照明デザイナー・高沢立生、音響デザイナー・市川文武、技術監督・立川好治による『ザ・カブキ』座談会。後半の話題からは、リハーサルの現場で次々と新しいアイディアを出し、実現させていくベジャールの才気、そのエネルギッシュな姿が浮かび上がってきます。

立川 (本番直前、)劇場に入って初めて出てきたアイディアもありました。最後の「涅槃」のところは、ダンサーたちが一旦引っ込んで着替えますが、ベジャールさんにはその間がどうしても我慢ならない。そこで、繋ぎとして塩冶の亡霊を出し、師直の首を持ってくることになった。やってみると実に音楽的にはまるし、意味的にもはまる。驚くべき仕事だったと思います。
高沢 そういったことがたくさんあったね。例えば幕開きの現代の場面。
立川 当初は普通の現代の若者ふうにジーパンをはいたり、バラバラの衣裳でした。
高沢 それが、舞台稽古の段階で白の衣裳に統一することに。あの場面は、舞台の"額縁"を「テレビで埋めてほしい」とも言われていました。それは実現せず、今の形になりましたけど、ベジャールさんには、秋葉原の、テレビがたくさん並んだ風景が現代の日本の粋のように感じられたのではないかな。照明は、「もっと白く、白く」と言われた。白は、ベジャールさんにはとても現代的に思える色なのかもしれない。プロローグは白、義太夫の部分は(影を作らずに全体をまんべんなく照らす)"歌舞伎明かり"、そこからどんどんドラマティックになると、あるいはバレエの明かりになり、というのが基本で、あとはほとんど任せてくださいました。
市川 本当は、「山科閑居」(歌舞伎では九段目)も入るはずだったんです。振付の途中でベジャールさんは、「やっぱりこうしたい」とやめてしまい、かわりに外伝の「南部坂雪の別れ」が入った。「山崎街道」も本当は義太夫とオーケストラでいく予定でしたが、「ここは下座音楽でいきたい」と。で、「山崎街道」のための音楽が余っちゃったから、急遽それを討ち入りの場面のヴァリエーションに使ったんです。でも、全然不自然ではないでしょう?
初演から27年、今回で通算上演回数185回を達成する『ザ・カブキ』。この作品を踊り継いでいく柄本、森川ら新世代の由良之助ダンサーに、期待が寄せられる。

市川 これはもう、東京バレエ団最高の古典作品と言ってもいいんじゃないでしょうか。約30年間、全然古びることなく、「今出来上がったばかり」のような新鮮さで観ることができる。忠臣蔵という話に目をつけたベジャールさんは凄いですね。
森川 しっかり受け継いでいかなければと思います。
柄本 もっともっと学ぶ必要があると再確認させていただきました。自分なりに研究を重ねながら、次の由良之助に取り組んでいきたいですね。
森川 この作品への愛に満ち溢れておられる皆さんの期待は、決して裏切りたくないと思います。
取材・文:加藤智子(フリーライター)

※座談会の模様は、「ザ・カブキ」公演プログラムでさらに詳しくお届けします。
写真:長谷川清徳(舞台)、吉澤隆(初演時リハーサル)


振付家モーリス・ベジャールとは30年以上の交流があり、一緒にデュエット作『コーデリアの死』(〈パ・ド・ドゥの芸術〉)も踊った、歌舞伎俳優の坂東玉三郎さん。ベジャールが東京バレエ団に振付けた『ザ・カブキ』も、初演から観ていて、一昨年の花柳壽輔さんの会でも一部だけだが改めて観て、「きれいでしたね」という感想を口にしていた。そんな玉三郎さんに、12月14日の『ザ・カブキ』で由良之助を踊る柄本弾が話を聞くという、夢のような顔合わせが実現した。


