2010年4月アーカイブ

「我を忘れてしまうほど役にのめり込んで」

取材・文/高橋彩子(舞踊・演劇ライター)


10-04.28_781f.jpg 当初、自分はオネーギンよりもレンスキーのような役柄が向いているんじゃないかと思っていたんです。ところが実際に踊ってみると、とくに激しく愛を告白する3幕にはすっかり感情移入してしまい、我を忘れるほど。違和感が皆無でした。思い返せば10代のころ、マルシア・ハイデさんとリチャード・クラガンさんがガラ公演で3幕の手紙のシーンのみを踊っていらしたのを観て強烈な演技に驚き、後から全体の流れを知って「そんな劇的な場面だったのか」と腑に落ちた記憶があります。こういう情熱的な物語って、演じていてとても楽しい。今は1幕や2幕のオネーギンの冷淡さをどう表現しようかと思案中です。僕はイメージの手助けとして時代を置き換え、"働き疲れたウォール街の若者が癒されるために田舎に来たけれど、いざ過ごしてみると退屈だったり都会のクールさと合わないところがあったりして嫌な態度を取る"などと、想像しながら取り組んでいます。
 それにしても、踊りこなすのは本当に至難の業。たとえば古典のように予備知識が豊富な演目ならば、おおよそのペース配分や、現段階で自分がどの程度できるのかといった予測ができる。けれどもこの作品の場合、越えなければならないハードルが多過ぎて見当がつかないんです。リフトでは女性を放り投げたり、飛び込んで来たところをキャッチしたりするため、初めは打ち身やあざもたくさんできて、よろよろと這うように帰宅していましたよ! でも、パートナーの斎藤友佳理さんと一緒に動きの解析をして、うまくできた時は、ロールプレイングゲームのような感覚が面白くて。そうこうするうち、踊り全体が身体に馴染んできましたね。
 最近、40歳になったんです。成熟した役柄だけに、20代~30代前半では演じきれなかった気がするので、精神的にはいい時期に出合えたなあと。体力的に言えばもう少し前が良かったかもしれませんが(笑)、今の自分にあるもので補ってうまくコントロールしたいです。技術も演技も両方大切だけれども、最後は何よりドラマの中で一貫したオネーギン像を造形できたらと願っています。


photo:Shinji Hosono、make-up:Kan Satoh

ダンスマガジン6月号(新書館/4月27日発売)に、4月上旬に行われた東京バレエ団との"四季"(「仮面舞踏会」より)のリハーサルレポート、マラーホフのインタビューが掲載されています。リハーサル写真満載の充実した記事をぜひご覧ください。

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バレエファンに愛され、支持され続けて30年。<第23回バレエの祭典>の豪華ラインナップが決定! 世界トップレベルの究極の舞台だけを集めたシーズンラインナップとなっています。
5月25日(火)より、特別鑑賞会の新規会員受付を開始いたします。
限定数のスペシャルシートで最高の舞台をお楽しみにください!

●<第23回バレエの祭典>シーズンラインナップはこちら


東京バレエ団
「ザ・カブキ」(全2幕)

◆主な配役◆

大星由良之助:後藤晴雄
直義:柄本武尊
塩冶判官:平野玲
顔世御前:上野水香
力弥:井上良太
高師直:木村和夫
判内:高橋竜太
勘平:長瀬直義
おかる:小出領子
現代の勘平:梅澤紘貴
現代のおかる:高村順子
石堂:宮本祐宜
薬師寺:安田峻介
定九郎:松下裕次
遊女:西村真由美
与市兵衛:永田雄大
おかや:田中結子
お才:井脇幸江
ヴァリエーション1:松下裕次
ヴァリエーション2:長瀬直義

※音楽は特別録音によるテープを使用します。

◆上演時間◆

【第1幕】 15:00 ― 16:15
休憩 20分
【第2幕】 16:35 ― 17:20

「未知の世界の中で、たくさんのことを吸収しています」


取材・文/高橋彩子(舞踊・演劇ライター)


10-04.25_134f.jpg ガラ公演などでパ・ド・ドゥを観たことはありましたが、この作品を、全幕を通してはじめて観たのは一昨年のシュツットガルト・バレエ団公演でした。第1幕と第3幕で時間が大きく経過しているので、1人の女性の成熟を表現するのは大変だろうなあという印象を受けましたね。もちろんその時は、自分がタチヤーナを踊るなんて予想もしていなかったです。トライアウトの時にも最終的なキャスティングとは考えておらず、リード・アンダーソンさんの「完璧に踊れなくてもいい」という言葉を励みに、勉強のつもりでひたすら楽しんで踊っていて。
 実際の稽古が始まった今は、完全に"未知の世界"のまっただ中。不可能に思えるハードなリフトがたくさんあるんです。自分が今どこにいるのか、重心がどこなのかわからない! クランコさんはよくこんな振付を考えついたなあと、信じられない気持ちで......。でも、映像を観ると難しそうに見えないんですよ。ということは私にもできるはず。と、必死で自分に言い聞かせる日々です。
『白鳥の湖』オディール、『ラ・バヤデール』ガムザッティなど、去年は大役続き。海外の先生の指導も受け、多くを学びました。たとえばナタリア・マカロワ先生には、演技面ももちろんですが、私の発想にはなかった筋肉の使い方・動き方を教えていただき、"目から鱗"でしたね。ただ、プレッシャーからか、去年は何のために踊っているのか見えなくなってしまった時期も。それが、今年に入って『シルヴィア』タイトルロールを踊った時には、稽古中も本番もとても幸福な気分でしたし、今の力を出し切り、自分のために踊ることができたように感じました。精神的に、ちょっとだけ前へ進めたということなのかな。
 私は取り立ててスタイルが良いわけでも美人なわけでもない。だから少なくとも、技術的な失敗はするまいと自分に誓っているんです。まずはきちんと踊ること。そして、最終的にお客さまが、テクニックのことも私個人のことも忘れ、舞台上にタチヤーナをみつけてくださることが理想です。正直、どこまでできるかまだわかりませんが、吸収することがたくさんあって、毎日が充実しています。

(NBSニュース Vol.278より転載)

photo:Shinji Hosono、make-up:Kan Satoh


東京バレエ団
「ザ・カブキ」(全2幕)

◆主な配役◆

大星由良之助:柄本弾
直義:森川茉央
塩冶判官:長瀬直義
顔世御前:二階堂由依
力弥:青木淳一
高師直:松下裕次
判内:氷室友
勘平:宮本祐宜
おかる:佐伯知香
現代の勘平:井上良太
現代のおかる:河合眞里
石堂:谷口真幸
薬師寺:梅澤紘貴
定九郎:小笠原亮
遊女:吉川留衣
与市兵衛:永田雄大
おかや:田中結子
お才:井脇幸江
ヴァリエーション1:小笠原亮
ヴァリエーション2:宮本祐宜


※音楽は特別録音によるテープを使用します。


◆上演時間◆

【第1幕】 15:00 ― 16:15
休憩 20分
【第2幕】 16:35 ― 17:20

<マラーホフの贈り物2010>において、チラシ、ホームページ等でお知らせしておりましたマラーホフのソロ演目が、マラーホフの強い意向により変更となりました。
また、Aプロで上演する"四季"(マラーホフ振付)の東京バレエ団出演者、そしてBプロで上演する「ラ・バヤデール」"影の王国"に豪華ゲスト・ソリストの出演が決定しましたので、お知らせします。


●マラーホフ初演のソロ「瀕死の白鳥」上演決定!

かねてから「つねに新しい自分をお見せしたい」と語っているマラーホフ。今回Aプロで、イタリアの気鋭振付家マウロ・デ・キャンディアによる「瀕死の白鳥」を披露してくれることになりました!この小品、音楽はもちろん、あのアンナ・パブロワが初演した名作と同じサンサーンス作曲のもの。「女性だけがあの音楽で踊れるのを、ずっと妬ましく思っていたので(笑)、とても嬉しい」とマラーホフ。女性版と同様にやわらな腕や体の動きを駆使しながらも、男性ならではの、いえ、マラーホフならではの美と力に満ちた"白鳥"、これは必見です。
また、Bプロではエドワード・スタンリー振付の「ラクリモーサ」を披露します。モーツァルトの絶筆である「レクイエム」で、彼が実際に筆を絶ったのが、このラクリモーサ(涙の日)の部分。ため息を引きずるような伴奏に悲痛な合唱が始まる曲にのせ、罪をもって死の眠りについた者が灰の中から蘇り、神の裁きの前に立って恐れおののく姿が踊られます。

【Aプロ】
「瀕死の白鳥」
振付:マウロ・デ・キャンディア/音楽:カミーユ・サンサーンス
(※5/18「ヴォヤージュ」、5/19「アリア」より変更)

【Bプロ】
「ラクリモーサ」
振付:エドワード・スターリー/音楽:ヴォルフガング・A.モーツァルト
(※5/22「ラヴィータ・ヌォーヴァ」、5/23 「ヴォヤージュ」より変更)


●Aプロ マラーホフ振付"四季"の出演者決定!

マラーホフ自身の振付による"四季"(「仮面舞踏会」より)日本初演は、Aプロのハイライト演目のひとつ。4月初旬にマラーホフが来日して、東京バレエ団とのリハーサルに精力的に取り組みました。
この作品はオペラ「仮面舞踏会」をもとに、ヴェルディ・バレエと銘打って上演された全幕作品ですが、"四季"はその中で劇中劇として踊られる場マン。題名どおり全体が4つの季節のパートに分かれ、マラーホフはポリーナ・セミオノワとともに、大好きな季節だという"夏"のパートを踊ります。そのほかの3つの季節も「理想的なキャスティングでお見せすることができます」とマラーホフ。ご期待ください!


"四季"(「仮面舞踏会」より)

冬:
上野水香
長瀬直義、宮本祐宜、梅澤紘貴、柄本弾

春:
吉岡美佳-柄本武尊
吉川留衣、矢島まい、渡辺理恵、川島麻実子、加茂雅子、
田島由佳、森彩子、小川ふみ、河谷まりあ、政本絵美

夏:
ポリーナ・セミオノワ-ウラジーミル・マラーホフ

秋:
田中結子-松下裕次
森志織、村上美香、岸本夏未、阪井麻美、河合眞里、大塚玲衣
氷室友、小笠原亮、谷口真幸、安田峻介、井上良太、杉山優一

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*4/5~4/9に東京バレエ団で行われたリハーサル(photo:Kiyonori Hasegawa)


●Bプロ「ラ・バヤデール」"影の王国"に、豪華ゲスト・ソリスト出演!

Bプロで上演される「ラ・バヤデール」影の王国には、主演のマラーホフとポリーナ・セミオノワのほか、3人の影のソリスト役で、マリア・アイシュバルト(シュツットガルト・バレエ団)、ヤーナ・サレンコ、エリッサ・カリッロ・カブレラ(ともにベルリン国立バレエ団)が出演!
ベルリンやシュツットガルトでも実現しない豪華キャスティングでお届けします!

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「この作品に取り組める幸せを噛みしめながら」

取材・文/高橋彩子(舞踊・演劇ライター)


10-04.22048f.jpg この作品を初めて観たのは、シュツットガルト・バレエの05年の来日公演。オネーギンを演じるマニュエル・ルグリさんの立ち居振る舞いがあまりにもナチュラルだったので、一観客としてドラマ全体を観て「いいなあ」と、ただただうっとりしていました(笑)。そのオネーギン役に自分がキャスティングされた時には、心底びっくりして。まだまだ、この役を踊る前に勉強しなければならないことがあるはずなのに!というのが率直な気持ちでしたね。それくらい、ここには多くの要素が散りばめられている。踊ってみて改めて、まさに"奇跡のバレエ"だなあと実感しています。踊り手にとってはハードな作品だけれども、名だたるダンサーの方々が踊り継いで来た役柄に挑むことができ、幸せでなりません。稽古場では毎日があっという間に過ぎていくんです。
 自分はオネーギンのような都会的なタイプではないので、感情面で言えば1~2幕の役作りがとくに難しいです。指導者のボーンさんからの「自分の中でシナリオを作りなさい」というアドバイスに従って、たとえば物思いにふける場面などは、直前まで彼がいたサンクトペテルブルグでの仕事について「もっとできたのに」と悔やんだりイライラしたりと、僕なりの空想を施しながら演じて。そういうふうに心理を考えた上で技術面をクリアにして踊ると、振付に感情の流れがすべて入っていることがわかって、すごく合点がいくんですよ。
 パ・ド・ドゥの多い『オネーギン』に対し、1つ前の舞台『ザ・カブキ』の由良之助はほぼ1人での演技。ある意味、対照的ですが、きちんと演じ分けなければと思います。今回の稽古の最終日に初めて、キャスト全員と合わせることができ、全体の動きの中でオネーギンとタチヤーナがどう存在するのかがわかってきたところ。その感覚を忘れずに、パートナーの田中結子さんと力を合わせて、踊りに磨きをかけたいですね。マルシア・ハイデさん主演の映像を観ると、技術どうこうより、もはや感情のみという印象ですから、そのレベルに少しでも近づけるよう、ベストを尽くします!

photo:Shinji Hosono、make-up:Kan Satoh

ウラジーミル・マラーホフが、愛する日本のファンの皆さまのために心を込めて贈る<マラーホフの贈り物>も、今回で8回目。
先日、Aプロで上演される、自身の振付作品「四季」(「仮面舞踏会」より)の振付指導のため来日したマラーホフが、日本のファンの皆さまに、さらなる贈り物を用意してくれました。
こちらのマラーホフのビデオメッセージをご覧ください。



<マラーホフの贈り物>にご来場いただいた方の中から、毎公演抽選で4名様に、マラーホフの直筆サイン入りバレエシューズをプレゼント!
マラーホフからの貴重な贈り物・・・手にするのは、貴方かもしれません。
ぜひご来場ください!

「今までの集大成になるような演技をお見せしたい」


取材・文/高橋彩子(舞踊・演劇ライター)


10-04.19_483f.jpg これまでに『白鳥の湖』『ジゼル』『眠れる森の美女』『ドン・キホーテ』などさまざまな全幕ものを踊りましたけれども、いつか『オネーギン』のような、1人の女性の内面を演じきる演劇的なバレエに挑戦したいと願っていたんです。ですから、バレエ団での上演が決定し、トライアウトで配役が決まると聞いて、「ああ、踊りたい!」と感じました。
 ところがトライアウトの2週間前、膝を怪我してしまったんです。人間の膝がここまで腫れるのかというくらい腫れ、お医者さまからも最初は「もう踊れないかもしれない」と診断されて。実際、3日間はまったく歩くこともできませんでした。その時期の『ホワイトシャドウ』の稽古は、私以外のパートを優先していただいてしのいだものの、トライアウトはとにかくその日、そこに行かなければ選ばれないわけですから、無理なのではないかと思ったけれども、どうにかこうにか参加して。リード・アンダーソンさんから「芝居としてとらえてほしい。演技が見たい」と言われ、自分なりのイメージで演じました。とはいえ、膝が完治しないまま踊ったため、トライアウト後にまた悪化してしまったんです。それだけに、今は無事に本稽古に臨んでいること自体への喜びを、かみしめているところですね。
 オネーギンへの激しい愛と夫への理性的で穏やかな愛情との間で葛藤し、最後は後者を選ぶ。切ないですよね。全てを捨てて愛に生きたい----そんな願望って、女性なら一度は抱くのではないでしょうか。とても共感できるドラマですし、振りと音楽が驚くほどマッチしているので、家でもビデオを観るたびに泣いてしまいます。
『ホワイトシャドウ』では、それまで当たり前だと思っていた目線の使い方や感情の表現方法とは違ったものを求められ、とても苦労しました。その経験がこの作品で生き、感情をより深くリアルに表すことができるのではないかという予感がするんです。今回の舞台で、今までの集大成のような表現ができたらと考えています。

(NBSニュース Vol.278より転載)

photo:Shinji Hosono、make-up:Kan Satoh

『ボレロ』という作品を踊る機会を得た奇跡に感謝。

取材・文/佐藤友紀(フリーライター)

10-04.14_LERICHE.jpg 「確かに僕たちパリ・オペラ座バレエ団と日本って、相思相愛の関係にあるね。僕だけでなく、ダンサーみんなが日本で踊れることを楽しみにしているし、観客の方々の各バレエ作品に対する深い洞察力理解力にも、毎回敬意を抱かずにいられない。だから、今回『ジゼル』を踊った僕が、次はベジャールの『ボレロ』を披露するとなると。一体どんな反応が返ってくるか、今からワクワクしているよ」

 パリ・オペラ座バレエ団日本公演の大トリ『ジゼル』のアルブレヒトを踊り終えたばかりのニコラ・ル・リッシュは、これからすぐにでも『ボレロ』を踊りたいといった上気した表情で、この作品、そしてモーリス・ベジャールというバレエ界の巨人との絆について語ってくれた。 
「実は、オペラ座バレエ団にとっても『ボレロ』は特別な大切な作品でね。これまでパトリック・デュポン、シャルル・ジュド、シルヴィ・ギエム、マリ=クロード・ピエトラガラといったエトワールたちが踊っているけど、エトワールなら誰でも踊れるというわけじゃないんだよ。だから僕が踊ることになった時は本当にうれしかった。しかもモーリス自ら振付を教えてくれて。彼はその時、脚をいためていてあまり動けなかったんだけど、さり気なく動かす腕とか顔の表情のあまりの美しさに"ああ、ベジャール作品って、モーリス本人がやっぱり一番良くわかっているんだな"と改めて思わされたな(笑)。それでいて頭から"こうしろ、ああしろ"というんではなくて、僕のちょっとした提案も受け入れてくれる。とことん懐が深いんだね。だからこそ『ボレロ』という作品も、踊るダンサーによっていろいろなニュアンスをかもし出すんだろうね。パリのオペラ・バスティーユで上演した時、舞台袖で見ていてくれたモーリスが本当にうれしそうだったのが忘れられないよ。観客のあまりの大喝采に、僕が彼を肩で支えて舞台に出て、何度も挨拶したことも。あれは本当に特別な夜だったからね」

 ギエムやピエトラガラの名前が挙がることでもわかるように、『ボレロ』のソロ、メロディーは、女性ダンサーも男性ダンサーも同じ振付で踊る不思議な作品。
「しかも、今指摘されるまではその不思議さに気づいていなかったというか(笑)。そこがモーリスという振付家の凄いところだよね。あの振り、元々はギリシャ音楽『日曜はダメよ』に振付けたものだったというのは、今まで知らなかったけど、これまたモーリスならそんなこともあるだろうなと思うよ。彼は芸術家なのに、常に好奇心旺盛でいろんなことを試していたがったから。もちろん守らなければならない部分はあっても、作品の解釈とかを踊り手である僕に委ねてくれるというのも、そうした彼の自由さのなせる技なんだろうね」

 ちなみにベジャールの愛弟子ジョルジュ・ドンは「『ボレロ』を踊るのは祈りのようなもの」と生前語っていたが、あなたの場合は?
「う~ん、ジョルジュ・ドンの言うこともわかるし、一心不乱というか、思い返せばその時は、無心になっているかなとも感じるし。でも、少なくとも自分の人生そのものをかけなければあの16分間は踊り切れない。振り自体はシンプルに見えるけれど、内面の持っていき方がダンサーに問われているというのかな。ラヴェルの音楽とのシンクロの仕方も尋常じゃないと思うしね。よくこんな作品が生まれたな、と心から驚かされているんだ。そして僕がそれを踊る機会を得た奇跡にも感謝しているよ。日本で踊る時にも、きっとモーリスと交わした何気ない会話とか、彼の仕草なんかを思い出すだろうな。そういう意味でも、僕にとって大切な舞台になるはずだよ」
 オペラ・バスティーユでのベジャールさんの最後の姿と共に、ニコラ・ル・リッシュが踊り切る『ボレロ』を目に焼き付けたい!

 東京バレエ団では、今年6月から7月にかけて、2年ぶり24回目となる海外公演を実施する運びとなりました。今回は、トルコ、ドイツ、イタリア、フランスの4カ国11都市で15公演を開催いたします。
 1966年の初の海外公演から44年間に、東京バレエ団では23回の海外公演を行い、30カ国145都市で689回の公演を重ねてきました。そして、今回のツアーの11公演目となる、7月11日(日)ミラノ・スカラ座での「ザ・カブキ」の上演をもって、海外公演通算700回を達成いたします。日本舞台芸術界でも類をみない記録の達成を祝し、公演終了後ミラノ・スカラ座により特別レセプションが開催される予定となっています。なお東京バレエ団が、イタリ・オペラの殿堂ミラノ・スカラ座の舞台に立つのは、今回が4回目。これまでに、1986年の第9次海外公演(「ザ・カブキ」4公演、<ミックス・プロ>2公演)、1993年の第14次海外公演(「M」3公演)、1999年の第18次海外公演(「ザ・カブキ」3公演)で計12公演を行っています。
 また、トルコのアスペンドス、イスタンブール、イタリアのチヴィタノーバ、コモ、ラッコジーニの5都市で初めて公演を行うため、本ツアー終了時点で、東京バレエ団の海外公演記録は、30カ国150都市704回を達成することになります。
 日本の舞台芸術史に燦然と輝く記録を刻む、東京バレエ団第24次海外公演にご注目ください。



◆東京バレエ団第24次海外公演 スケジュール◆

☆アスペンドス(トルコ)【ローマ古代歌劇場 】
1 .6/17(木)  21:00/『ギリシャの踊り』『ドン・ジョヴァンニ』『ボレロ』

☆イスタンブール(トルコ)【ジェマル・レシト・レイ・コンサートホール】
2.6/19(土)  20:30 『ギリシャの踊り』『ドン・ジョヴァンニ』『春の祭典』

ハンブルク(ドイツ)【ハンブルク州立歌劇場】
3 .6/22(火) 19:30/『舞楽』『カブキ組曲』
4 .6/23(水) 19:30/『舞楽』『カブキ組曲』

ナポリ(イタリア)【サン・カルロ歌劇場】
5 .6/26(土)  20:30/『ギリシャの踊り』『ドン・ジョヴァンニ』『春の祭典』
6 .6/27(日)  20:30/『ギリシャの踊り』『ドン・ジョヴァンニ』『春の祭典』

☆チヴィタノーバ(イタリア)【テアトロ・ロッシーニ】

7.7/1(木)  21:45/『舞楽』『ドン・ジョヴァンニ』『ギリシャの踊り』

クレモナ(イタリア)【アレーナ・ジャルディーノ(野外劇場)~夏至祭 】
8.7/4(日) 21:30/『ドン・ジョヴァンニ』『ギリシャの踊り』『春の祭典』

ベルリン(ドイツ)【ベルリン・ドイツ・オペラ】
9.7/6(火) 19:30/『ザ・カブキ』
10.7/7(水)  19:30/『ザ・カブキ』

ミラノ(イタリア)【ミラノ・スカラ座 】
11.7/11(日) 20:00/『ザ・カブキ』

☆コモ(イタリア)【パルコ・ヴィラ・オルモ(野外劇場)】

12.7/13(火)  21:30/『ドン・ジョヴァンニ』『舞楽』『ボレロ』

リヨン(フランス)【ローマ劇場(野外劇場)~フルベールの夜】
13.7/15(木) 22:00/『ギリシャの踊り』『ドン・ジョヴァンニ』『ボレロ』

☆ラッコニージ(イタリア)【カステロ・レアーレ・ディ・ラッコニージ(野外劇場)】
14.7/17(土)  21:30/『ギリシャの踊り』『ドン・ジョヴァンニ』『春の祭典』
15.7/18(日)  21:30/『ギリシャの踊り』『ドン・ジョヴァンニ』『春の祭典』

☆は初訪問となる都市

IMG_1341.JPG5月の<マラーホフの贈り物>Aプロでは、マラーホフが2001年にウィーン国立歌劇場バレエ団のために創作し、今回日本初演となる「仮面舞踏会」の"四季"の場面が上演されます。
この作品を東京バレエ団に指導するため、忙しいスケジュールの合間を縫って、マラーホフが来日。昨日から1週間にわたりリハーサルを行っています。

マラーホフは、これまで何度も東京バレエ団と共演を重ね、ダンサーともバレエ団の稽古場ともすっかりおなじみです。
今回も、そこにいることが当たり前であるかのような感じで、稽古場の鏡の前に座っているマラーホフ。
彼の来日前に、すでにダンサーたちはおおよその振りを覚えていたため、リハーサルは予定より早く、順調に進んでいます。
今回指導するのは、「秋」、「冬」、「春」の3シーン。"四季"は、このほかにマラーホフとポリーナ・セミオノワが踊る「夏」のシーンとフィナーレで構成された35分の作品です。
それぞれの場面ごとに、一通りの流れを見た後に、気になった箇所を自らカウントを取りながら、ときにはメロディを口ずさみながら、丁寧な指導が続きます。
「音楽をオネガイシマス」、「ダイジョウブ?」など、時折なめらかな日本語が混じるリハーサルは、あたたかい空気に包まれ、一体感と充実感が満ちています。
どのような作品に仕上がっていくのか、ご期待ください!

なお、忙しいリハーサルの合間を縫って、東京バレエ団とのリハーサルの印象や今回の<マラーホフの贈り物>の見どころなど、マラーホフにじっくり話してもらう予定です。
近日中にこのサイトでインタビューをお届けしますので、こちらも楽しみに!

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この夏、日本で「ボレロ」を初めて披露するニコラ・ル・リッシュからのビデオメッセージをお届けします。

ニコラは、21日の「ジゼル」に主演するため、オレリー・デュポンとともに2泊4日という強行軍で来日。、そんなことを微塵も感じさせない舞台をみせ、日本公演の掉尾を飾りました。
そして、このようなハードスケジュールにも関わらず、ニコラは「ジゼル」終演後、何件かの取材に快く応えてくれ、「大好きな日本で「ボレロ」をお見せできるのが本当に嬉しい」と、今回の公演への想いをたっぷり語ってくれました。
その取材の最後に収録させてもらったのが、このビデオメッセージ。
30秒にも満たない短いものですが、ニコラの熱い情熱が感じられる素敵なメッセージとなりました。
リピートしてご覧になってください。

 3月26日。ジェーン・ボーンの3週間にわたる指導も最終日を迎えた。この日は3キャストのうち、まだ全員で合わせていない顔ぶれを中心に、場面毎に交替しての通し稽古。前日に初日キャストの吉岡美佳&高岸直樹、2日目キャストの斎藤友佳理&木村和夫がある程度通し終えたため、3日目キャストの田中結子&後藤晴雄の出番が多くなった。

*  *  *  *  *

《第1幕第1場》田中演じるタチヤーナと佐伯知香扮するオリガの暮らすラーリナ夫人邸を、近隣の人々が訪れる。オリガの婚約者レンスキー役のノーブルなたたずまいの長瀬直義と、愛らしく溌剌とした雰囲気の佐伯オリガが、スピード感あふれる踊りを披露。息を弾ませながらも終始、笑顔を見せた。続いてタチヤーナとオネーギンの散歩の場面へ。ピンと背筋を伸ばした田中タチヤーナはいかにも育ちのいいお嬢さん。後藤オネーギンは一見すると爽やかな好青年だが、ふとした瞬間に苦悩や憂いの表情を滲ませる。

《第2場》オネーギンへの恋文をしたためる田中タチヤーナの仕草に「インクを忘れないで」とボーン。インク壺を使わなければ字が書けないはずだからだ。書くうちに彼女はまどろみ、夢の世界へ。鏡の向こうのタチヤーナは別のバレリーナが演じる。田中が鏡に見る"自分"は吉岡。そこに後藤オネーギンが現れ、夢の中での2人のパ・ド・ドゥがスタートする。長身同士だけに、足を蹴り上げてのリフトなどダイナミック。稽古初期に苦労していた技も8割方、成功していた。

IMG_0474.JPG  IMG_0394.JPG  IMG_0478.JPG3組のオリガとレンスキー
左から、小出領子・長瀬直義、高村順子・井上良太、佐伯知香・長瀬直義


《第2幕第1場》タチヤーナのパーティ。恋文を送った田中タチヤーナと冷淡な態度の後藤オネーギンの間に、パーティの出席者らの目まぐるしい踊りが割り込む。「もっと2人を邪魔して!」とボーンが指示を出す。その合間を縫ってタチヤーナの手紙を本人の前で破くオネーギン。タチヤーナの衝撃と悲しみが、賑やかな踊りとの対比によって際立つさまを、見て取ることができる。

《第2場》オネーギンとレンスキーの決闘シーンは、2日目キャスト→初日キャストの順番で2回行われた。まず2日目キャスト。木村オネーギンは深い悔恨の念にさいなまれている様子。井上良太演じるレンスキーのソロは繊細で、死を予感しているふうだ。彼を中心に、斎藤友佳理のタチヤーナおよび高村順子のオリガが交互にバットマンとジュテを繰り返し、悲劇を食い止めようとする。斎藤のタチヤーナからは、どちらの勝敗も彼女にとってつらい事態であることがひしひしと伝わってくる。恐怖におののくタチヤーナ。そしてオネーギンの勝利。レンスキーの死骸に駆け寄り、高村オリガが嘆く。悲しみを込めてオネーギンを見つめる斎藤タチヤーナ。
 次に初日キャスト。高岸オネーギンは、呆然とした面持ちで長瀬レンスキーを眺めている。長瀬は瑞々しい鳥のよう。その翼が間もなく折られるのかと、たまらない気持ちになる。吉岡タチヤーナは心配で落ち着かないといった風情。決闘が始まると、祈るような面持ちに。やがて勝敗が決まり、悲嘆に暮れる小出領子のオルガの横で、吉岡タチヤーナはオネーギンに、責めるというより深い悲しみのまなざしを向けた。

IMG_8660.JPG  IMG_8632.JPG  IMG_8662.JPG3組のタチヤーナとグレーミン
左から、吉岡美佳・柄本武尊、斎藤友佳理・平野玲、田中結子・森川茉央


《第3幕第1場》第3幕は初日キャスト→3日目キャストの順。第1場は舞踏会の場面だ。
 初日キャスト。高岸オネーギンとタチヤーナの夫グレーミン役の柄本武尊、ついで吉岡タチヤーナが、歩幅も大きく落ち着いた様子で姿を現す。人妻として美しく成熟した彼女にオネーギンが目を見張るのも納得だ。舞踏会の人々の中に高岸オネーギンは、少女時代のタチヤーナおよびオリガとレンスキーの幻覚を見る。その幻は3日目キャストの田中、佐伯、長瀬が務めた。
 次に3日目キャスト。森川茉央扮するグレーミンが田中タチヤーナをエスコートする。田中は家庭を守る幸せな若妻然としている。驚き、悔やむ後藤オネーギン。こちらの幻覚では、初日キャストの吉岡、高村、井上が姿を見せた。

《第3幕第2場》初日キャストから。吉岡タチヤーナのもとにオネーギンから手紙が届いている。夫を部屋に引き留められず、彼女は悲しそう。ほどなく高岸オネーギンが来訪する。切なく激しいパ・ド・ドゥ。最後、タチヤーナはオネーギンを抱きしめそうになりながらも彼を拒絶する。立ち去るオネーギンを、泣きそうな顔で見送る吉岡タチヤーナ。
IMG_8883.JPG 続いて3日目キャスト。傍にいて くれと夫に懇願する愛らしい田中タチヤーナは、夫には寂しがって甘える幼い妻にしか見えなかったに違いない。後藤オネーギンが登場。田中の不安げな指先に困惑がともり、オネーギンを直視できず目をそらす。渾身のデュエットの果てにタチヤーナは手紙を必死でつかんで破り、オネーギンが去る中、悲しみを押し殺して立ちつくすのだった。

タチヤーナ:田中結子、オネーギン:後藤晴雄

*  *  *  *  *

 ところどころ止めて指導を加えながら、ほとんどぶっ続けで行われた通し稽古。ハードでドラマティックな踊りを終えた団員たちの表情には疲労と充足の両方がうかがえた。「短い期間でよくここまでできましたね」とねぎらうボーン。1ヶ月後、ボーンとリード・アンダーソンが来日して仕上げの稽古を行う。写真撮影では、全員が笑顔。だが、ドラマが真に深く掘り下げられ、練り上げられて、完成形となる日はまだ先だ。本番をより晴れやかな笑顔で終わろうと、出演者たちはみな、心に誓ったことだろう。

IMG_8920.JPG  IMG_8912.JPG
左)タチヤーナ:吉岡美佳、オネーギン:高岸直樹/右)タチヤーナ:斎藤友佳理、オネーギン:木村和夫

取材・文:高橋彩子(舞踊・演劇ライター)


photo:Kiyonori Hasegawa

来週土曜日(4月10日)、いよいよ<ルグリの新しき世界>AプロがWOWOWで放送されます。
現在、最終の編集作業を行っている、担当プロデューサーより、NBSのWEBサイトをご覧の皆さまにメッセージが届きました!

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NBS WEBサイトをご覧の皆さま、はじめまして。
WOWOWプロデューサーのAです!

ルグリ×ド・バナ×東京バレエ団の夢のコラボレーション
<マニュエル・ルグリの新しき世界>Aプロの放送が近づいてきました。

現在、鋭意編集中です!

10-04.01wowow01.jpg編集作業の様子

稽古場、本番、そして現在の編集作業にいたるまで
ずっと見続けてきた私から、この番組の見どころを少し。
なんといっても、ルグリが惚れ込んだド・バナの振付が素晴らしい。
中でも東京バレエ団との新作「ホワイト・シャドウ」では、様々なエネルギーをテーマに、
宇宙空間を思わせるような幻想的な"静"のシーンと
肉体の限界に挑む"動"のシーンに目が離せません!
幕が下りる頃には、なんともいえない満足感に胸いっぱいになります。

今回、ゲネプロではクレーンカメラを入れて収録しています。
キレイな映像とマルチアングルが魅力のWOWOWの舞台中継は、
これまで体験したことのない迫力に満ちています。

公演をご覧になった方もまた違った視点で楽しんでいただけるはずです。
是非DVDにして永久保存してください!

また、舞台中継とともにマニュエル・ルグリに密着したメイキング映像もお届けします。
成田空港、稽古場、本番前のクラスやインタビューなど、
ルグリの素顔が垣間見られる貴重映像をお楽しみに!


10-04.01wowow02.jpg 10-04.01wowow03.jpg
左)ゲネプロを撮影するクレーンカメラ  右)終演後のステージでの様子

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<マニュエル・ルグリの新しき世界>Aプロ 
"ルグリ×ド・バナ×東京バレエ団 スーパーコラボレーション"


☐放送局:WOWOW(HV/BS 5ch、BSデジタル191~193ch)

☐放送日時:4月10日(土) 午前8:10~

☐放送内容:
<マニュエル・ルグリの新しき世界>Aプロ
 "ルグリ×ド・バナ×東京バレエ団 スーパーコラボレーション" 
(「クリアチュア」「ザ・ピクチャー・オブ・・・」「ホワイト・シャドウ」 *全編ノーカット放送)

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