエに向いている、才能がある、と誉められて、ずっと続けました。子供は誉められるとヤル気がでますよね」
 14歳でマルセイユからパリのオペラ座バレエ学校に編入したときは、バレエを職業として選ぶ決心をしていたそうだ。
 さて、テクニックをみせるバレエも好みだが、そればかりでは物足りないというジョジュア。それゆえに、いつか踊りたいと夢見るのは、演技を要求されるヌレエフの「白鳥の湖」のプリンス役である。
「ロットバルト役も面白いとは思うけど・・・。この作品のプリンスは心に苦しみを抱えていて、それだけに心理的な深さをみせられる役ですからね。ジゼルのアルブレヒトについても、それはいえますね。この役も、もちろんいつか踊りたいと思ってます。もしそうなったら、二コラ(ル・リッシュ)のビデオを何度も繰り返して見ることになるでしょうね。僕のスターは二コラなんです。彼と僕とはスタイルが違いますが、彼のダンスがとにかく好き。彼が発するものが好きなんです。彼からインスパイアーされることは、とてもたくさんあります」
 年齢の割に落ち着いていて、物静かに見えるジョジュア。エネルギーや興奮といったことは、舞台のためにとっておき、自由時間は読書にいそしみ、映画を見て・・・とアーチストの面を豊かにするようにしているそうだ。現在、オペラ座で公演中の「椿姫」では、主人公アルマン・デュバルの友人ガストン役を踊っている。この役でも、またジョゼ・マルティネス振付の「天井桟敷の人々」のフレデリック・ルメートル役でも、色男を見事に演じているジョジュア。これは日頃彼が培っているものの成果が発揮されているといえるだろう。そんな彼のヒラリオン、ヤン・ブリダールとはまた異なる味わいで物語に深みを与えるに違いない。
 東京ではファッションブティックあり、裏道に小さな庭つきの民家あり、という表参道周辺が彼のお気に入りの場所だという。滞在中、この辺りを散歩できる機会があることを彼のために祈ろう。

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「くるみ割り人形」王子(ジョシュア・オファルト)、クララ(リュドミラ・パリエロ)
(photo:JULIEN BENHAMOU/ OPERA NATIONAL DE PARIS)

大村真理子(フィガロ・ジャポン・パリ支局長)



◆ジョシュア・オファルト出演予定日

「ジゼル」
2010年3月18日(木)7:00p.m. (ヒラリオン)
2010年3月20日(土)1:30p.m. (ヒラリオン)
2010年3月21日(日・祝)1:30p.m. (ヒラリオン)

ドロテ・ジルベール インタビュー

ドロテ・ジルベール(エトワール)

1995年 パリ・オペラ座バレエ学校入学。
2000年 パリ・オペラ座バレエ団入団。
2002年 コリフェに昇格。
2003年 スジェに昇格。
2005年 プルミエール・ダンスーズに昇格。
2007年 11月19日「くるみ割り人形」(ルドルフ・ヌレエフ振付)の終演後、エトワールに任命される。


 7歳のときに故郷のトゥールーズでバレエを見て、「バレリーナって仕事なの?」とドロテは母親に尋ねた。こう思うほど、彼女に感銘を与えた作品、それが「ジゼル」だった。「私がみたときのダンサーはマニュエル・ルグリとノエラ・ポントワだったと、つい最近わかったのよ。信じられないでしょう!?」。大きな瞳をひときわ輝かせて彼女は語る。不思議な運命の巡りあわせだ。そのルグリが彼女のプチ・ペールとなり、そして彼女がエトワールに任命された「くるみ割り人形」のパートナーだったのだから。
「その時に見た「ジゼル」で、言葉を発することなく、踊りで物語を語ることができるということがすごく印象的だったの」

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「ジゼル」ジゼル(photo:Michel Lidvac)

 彼女をバレエの世界に導いた作品をエトワールとなって踊ることが決まったとき、どんな気持ちだったのだろう。
「願いに願った作品なのだから、とてもうれしかったわ。これはクラシック大作の1つ。エトワールの誰もが踊りたい役でしょう。私、いろいろなダンサーのDVDをみて、こうしたい、いや、私ならこうするわ・・・って思ってて。それをやっと実現に移せるときが来たんだわって、わくわくしたの」
 ドロテの東京公演でのパートナーはマチアス・エイマン。2008年秋にモナコで初めて踊り、そして昨秋オペラ座で再び組んでいる。彼女がDVDなどで見たアルブレヒト役はローラン・イレールが多かったそうだ。「ローランのアルブレヒトはジゼルの気持をもてあそび、本当に彼女を愛してんだと気づくのは、彼女の死の直前。でも、マチアスのアルブレヒトは違うの。優しくて・・・情熱に押されて、彼女にすぐに恋をしてしまうのよ」
 それでもアルブレヒトが嘘をつくことには変わりがない。狂乱のシーンを彼女はどう解釈してるのだろうか。「とても正直な娘で、周囲の村人も同じような人々ばかり。だから嘘をつくという行為が理解できない。自分の気持ちに誠ではないことをすることがわからない。素朴な自分はつけこまれたんだと感じ、知らなかった世の中の悪い面を知るの。たとえ心臓病があっても、ポジティブで陽気に生きてきた彼女は、その瞬間に、フリーズしてしまう感じね。わけがわからなくなって、何も受け入れられなくなってしまうんだわ」

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「ジゼル」ジゼル(photo:Michel Lidvac)

 第一幕より第二幕のほうが彼女自身は踊りやすいという。音楽、衣装、照明が織りなす非現実な雰囲気の中、まるで大きな泡の中にとじこめられたようで、自分が存在しないような特殊な感じがするそうだ。
 東京では「シンデレラ」の義妹役も初めて踊る。まだ稽古前なので語ることがないの、と申し訳なさそうなドロテ。でも、この役は気に入ってる。これもDVDで何度もみているそうだ。「少しばかり、足がアン・ドゥダン(内向き)になってて・・この義姉妹役の難しさって、どこまでやるか、というバランスね。トゥーマッチになりすぎてもいけないけど、十分でないと滑稽にならないし。良い塩梅をみつけるのは簡単じゃないわ。でも、舞台でおバカを演じるのは、すごく楽しい。この作品はどの役も個性があるので、それで舞台が生き生きするのね。ヌレエフは舞台をハリウッドにおきかえたのは、すごく良いアイディアだと思う。ぜひ大勢の方に見に来てほしいわ」

大村真理子(フィガロ・ジャポン・パリ支局長)



◆ドロテ・ジルベール出演予定日

「シンデレラ」
2010年3月13日(土)1:30p.m. (義姉)
2010年3月14日(日)1:30p.m. (義姉)

「ジゼル」
2010年3月19日(金)7:00p.m. (ジゼル)

ステファン・ファヴォラン インタビュー

StephanePhavorin01.jpgステファン・ファヴォラン(プルミエ・ダンスール)


1983年 パリ・オペラ座バレエ学校に入学
1990年 19歳でパリ・オペラ座バレエ団に入団
1991年 コリフェに昇格
1994年 スジェに昇格
2005年 プルミエ・ダンスールに昇格


 ステファン・ファヴォラン。「シンデレラ」の継母役を踊る彼を見たら、絶対に忘れられなくなるダンサーだ。彼本人も、「公演後、ファンが僕の服が破けるくらい僕を引っ張って、熱狂的にサインを求めてくるはずですよ」と冗談を言って笑う。もし「白鳥の湖」のロットバルト役や「パキータ」のイ二ゴ役で彼を知った人は、その女装での弾けぶりに「これがあのステファン?」と驚くに違いない。
 30年代のハリウッドに舞台を置き換えたヌレエフ版「シンデレラ」は、主役の銀幕のスターとシンデレラの2人を囲む脇の人々のパーソナリティが、ひどく誇張されて描かれている。夢もあるが、笑いもたっぷり、というバレエ作品なのだ。意地悪な継母は男性ダンサーが踊るように創作されていて、3月のツアーではジョゼ・マルティネスとステファン・ファヴォランが配されている。
「シンデレラのアル中のパパの再婚相手。おかね、贈り物、贅沢、そして何よりも権力が大好きという女性で、女優になるという自分の叶わぬ夢を娘2人に託しているんです」とステファン。継母役が男性ダンサーによって踊られることで、シンデレラとのコントラストができ、彼女と連れ子2人によるシンデレラ苛めが陰惨に見えず、滑稽に転じるのだ。顔の表情もアクションも、優雅さを失うことなくオーバーにステファンは演じる。「この役、僕は大いに楽しんでますよ。これは舞台なんですから、観客に憂さを忘れて良い時間を過ごして欲しいんです」。オペラ座バレエ学校に通学しながら、15歳になるまでピアノのレッスンをつづけていた彼。優れた音楽性は当然ダンスにも大いに役だっていて、「シンデレラ」はプロコフィエフの音楽をヌレエフが上手く使った振付だと感心する。音楽に合わせ、自然とぎょっとした顔をみせたり、体の動きを誇張するようになっているので踊りやすいそうだ。

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「シンデレラ」継母(photo:Laurent Philippe/OOpéra national de Paris)

「役作りあたっては、街中でお金持ちの年寄り女性たちの振る舞いを観察しました。イタリア映画「老女の金(日本未公開)」も参考になりましたね。いかさまポーカーで調子よく勝っていたのに、ある時点から負け始めて・・・という映画で、メークをしっかりした老女の表情がすごく興味深い作品でしたね 」。また彼は以前に踊った他のダンサーたちの継母ぶりも、すべてチェックをしたそうだ。良い部分はいただき、ここはちょっと?と思う部分は、そうしないように・・・という具合に。「もちろんジョゼのも見ましたよ。彼って日頃は慎み深い人だけど、この役では思い切り感情を表してるのが面白いですね。役作りに熱心な彼から、あの部分、どうやったの?と聞かれ、教えてあげた部分もあるんですよ」。
 30年代調のヘアスタイル、毛皮の襟巻を首に、トゥシューズ・・・意地悪な目つきで、舞台をかけまわるマダム。見事な化けっぷりだ。「僕は服もおしゃれも大好き。だから女装も楽しいんです。衣裳は役に入り込むのに、本当に役立ちますね」。オペラ座で観客を沸かせる、もう1つの彼の当たり役は「リーズの結婚」のコミカルなママ役。こちらも女装だが、毛皮の代わりに格子のワンピースにエプロン、トウシューズではなくサボ、と田舎の寡婦らしく素朴な装いである。次回のオペラ座ツアーに「リーズの結婚」を期待しつつ、まずはポワントで6~7回転も軽いという彼の「シンデレラ」の継母ぶりを堪能しよう。

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「リーズの結婚」シモーヌ(photo:Michel Lidvac)

大村真理子(フィガロ・ジャポン・パリ支局長)

◆ステファン・ファヴォラン出演予定日

「シンデレラ」
2010年3月12日(金)6:30p.m. (継母)
2010年3月13日(土)6:30p.m. (継母)
2010年3月15日(月)6:30p.m. (継母)

マリ=アニエス・ジロー インタビュー

マリ=アニエス・ジロー(エトワール)


1985年 パリ・オペラ座バレエ学校入学。
1990年 15歳でパリ・オペラ座バレエ団入団。
1992年 コリフェに昇格。
1994年 スジェに昇格。
1999年 プルミエール・ダンスーズに昇格。
2004年 3月18日「シーニュ」(カロリン・カールソン振付)の終演後、エトワールに任命される。


 フランスで2009年度のベストシンガーに選ばれたバンジャマン・ビオレー。彼のためにマリ=アニエス・ジローが振付け、かつ出演して踊っているクリップ"La Superbe"は、フランスで目下クリップ・ナンバー1の人気である。「私、新しいことをするたびに、なぜか毎回上手くゆくの。すごくうれしいわ」。オペラ座の舞台以外でもさまざまな活動を続ける彼女。社会貢献の面でも時間を惜しまず、12月のある日曜にはルーブル美術館のピラミッドの下で、一般人を率いて踊るというハプニング的イヴェントを成功させた。「病気の子供たちを援助する慈善団体"希望の鎖(La Chaine de l'Espoir)"の存在を世に知らしめるために、一役かったのよ。エトワールではマチアス、ジェレミー、オレリー、それから大勢の若手ダンサーが賛同して協力してくれたの。オペラ座での稽古では、ダンサーと一般人が一丸となって発するポジティブで幸せ感いっぱいのエネルギーが感じられて・・素晴らしい体験をしたわ」

 外界との交流が目覚ましい彼女には、さまざまな種類のオファーが次々と舞い込む。ハリウッド・スターの寝起きをカメラに収め続けた写真家からは、ハリウッドの往年の女優たちに扮しての撮影!というリクエストが彼女に来ているそうだ。「自分以外の人物になりきるという点では、バレエと同じね。カリフォルニアで撮影予定なの。大きな車とかを借りて、ハリウッドの良き時代を再現するのよ。エヴァ・ガードナーとか、本当の意味でのスターが存在した昔のハリウッドは大好き」。奇しくも彼女が来日公演で踊るヌレエフ版「シンデレラ」の世界と話がオーバーラップした。この作品を日本で初演するのだが、初稽古は今から15年くらい前というのが、驚きである。「ギエムがオペラ座を去った直後だったから、まだ20歳くらいのころの話。突然シンデレラの代役に配されて、稽古をしたのよ。でも、舞台には出ず。その後も配役されたものの、何かの都合で別の作品で舞台に出ることになって・・などと、稽古はするものの、舞台には出たことがないというバレエなの。ついに日本で初舞台というわけね!カール・パケットと一緒に踊るのは好きなので、すごく楽しみ。先日、お茶をひっくり返してしまって床を拭きながら、"私、もうシンデレラの準備をしてるのよ"って冗談を言ったくらいよ(笑)」

 3月13日、14日にゴージャスにシンデレラを踊った後、マリ=アニエスは18,20、21日と「ジゼル」の3公演でウィリの女王ミルタを踊る。愛するアルブレヒトを助けて!というジゼルの哀願を無慈悲に退けるミルタ。演技と存在感があいまって、彼女は強い印象を観客に残す。「非人間的な役に思えるけど、違うの。ミルタもジゼルの苦しみを一緒に生きてるのだから。でも、ウィリの女王なので、ジゼルを守ってあげたくてもできないだけ。ジゼルを踊るオレリーが、私の厳しい表情の中にジゼルの苦しみを感じてることが読み取れる、って言ってくれたの」

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「ジゼル」ミルタ
photo:Julien Benhamou / Opéra national de Paris

 このミルタ役、肉体的にもとてもハードなのだそうだ。舞台の下手から上手に向い、左右の足を小刻みに入れ替えてするすると前進し、ミルタは登場する。ベルトコンベアーに乗ってるの?と知り合いにいわれたというのももっともなほど、滑らかさと均一なリズムで彼女は移動する。同じ歩みで、その後は舞台の後方から前方へと乱れることなく見事なほどまっすぐに。「この登場はバレエ作品中、高度なテクニックが要求され、最も難しい出といわれてるのよ。足もすごく痛いの。難易度が高いとはいえ、プルミエール・ダンスーズ時代に最初に配役されたときに、テクニックをしっかり体得した上で舞台に出たわ。もちろん他の作品より、稽古をたっぷりとしてね」
21世紀の偉大なダンサーの一人に挙げられるマリ=アニエス・ジロー。その舞台を生で見られる貴重な機会である。それにコンテンポラリー作品での来日が多い彼女が、今回はクラシック作品を踊るのだから、ますます見逃せない。

大村真理子(フィガロ・ジャポン・パリ支局長)



◆マリ=アニエス・ジロー出演予定日

「シンデレラ」
2010年3月13日(土)1:30p.m. (シンデレラ)
2010年3月14日(日)3:00p.m. (シンデレラ)

「ジゼル」
2010年3月18日(木)7:00p.m.(ミルタ)
2010年3月20日(土)1:30p.m.(ミルタ)
2010年3月21日(日・祝)1:30p.m. (ミルタ)

デルフィーヌ・ムッサン インタビュー

デルフィーヌ・ムッサン(エトワール)


1980年 パリ・オペラ座バレエ学校入学。
1984年 15歳でパリ・オペラ座バレエ団入団。
1986年 コリフェに昇格。
1988年 スジェに昇格。
1994年 プルミエール・ダンスーズに昇格。
2005年 5月3日「シンデレラ」(ヌレエフ振付)の終演後、エトワールに任命される。


「私、少し日本人なの」。来日への期待を尋ねたら、デルフィーヌから不思議な答がかえってきた。10年位前から日本に弟が住んでいて、義妹が日本人なのだから、というのがその説明だ。フレデリック・ワイズマン監督の映画「オペラ座バレエのすべて」の中で、リハーサル・スタジオで一人きりで「メデ」の稽古をするシーンや、メデが乗り移ったかのように鬼気を感じさせる舞台の彼女が印象的で、あれは誰?と思った人も多いだろう。オペラ座が隠し持つ素晴らしい宝を見たという声も耳にした。
 3月の来日公演では役がらをがらりとかえ、ハリウッドの女優となり、人気俳優と恋におちるシンデレラを踊る。この作品でエトワールに任命された彼女。これに良い思い出を持っているのは当然なのだが、それだけでなく、特別な思いが重なるのだという。なぜ?と聞いて、彼女がこともなげに語った答えに驚いた。「私の人生において重要な時期のことだったから。二人目の子供を妊娠している時だったし、それに腕を骨折していたの」と。

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「シンデレラ」(photo:Laurent Philippe)

 骨折は舞台出演の数日前にわかったそうで、彼女の衣裳だけギブスを隠すのに急ぎで袖をつけて、と。「普通は踊らないでしょうね、こんなとき。でも、痛みがなかった上に、妊娠でじきに踊れなくなるってわかっていたので、リハーサルもしっかりしているのだから、舞台にたちたかったの。任命はまったく思ってもいなかっただけに感動したし、自分の仕事が認められたということで、すごく幸せな気持ちになれたわ。シンデレラ役はもちろん大好き。このヌレエフ版は、ハリウッドを舞台にしたアニメ漫画みたいなバレエ。森英恵がデザインし、ビーズの1つずつが手刺繍されたドレスを着て、1900年風のヘアスタイルで・・・すごくフェミニンな役なのよ」
 もっとも義姉たちに虐められる自宅では、グレーの地味なワンピースで掃除に励む。ハリウッドの近くに住む不幸せな娘が夢見るとしたら、それは映画の世界。それで、チャーリー・チャップリンを真似て、父親の大きな靴を履いてタップを踊るシーンがある。
「だからタップダンスもしっかりと稽古したのよ。舞台ではトゥシューズの上から大きな靴をはいて踊らなければならないので、技術的になかなか難しいの」
 複雑な振り付けで難易度の高いヌレエフ作品をハンデを抱えて踊り、エトワールに任命されたデルフィーヌ。その才能とバレエへの情熱はお墨付きというわけだ。任命された時のパートナーはカール・パケットだった。東京公演では彼はマリー・アニエス・ジロをパートナーに踊ることになっている。では、デルフィーヌのプリンスは?「マチュー・ガニオと組むのよ。実のところ、これには二人でびっくりしたの。でも、それに先立って「ジュエルズ」のダイヤモンドをオペラ座で二人で踊ったところ。彼、素晴らしいパートナーよ。私はリハーサル・スタジオでの稽古から息が合わない相手とじゃないと、だめ。目も合わさないパートナーがときにいるのだけど、すぐに目で語りかけてくる彼とはすぐに上手くいったわ。彼の身長も私にはぴったりなの」
 華奢な身体にパワーと情熱を秘めた麗しいエトワール。マチュー・ガニオと彼女が繰り広げるハリウッドの夢の世界まで、あと3か月!

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「ジュエルズ」"ダイヤモンド" 
マチュー・ガニオ、デルフィーヌ・ムッサン(photo:MichelLidvac)

大村真理子(フィガロ・ジャポン・パリ支局長)


◆デルフィーヌ・ムッサン出演予定日

「シンデレラ」
2010年3月13日(土)6:30p.m. (シンデレラ)
2010年3月15日(月)6:30p.m. (シンデレラ)

カール・パケット インタビュー

カール・パケット(プルミエ・ダンスール)

1987年 パリ・オペラ座バレエ学校入学。
1994年 17歳でパリ・オペラ座バレエ団入団。
1996年 コリフェに昇格。
2000年 スジェに昇格。
2001年 プルミエ・ダンスールに昇格。


 ヌレエフ版の「シンデレラ」は一般に知られる童話の灰かぶり姫とは異なり、30年代のハリウッドが舞台。シンデレラと恋に落ちる男性の主役はプリンスではなく、銀幕の人気スターである。しっかりとした骨格の長身でブロンドヘアのカール・パケットには、役作りせずとも俳優的風貌が漂う。映画をみるのは大好きで、昔はショーン・コネリー、今はジョージ・クルーニーの作品は見逃さないと語るカール。「でも僕自身、俳優になろうなんて夢見たことはないですよ。言葉で表現することがひどく苦手。その点体を介して表現するダンスは、話さなくて済むので・・・」
 オペラ座では主役もあれば準主役も、という具合に、プルミエ・ダンスールの彼の活躍は幅広い。「クラシックの大作については、どの役がとりわけ好きということは特にないです。僕なりに登場人物を作り上げて舞台にたち、その舞台の上の僕は本当の僕ではない、ということが好きなので。ましてやヌレエフの振り付けなら、どれも男性ダンサーにとって踊りがいがあるように創られてますからね。「シンデレラ」はいかにもハリウッドという感じを誇張した世界。その人気俳優なので、とにかくショー・オフな役。森英恵による輝きのあるコスチュームもダンサーの価値を美しくひきたててくれて、踊るのが楽しい作品ですね。気に入ってますよ、これは」

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「シンデレラ」映画スター(photo:Laurent Philippe)

 第一幕に彼の登場シーンはない。第二幕、映画の撮影スタジオのシーン。いくつものコミッカルなスケッチの後、ようやく映画俳優が姿を現すのだ。しかも、舞台中央の階段の上からいともゴージャスに!「そうなんです。それまでのシーンはすべて彼の登場のため、という感じ。バレエそのものが、この俳優の役をひきたてるように創られてるんです。そして登場してから最後までは、ほとんど舞台上にいます。僕がこの作品で1つ驚くことは、第二幕のソロの部分。これはヌレエフらしくない、というか、ヌレエフの創作の中で最も男性的な振り付けだと僕は思っているんです」。自分のダンスは男性的と評価する彼ならではの指摘だろう。ちなみにバレエ学校時代、力強さを湛えた「ラ・バヤデール」の戦士ソロルが彼の憧れだったとか。 
 彼のこれまでのシンデレラはクレールマリ・オスタ、デルフィーヌ・ムッサン、エミリー・コゼットだった。3月の東京公演では、初めてマリ=アニエス・ジローと組む。最近は「ジュエルズ」、過去には「パキータ」で組んでいる二人なので、すでに良い関係が築かれている。バレエ団の中でも長身を競い、確かなテクニックで定評のある二人が踊る「シンデレラ」。ハリウッド全盛時代が持つスケールの大きさ、グラムール、豪華さも存分に味わえそうで、見ごたえのある舞台が待ち遠しい。

大村真理子(フィガロ・ジャポン・パリ支局長)

◆カール・パケット出演予定日

「シンデレラ」
2010年3月13日(土)1:30p.m. (映画スター)
2010年3月14日(日)1:30p.m. (映画スター)


バンジャマン・ペッシュ インタビュー

バンジャマン・ペッシュ(エトワール)

1986年 パリ・オペラ座バレエ学校入学。
1992年 18歳でパリ・オペラ座バレエ団入団。
1994年 コリフェに昇格
1997年 スジェに昇格。
1999年 プルミエ・ダンスールに昇格。
2005年 9月22日中国・上海公演で「ジゼル」のアルブレヒトと「アルルの女」のフレデリを演じ、終演後、エトワールに任命される。


 バンジャマンが「ジゼル」を初めて踊ったのは2002年。「これはキャリアの最後まで共に歩んでゆきたい作品。なぜってダンサーが個人として経験し成熟することで、役作りが豊かになってゆくから。良いワインと同じ。年月を経るほどに熟成して、味わい深くなるんです」。
 アルブレヒトについて彼の解釈はというと・・・舞台上に颯爽と登場するのは、城の中で育ち、その環境ゆえに少しばかり傲慢なプリンス。それが物質的に恵まれない農家の素朴な娘に出会う。彼女こそが真実。それまで味わったことのない感情に素直に心を動かされ、その気持ちに流されるまま、婚約者のいる身である現実を忘れ、その結果、物語の展開は悪い方向へ向う。

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「ジゼル」アルブレヒト(photo:Julien Benhamou/Opéra national de Paris)


「第二幕でのケープをかけて登場するシーンでは、罪悪感と贖罪の気持ちから歩みは映画のスローモーションのように。頭の中ではジゼルとの最初の出会いから思い返していて、もし僕がこうしていたら結果は違っていただろう・・と。心、ここにあらずという歩みなんです」。
「ジゼル」での彼にとって大切な3シーンの1つがここである。もう1つは、第一幕でジゼルと鉢合わせする出会いの場。次の展開を知っているという動きにならぬよう、ごく自然に演じるように努めるという。もう1つは最後にジゼルが墓に消え、さて、これが夢だったのか現実だったのか、というアルブレヒトの思いをみせる場である。「演技過剰もいけないし、カリカチュアすぎてもいけない。できる限り自然に演技する必要があるので、とても難しい役ですよ。公演のたびに、白紙の状態で臨むようにしてます」
 第二幕でよく話題にのぼるアントルシャ・シスは、ダンサーの任意。従ってダンサーによって見せるものが異なるのだ。その部分、彼はドゥーブル・アッサンブレを見せた。アントルシャ・シスより自分には難しい、と言うダンサーもいるように、これは力強さを要求されるテクニックだ。「流れとして、このほうが僕にはしっくり思えたので。ショーヴレとアタナソフの「ジゼル」をみたけど、彼もアントルシャ・シスはしなかった。でも彼らが舞台上で発したものは凄かった。技術の披露よりダンサーの俳優的演技が重要な作品。150年前のバレエが、近日のものとして存続できるのもそれゆえですよ」。東京公演の彼のパートナーのイザベルも、演劇性を重視するタイプである。ダンスを超えた、深い感動を残す舞台が期待できそうだ。

大村真理子(フィガロ・ジャポン・パリ支局長)


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「ジゼル」アルブレヒト(photo:Icare)


◆バンジャマン・ペッシュ出演予定日

「ジゼル」 2010年3月20日(土)6:30p.m. (アルブレヒト)

マチュー・ガニオ インタビュー

マチュー・ガニオ(エトワール)

1992年~99年 マルセイユ国立バレエ学校で学ぶ。
1999年 パリ・オペラ座バレエ学校に入学。
2001年 17歳でパリ・オペラ座バレエ団入団。
2002年 コリフェに昇格。
2003年 スジェに昇格。
2004年 5月20日「ドン・キホーテ」(ルドルフ・ヌレエフ振付)終演後、エトワールに任命される。


09-11.18Mathieu01.jpg 若くして皆に注目されるプレッシャーって、今まさに浅田真央ちゃんが味わっているようなものなのだろうか。マチュー・ガニオがエトワールになった時は、そのまま順調に大きくなっていくと思われたが、本人は相当苦しんだという。
 「だって、バレエ団内での立場は、それまで自分が憧れていたルグリ、イレール、ニコラ・ル・リッシュ、オレリー・デュポンなどと同じになったとしても、バレエのスキルはもちろん、作品の考察の深さとか、あらゆる意味で彼らの域に達していないことは自分でもわかっていたからね。ただ、そこで焦らずにその都度やるべきことに向き合っているうちに、成長の速度がエトワールになる前よりも早くなっているのを感じた。それが環境というものなのかはわからないけど」
 来日公演では、華のあるマチューならではの役どころを見せてくれる。それも音楽こそ耳になじんだプロコフィエフの「シンデレラ」なのに、舞台上で展開されるのはお城の宮廷内の話ではなく、映画業界のドラマ。
「で、僕が踊るのも、王子様じゃなくて、映画スター(笑)。シンデレラだって可哀想な、いじめられっ娘ではなく、自分の力で映画界をのし上がっていこうとしている、という設定が面白いよね。映画スターという存在に対しては、やっぱり昔から憧れがあったから、演じていてもワクワクするし。僕がロールモデルにしたのは、アラン・ドロン。古い?そうかなあ(笑)。でも僕たちの「シンデレラ」も今の何でもありの映画業界じゃなくて、選ばれた人間しか入れないような、そう、まさしく古き佳き時代の銀幕のイメージがあるんだ。ダンスにしてもフレッド・アステアとジンジャー・ロジャースがスクリーンを彩ったエレガンスに満ちていて。特にシンデレラと映画スターのパ・ド・ドゥなんて、バレエとして見ても信じられないくらいに美しい。バレエも映画もよく知っているヌレエフならではの振付だからね。両方のいいところを取り入れることができたんだろうね」
 パリ・オペラ座バレエの大先輩パトリック・デュポンが、アラン・ドロンと共演したバレエ業界のことを描いた映画(「ダンシングマシーン」)がある、と伝えると、
「なんか、観るのが怖いな(笑)。それって」

佐藤友紀(フリーライター)

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「シンデレラ」映画スター


◆マチュー・ガニオ出演予定日

「シンデレラ」
2010年3月13日(土)6:30p.m. (映画スター)
2010年3月15日(月)6:30p.m. (映画スター)

photo:Laurent Philippe(舞台写真)、Nobuhiko Hikiji

マチアス・エイマン インタビュー

マチアス・エイマン(エトワール)

2001年 パリ・オペラ座バレエ学校入学。
2004年 16歳でパリ・オペラ座バレエ団入団。
2005年 コリフェに昇格。
2006年 スジェに昇格。
2007年 プルミエ・ダンスールに昇格。
2009年 4月16日「オネーギン」(ジョン・クランコ振付)でレンスキーを踊り、終演後エトワールに任命される。


「ジュエルズ」の"ルビー"で、大先輩のオーレリー・デュポンをパートナーに生き生きとした表情で余裕の舞台を見せたマチアス・エイマン。彼の弾ける躍動感にステージは明るく煌き、その美しく力強い跳躍と軽快な脚さばきに観客は呆気にとられた。いや、劇場中がどよめいた、といっても過言ではないかもしれない。

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「ジュエルズ」ルビー(photo:Michel Lidvac)

 最新&最年少エトワールということで彼にのしかかる世間の期待の重さを承知する彼は、"現在の自分の最高のレヴェルの舞台をみせる"、"観客に喜びを与え、自分も舞台の喜びを享受する"ということを自分に課している。「ジゼル」のオペラ座での初出演を振り返り、リハーサルの段階で悩んだと語れるのは、舞台の結果に満足している証だろう。
「自分でもアルブレヒトを踊ったことのあるローラン・イレールと稽古をしたんです。楽しみを求めてジゼルに言い寄る貴族、というのが彼の役の解釈でしたが、稽古を始めて、僕にはそれは向かないってわかったんです」。その結果、エネルギー溢れる若さという彼の持ち味を生かしたアルブレヒトが舞台に登場した。心から愛する人に出会えた喜びを満身にたたえたプリンスである。二コラのはリハーサルだったが、対ジゼル的にマッチョな男という印象を受けたという。「彼の年齢にはそれは似合ってるけど、22歳の僕がそう演じたら馬鹿げてしまう。ドロテと僕の若い二人にとっての現在のベストをみつけてくれたローランは素晴らしい」と語るマチアス。東京公演までまだ数か月あるので、それまでの成長によって、舞台はまた別のものになるかもしれないと本人も期待している。「でも、パートナーは絶対に変えないよ。僕のジゼルはド・ロ・テ!そしてドロテのアルブレヒトはマ・チ・ア・ス!(笑)僕たち年齢も近いので、すごく気が合うんだ。二人で最高の舞台を約束します」。

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「ジゼル」アルブレヒト(photo:Julien Benhamou/Opéra national de Paris)

 卓越したテクニックを評価される彼である。第2幕のアントルシャ・シスに観客が湧いたのは想像に難くないだろう。ここはソー・ド・バスクと組み合わせたり、まったくしなかったりとダンサーの任意パートである。「僕は振り付けに則って、最初からアントルシャ・シスだけ。この部分の音楽は心に訴える強さがあって、たとえ脚が疲れきっていても、音楽にのせられてしまうんだ。この部分は自分の命の果てまで行こうという自殺行為という物語的強さもある。それに僕のクオリティの1つは、ソー(跳躍)とバットゥリー(脚の打ち合わせ)。これを見せないのは残念でしょう。観客を感動させる、男性ダンサーにとって輝かしい瞬間でもあるので、アントルシャ・シス、絶対に見逃さないで!」
大村真理子(フィガロ・ジャポン・パリ支局長)



◆マチアス・エイマン出演予定日

「ジゼル」 2010年3月19日(金)7:00p.m. (アルブレヒト)

イザベル・シアラヴォラ インタビュー

イザベル・シアラヴォラ(エトワール)

09-11.08Isabelle03.jpg1988年 パリ・オペラ座バレエ学校入学。
1990年 18歳でパリ・オペラ座バレエ団入団。 
1993年 コリフェに昇格。
2000年 スジェに昇格。
2003年 プルミエール・ダンスーズに昇格。
2009年 4月16日「オネーギン」(ジョン・クランコ振付)終演後、エトワールに任命される。


 どこまでも長く華奢な脚と優美なポワントワークで、フランスでは多くのバレエファンを魅了して久しいイザベル。たいそうな美女である。彼女がエトワールに任命されたのは、今年の4月16日「オネーギン」の公演後で、その直後のルグリのアデュー公演が彼女にとってエトワールとしての初デフィレだった。最新エトワールの歩みに惜しみない拍手が観客からは贈られたのだが・・。「実はこのとき舞台で初めて上がってしまったのよ。新エトワールの出に、先輩エトワールたちがチチチチと舌を鳴らして、はやしたてる習慣があるの。それを背に舞台を降りはじめんだけど、手が急に震えてしまって。びっくりしたわ」、と笑う。よほど感激が大きかったのだろう。

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「ジゼル」(photo:Michel Lidvac)

 任命後、エトワールたちは次々と新しい役を得る。イザベルにとって、今シーズン開幕の「ジゼル」がその1つ。「天井桟敷の人々」「椿姫」で見せた豊かな演劇性を、この作品でも多いに発揮してみせた。女優的役作りを問われる作品を好む彼女が長年演じてみたいと願っていた第一幕の狂乱の場は、とりわけ好評だった。ジゼルの心をどう描いたのだろう。「アルブレヒトにとってジぜルとのことは気晴らし。でも彼女はとてもピュアで、彼をとても愛している。だから彼の言うことを心から受け止めているの。だからこそ永遠の愛を誓う!と指を天に挙げたはずの彼の嘘に、彼女、プチっと切れてしまうのよ。ね、想像してみて。自分のフィアンセが他の人とすでに婚約してたって。これは電気ショックのように強いわ。真実を質そうとしても、彼は目をそらすだけ。いったい何がおきたの?私、すごく幸せだったのに、いったい何がおきたの・・と。母親の姿も見分けられない、自分の体すら自分のものではないよう。最後にヒラリオンに揺すぶられて一瞬気を取り戻すのだけど・・。今わの際に人生の厳しさを知り、彼女、若い娘から大人に成長するのよ」

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「ジゼル」アルブレヒト役のステファン・ビュヨンと(photo:Michel Lidvac)

 ウィリ(精霊)となった第二幕では、ポエジーを感じさせる彼女特有の繊細な脚の動きが生かされ、パートナーのステファン・ビュヨンの見事なサポートもあり、本当に宙をさまようようだったそうだ。が、精霊とはいえ、彼女は人間的感情を表現することにしたという。「彼が踊り終えて倒れたときに夜明けを告げる鐘がなるでしょ。彼の命が救われたことがわかって、喜びで顔を輝かせるのよ。最後、私は地中に戻るけど、あなたは助かった。もう二度と会えなくなるのね・・とお墓のほうへと引かれてゆくシーンは、最高!」
 公演時の感動を思い返し、目を輝かせて語るイザベル。東京ではバンジャマン・ぺッシュがパートナーになる。彼とはオペラ座では「ラ・バヤデール」「アルルの女」を踊り、また外部のガラでも共演しているので、お互いの間には信頼関係が築かれているという。エトワールとなって初の来日。新たなパートナーと「ジゼル」を踊ることを、今から心待ちしている。

大村真理子(フィガロ・ジャポン・パリ支局長)

アニエス・ルテステュ インタビュー

アニエス・ルテステュ(エトワール)


1983年 パリ・オペラ座バレエ学校入学。
1987年 16歳でパリ・オペラ座バレエ団入団。
1988年 コリフェに昇格。
1989年 スジェに昇格。
1993年 プルミエール・ダンスーズに昇格。
1997年 10月31日「白鳥の湖」(ルドルフ・ヌレエフ振付)の終演後、エトワールに任命される。


09-10.31Agnes01.jpg 幼い頃に観たヌレエフの舞台で、「バレエに関する二つの夢が芽生えた」というアニエス・ルテステュ。それは「将来こういう衣裳をデザインして、この男の人(ヌレエフ)と踊りたい」とかなり具体的なものだったとか。
「自分でデザインを手がけるようになってから、より明確に気づいたんだけど、チュチュって少し前傾しているというか、真っすぐじゃない方が踊りやすいの。そう、美しくて踊りやすいというのが絶対条件なのよ」
 1幕と2幕の衣裳の違いも楽しめるのが、来日演目一つ『ジゼル』だ。
「『ジゼル』って、どうしても精霊たちが踊る、第2幕のほうが注目されがちだし、私自身も踊るのは大好きだけど、第1幕だって振付・演出によっては皆さんが考えているようもエキサイティングなのよ。少なくともパリ・オペラ座バレエ団が今度日本に持って来るパトリス・バール版には、これまで語られなかった秘密があるし(笑)」
 「秘密」という言葉を口にする時は、大げさにわざと周囲をうかがうようなしぐさをしてみせるアニエス。すっかりドラマティック・ダンサー、女優ダンサーの雰囲気十分だ。
「1幕で私が踊るジゼルは、身体が弱いという従来の解釈だけではない、何か決定的に他の村娘と違うニュアンスがある。それって、村にやって来た公爵と、ジゼルの母親のアイ・コンタクトがヒントで、2人はヨーロッパの国々に昔あった領主の初夜権で関係を持ち、ジゼルはその落しだね、という解釈なのよ。びっくりした?だからたぶん母親もそうやって村娘ジゼルを育てただろうし、ジゼルがアルブレヒトと恋に落ちるのも、他の村娘にないエレガンスというか高貴さゆえ、と。そう考えると、なおさらアルブレヒトの裏切りを知ったときのショックが大きいのは当然でしょう」
 パリ・オペラ座バレエ団のレパートリーになっているもう一つのマッツ・エック版『ジゼル』の「人間関係の濃さもどこかで反映させてるわ(笑)」という。その相乗効果による、さらなる深みが楽しみ!

佐藤友紀(フリーライター)


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「ジゼル」ジゼル


◆アニエス・ルテステュ出演予定日

「シンデレラ」
2010年3月12日(金)6:30p.m. (シンデレラ)

「ジゼル」
2010年3月18日(木)7:00p.m. (ジゼル)
2010年3月20日(土)1:30p.m. (ジゼル)

photo:Icare(舞台写真)、Nobuhiko Hikiji

ジョゼ・マルティネス インタビュー

パリ・オペラ座バレエ団2010年日本公演では、「シンデレラ」を3組、「ジゼル」を4組のキャストが競演するのも見どころのひとつ。ダンサーたちがそれぞれの役をどのように捉え、演じていくのか・・・。フリーライターの佐藤友紀さん、フィガロ・ジャポン パリ支局長の大村真理子さんによる、ダンサーのインタビューを開幕までお届けします。

初回は、「シンデレラ」で映画スターを、「ジゼル」でアルブレヒトを演じるジョゼ・マルティネス
8月の第12回世界バレエフェスティバルのガラ公演で見せてくれた、アニエス・ルテステュとの「ジゼル」は、短い時間にもかかわらず、ジゼルとアルブレヒトのドラマをくっきりと見せてくれました。
意外なことに、ジョゼが日本で「ジゼル」の全幕を踊るのは今回がはじめて。「全幕が観たい!」と待ち望んでいらした方も多いのではないでしょうか。


ジョゼ・マルティネス(エトワール)


1987年 パリ・オペラ座バレエ学校入学。
1988年 19歳でパリ・オペラ座バレエ団入団。
1989年 コリフェに昇格。
1990年 スジェに昇格。
1992年 プルミエ・ダンスールに昇格。
1997年 5月3日「ラ・シルフィード」(ピエール・ラコット振付)終演後、エトワールに任命される。


09-10.20Jose3.jpg「僕たちプロのバレエ・ダンサーは、たとえそれが未経験の作品でも、1回振付けられた踊りを踊れば、その作品のコードというか、パや動きはスーッと身体に入っていく。でも作品の考察や自分の役の解釈、表現の深さはそこから始まっていくんだよ」
 全幕物の作品でも1回で振付を覚えてしまうなんて、とびっくりしてしまうが、それが長い伝統を誇るパリ・オペラ座バレエ団の底力なのだろう。自分の属するカンパニーについては、こんな自負心もあるというジョゼ・マルティネス。
「ヌレエフ振付の『シンデレラ』では映画スター役も女装しての意地悪な継母役も踊り、かと思えば自分で振付けた『天井桟敷の人々』も上演してもらえる。これってフレキシビリティに富むパリ・オペラ座バレエ団ならではさ」
 加えて振付家として、役を割り当てた仲間のダンサーの個性にも常に目を配っている様子だ。他のカンパニーのスター・ダンサーが集う世界バレエフェスティバルでは「英国ロイヤル・バレエ団のマリアネラ・ヌニェスが一番印象に残ったな」と正直な感想を口にする。
「新作を創るのももちろんやり甲斐があるけど、パリ・オペラ座バレエ団の伝統を確固たるものとしている古典の演目に向き合えるのもうれしいことなんだ。というのは、僕らの場合、プロコフィエフの音楽を使った定番の『ロミオとジュリエット』の他に、ベルリオーズの音楽でサシャ・ヴァルツが振付けた全く別の『ロミオとジュリエット』があるように、『ジゼル』にしてもマッツ・エック版を踊ったりして、そこから得た人間考察というか、役の解釈を再び反映することができるから。カードゲームで、切り札を2枚持っているようなものなんだよ(笑)」
 ジゼルを踊るのが、アニエス(ルテステュ)の時は「他のダンサーが踊るジゼルより、積極的というか好奇心のあるジゼルだからね。イキイキとしているし(笑)」
 というわけで、「最初からだまそうなどと考えずに、いつの間にか恋の喜びにはまっていたという踊りになる」のだとか。さすが名コンビだ!

佐藤友紀(フリーライター)

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「ジゼル」アルブレヒト


◆ジョゼ・マルティネス出演予定日

「シンデレラ」
2010年3月12日(金)6:30p.m. (映画スター)

「ジゼル」
2010年3月18日(木)7:00p.m. (アルブレヒト)
2010年3月20日(土)1:30p.m. (アルブレヒト)

photo:Icare(舞台写真)、Nobuhiko Hikiji