2011年8月アーカイブ


 2012年1月に東京バレエ団初演を予定しておりました、ジョン・ノイマイヤー振付「ロミオとジュリエット」は、福島第一原子力発電所の事故の影響により、当初予定していたリハーサル期間に、振付指導者が来日することができなくなったため、初演を2014年に延期することになりました。
 この公演を楽しみにお待ちいただいておりました皆様には心よりお詫び申し上げます。
 2014年の公演日程が決まり次第、改めてお知らせいたします。

 「ロミオとジュリエット」の公演延期を受けて、東京バレエ団では2012年1月にベルリン国立バレエ団芸術監督でありプリンシパルのウラジーミル・マラーホフを迎え<ニジンスキー・ガラ>を上演いたします。
 マラーホフは2007年秋、<マラーホフ、ニジンスキーを踊る>の公演にて、フォーキン振付「ペトルーシュカ」を日本で初披露する予定でしたが、同年5月に行った膝の手術のために降板。実に4年半の時を経て、マラーホフの「ペトルーシュカ」を日本の皆様にご覧いただける運びとなりました。
 <ニジンスキー・ガラ>では、「ペトルーシュカ」のほか、同じくフォーキン振付のバレエ・リュスの名作「レ・シルフィード」と「薔薇の精」、そしてニジンスキー振付の「牧神の午後」を上演いたします。本公演には、マラーホフのほかにもゲストダンサーの出演を予定しています。

 翌2月には、英国ロイヤル・バレエ団プリンシパルのアリーナ・コジョカルの初めてのグループ公演、<アリーナ・コジョカルと仲間たち(仮題)>の開催が決定いたしました。
 コジョカルと共にこの公演を盛り上げるのは、英国ロイヤル・バレエ団プリンシパルのヨハン・コボー、スティーヴン・マックレー、セルゲイ・ポルーニンという豪華な顔ぶれ。ほかにもコジョカルが信頼を寄せるダンサーたちの出演が予定されています。
 本公演のプログラムは、日本のファンの皆様に喜んでいただける作品をお届けすべく、現在コジョカルが検討中ですが、コボーが狂気のバレエ教師を、コジョカルが彼に殺害される少女を演じ、高い評判を呼んだ、フレミング・フリント振付「ザ・レッスン」、ハラルド・ランダー振付の「エチュード」などの上演が予定されています。

 いずれの公演も近日中に詳細を発表いたしますので、もうしばらくお待ちください!



東京バレエ団<ニジンスキー・ガラ>

●公演日程
 2012年1月12 日(木) 7:00p.m.
 2012年1月13 日(金) 7:00p.m.
 2012年1月14 日(土) 3:00p.m.

●会場:東京文化会館

Petrushka(photo_Nina Alovert).jpg●上演作品
 「ペトルーシュカ」 主演:ウラジーミル・マラーホフ
  (振付:M.フォーキン、音楽:I.ストラヴィンスキー)
 「レ・シルフィード」
  (振付:M.フォーキン、音楽:F.ショパン) 
 「薔薇の精」
  (振付:M.フォーキン、音楽:C.v.ウェーバー)
 「牧神の午後」
  (振付:V.ニジンスキー、音楽:C.ドビュッシー) 


●出演
 ウラジーミル・マラーホフ(ベルリン国立バレエ団)
 東京バレエ団 ほかゲストを予定

●指揮:ワレリー・オブジャニコフ

●演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

※10月下旬、一斉前売り開始予定。公演の詳細、チケット料金等は追って発表いたします。



<アリーナ・コジョカルと仲間たち(仮題)>

●公演日時
 <Aプロ>
 2012年2月17日(金) 6:30p.m.
 2012年2月18日(土) 3:00p.m.
 2012年2月19日(日) 3:00p.m.
 <Bプロ>
 2012年2月21日(火) 6:30p.m.
 2012年2月22日(水) 6:30p.m.
 2012年2月23日(木) 6:30p.m.

●会場:ゆうぽうとホール

●上演作品
 「ザ・レッスン」(振付:F.フリント、音楽:G.ドルリュー)
 「エチュード」(振付:H.ランダー、音楽:C.チェルニー、K.リーサゲル)ほか


●出演
 アリーナ・コジョカル(英国ロイヤル・バレエ団)
 ヨハン・コボー(英国ロイヤル・バレエ団)
 スティーヴン・マックレー(英国ロイヤル・バレエ団)
 セルゲイ・ポルーニン(英国ロイヤル・バレエ団)
 ほかを予定

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※11月初旬、一斉前売り開始予定。公演の詳細、チケット料金等は追って発表いたします。



photo:Nina Alovert(「ペトルーシュカ」)


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●シュヴァリエ・デオンを知るキーワード(2)


*ボーマルシェ
11-08.15EON_05.jpg「フィガロの結婚」「セビリアの理髪師」で知られる劇作家ボーマルシェ。彼はルイ15世亡き後、「王の機密院」を廃止したルイ16世の命を受けてエオンに接触し、機密書類を握るデオンと交渉を行う。当時デオンは身を守るため「本当は女性」であること公言しており、ボーマルシェはそんなデオンに恋心を抱いていたとも言われる。
交渉では、エオンが自分の正しい性"女性"として生きること、機密書類を渡すことを条件に、フランスへの帰国を認め、年金を与えることで「妥協和解」が結ばれた。
エオンにとっても、フランス政府にとっても、多くの機密をにぎるエオンが"女性"であることは好都合だったと思われる。
しかし、「妥協和解」が履行されることはなかった。
「エオンナガタ」では、エオン(ギエム)とボーマルシェ(ルパージュ)の丁々発止のやり取りが台詞で演じられる。


*ルイ16世
ルイ15世亡き後、フランス国王の座についたルイ16世は、フランスに帰国したエオンに、生涯を女性として、女性の姿で暮らすように命じる。デオンは人生の後半生33年を女性として生きることになる。そのときデオンは49歳だった。


*マリー・アントワネット
日本でもよく知られるフランスの女王、マリー・アントワネット。彼女は夫ルイ16世から女性として生きることを命じられた"哀れな女騎士"に同情し、お抱えの衣裳係ローズ・ベルタンにエオンのドレス一式を誂えさせた。


*見世物試合
老いて生活に困窮した彼は、その剣の腕を活かし、女装で果し合いに挑み、そこで得た金を生活の糧としていた。一時は見世物として剣の果し合いを見せる一座を率いていたという。
59歳のときには、当時イギリスで随一の剣士と言われていたサン=ジョルジュとの真剣勝負にドレス姿で挑み、圧勝した。サン=ジョルジュとの試合の様子は絵画にも残されている。

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*悲しい晩年
フランス革命によって、ルイ16世から約束されていた年金もなくなり、女友達と2人赤貧を洗う生活を送っていたエオン。勲章やルイ15世から下賜された王の肖像画入り嗅ぎ煙草入れまでも質入れするほどであった。
「エオンナガタ」では当時のイギリス国王ジョージ3世へ窮状を訴えるエオンの手紙が朗読される。
エオンは悲惨な窮乏生活のなか、1810年5月21日、82歳でその数奇な生涯を終えた。


*本当の性別
死後、エオンの遺体は解剖され、彼が正真正銘"男性"であったことが証明された。しかし、彼の身体はまるみを帯びており、髭もなかったという。




【参考資料】
窪田般彌『女装の剣士 シュヴァリエ・デオンの生涯』(白水社 1995年刊)
池田理代子『フランス革命の女たち』(新潮社 1985年刊)
冲方丁/文芸アシスタント『シュヴァリエ』(日経BP 2006年刊)


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 18世紀前半のフランスで、女の子よりも女らしく美しく生まれついた1人の男の子。彼の辿った数奇な人生をシルヴィ・ギエム、ロベール・ルパージュ、ラッセル・マリファントが演じ切ったのが『エオンナガタ』だ。

「このタイトルは、もちろん彼シュヴァリエ・デオンの名前"エオン"をもじっているんだけど、私もロベールもラッセルも、歌舞伎を始めとする日本文化には前々から強く惹かれていたし、それゆえに女形という表現形態にも魅了され続けてきたから、そのオマージュもこめて選んだのよ」

 ギエムがこう語るように、舞台上には女形を象徴する日本の着物や扇が効果的に登場する。着物は空中に浮かんだかと思うと誰かがその内側にいるかのようにねじれ、幽霊のような不思議な形と生気を見せるし、あまりにも美しい扇は優秀なスパイだったというシュヴァリエ・デオンの商売道具のように妖艶に動く。

「そうね。アレキサンダー・マックイーンがデザインしてくれた衣裳が中性的な印象だから、かえって、そういう小道具が生きるんだと思う。それに日本的なものばかり表面的に追っていったら、どこか陳腐に見えてしまうかもしれないけど、私たちが喋るテキスト(台詞)でも触れているように、"太陽である男、大地である女、そしてそのどちらも持つエオン"という考え方はギリシャに代表される西洋の古代文明にも通じるし。とてもスケールの大きさを感じるわ」

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 アクラム・カーンとのコラボレーション作品『聖なる怪物たち』でも、ダンスだけでなく、舞台上で自分の声を使うことを体験しているギエム。

「でもあれは、あくまでも自分のことを語るだけだったから(笑)。それに比べて今回は、ちゃんと決められたテキストがあるし、ロベール扮するボーマルシェとは激論を闘わせなければならないのよ。もちろん台詞劇ではないから、そういったシーンの私たちのムーブメントにも要注目だけど(笑)」

 台詞とムーブメント、と言えば、ルパージュが面白いことを教えてくれた。ギエムが台詞を覚える時、バレエを自由な振り付けで踊りながら頭に入れていくという。

「頭だけでなくて、身体にもね(笑)。あのやり方が私にとっては一番自然なのよ。シュヴァリエ・デオンの気持ちもスーッと入っていったし。それにしても、こんなに面白い人物がフランスでもあまり知られていないなんて!日本では漫画やアニメーションにもなり、エオンをモデルにした有名な漫画もあるんでしょう? 日本の人の好奇心の旺盛さには常々驚かされているけど、今回もそれ知って、3人で"やっぱりね"と納得してしまったわ」

 エオンをモデルにした有名作品とは、手塚治虫の『リボンの騎士』のサファイア姫、そして池田理代子の『ベルサイユのばら』のオスカルと、確かに日本人にとっては不滅のキャラクターだ。

「男でもあり、女としても振る舞えるというのは、あの時代、行動範囲がもの凄く広くなるってことでもあった。外国など、なかなか行けなかったでしょうからね。でも、と同時にエオンは"自分は何物か?"と生涯葛藤することになる。男なのか、女なのか、フランス人なのか、イギリスに帰化したいのかという風に」

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 エオンの苦悩は、雄々しさとフェミニンな部分が合体した踊りはもちろん、光と影を多用した舞台照明からも明確に感じられる。そして、モノトーンに見える陰影の中、時折強烈なオーラを放つ赤のインパクト!

「クラシックだけでなくコンテポラリーの振付家と多く仕事をするようになって、彼らのフラットじゃない色や光の使い方にはいろんなインスピレーションをもらっているわ。今回だって、エオンの身体が赤いリボンと繋がるシーン。ロベールは女性の生理を表していると言うの。これでまた、彼が男だか女だかわからなくなるでしょ(笑)」 

 大きなテーブルが滑り台になったり、他の何かにイメージを変えたりする中でのスピーディな動きは、とても男っぽく、剣でのファイトも含め、ギエムならではの見せ場。そう言えば、女性ながらボブ・ディランやリチャード2世など男を演じたことがある女優ケイト・ブランシェットは「男を演じると、とても自由になれる」と語っていたが。

「私も『聖セバスチャンの殉教』で男を演じたことがあるけど。元々子ども時代から男の子っぽかったから全然違和感はないわ。ロベールやラッセルとは、上演の度に新しい発見をして、少しずつ細部を変えたりしているの。そういう意味では、エオンの人生はまだ続きがあるのよ」


取材・文/佐藤友紀(フリーライター)

Photo:ErickLabbé

東京バレエ団「ジゼル」 


◆主な配役◆

ジゼル:ディアナ・ヴィシニョーワ
アルブレヒト:セミョーン・チュージン
ヒラリオン:後藤晴雄


【第1幕】

バチルド姫:吉岡美佳
公爵:木村和夫
ウィルフリード:柄本弾
ジゼルの母:橘静子
ペザントの踊り(パ・ド・ユイット):
村上美香-松下裕次、岸本夏未-井上良太、
阪井麻美-梅澤紘貴、河合眞里-岡崎隼也

ジゼルの友人(パ・ド・シス):
乾友子、奈良春夏、田中結子、吉川留衣、矢島まい、渡辺理恵


【第2幕】

ミルタ:高木綾
ドゥ・ウィリ:乾友子、奈良春夏


指揮:ワレリー・オブジャニコフ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団


◆上演時間◆

第1幕 19:00 - 19:55

休憩  20分

第2幕 20:15 - 21:10

東京バレエ団「ジゼル」 


◆主な配役◆

ジゼル:ディアナ・ヴィシニョーワ
アルブレヒト:セミョーン・チュージン
ヒラリオン:木村和夫


【第1幕】

バチルド姫:吉岡美佳
公爵:後藤晴雄
ウィルフリード:柄本弾
ジゼルの母:橘静子
ペザントの踊り(パ・ド・ユイット):
高村順子-梅澤紘貴、乾友子-長瀬直義
佐伯知香-松下裕次、吉川留衣-宮本祐宜

ジゼルの友人(パ・ド・シス):
西村真由美、高木綾、奈良春夏、矢島まい、渡辺理恵、川島麻実子


【第2幕】

ミルタ:田中結子
ドゥ・ウィリ:西村真由美、吉川留衣


指揮:ワレリー・オブジャニコフ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団


◆上演時間◆

第1幕 19:00 - 19:55

休憩  20分

第2幕 20:15 - 21:10


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 『エオンナガタ』は、常に新しいフィールドに挑み続けるバレエ界の女王シルヴィ・ギエムが、鬼才演出家ロベール・ルパージュと気鋭の振付家ラッセル・マリファントとともに、2年の歳月をかけて創作した作品。2009年ロンドンのサドラーズ・ウェルズ劇場で世界初演されました。

11-08.15EON_02.jpg この作品で描かれるのは、18世紀に活躍したシュヴァリエ・デオン(Chevalier D'Éon/本名シャルル・ド・ボーモン)の生涯です。"シュヴァリエ"とは"騎士"を意味するフランス語で、"シュヴァリエ・デオン"は"エオンの騎士"という意味になります。女装で活躍した"エオンの騎士"と歌舞伎の"女形(オンナガタ)"を組み合わせて『エオンナガタ』という、不思議な響きのタイトルが誕生しました。

 前半の49年をルイ15世直轄の優秀な外交官兼スパイ、軍人として、男性の性を生き、後半の33年間を王の命令によって女性として生きた、シュヴァリエ・デオン。彼の数奇な運命を、ダンス、演劇の垣根を越え、歌舞伎の手法を取り入れながら描いた壮大なコラボレーション作品、それが『エオンナガタ』なのです。
 『エオンナガタ』特集では、ギエム、ルパージュ、マリファントのインタビュー、そしてシュヴァリエ・デオンについてのキーワ―ドを通して、この作品をより深く紹介していきます。



●シュヴァリエ・デオンを知るキーワード(1)


 シュヴァリエ・デオン(シャルル・ド・ボーモン)の名前を今回初めて知ったという方も多いのではないでしょうか。
 『エオンナガタ』は彼の生涯について具体的に描いている作品ではありませんが、シュヴァリエ・デオンについての予備知識があると、舞台をより楽しんでいただくことができます。"女装の騎士"シュヴァリエ・デオンを知る、いくつかのキーワードをご紹介していきます。



11-08.15EON_01.png*洗礼名
1728 年10月5日、ブルゴーニュ・ワインの生産地であるフランス・トンネールでシュヴァリエ・デオンは誕生した。洗礼名はシャルル=ジュヌヴィエーヴ=ルイ・オギュスト=アンドレ=ティモテ・デオン・ド・ボーモン。 "ジュヌヴィエーヴ"という女性名が入っていることが、エオンの未来を暗示すると言う歴史家もいたという。


*女装のスパイ
シュヴァリエ・デオンは、優れた外交官兼スパイとして華やかに歴史の舞台に登場した。ルイ15世の個人的な秘密外交機関「王の機密局」の一員となったエオンは、王命を受け、女装してロシアに潜入。
輝くブロンドの髪、髭も体毛もなく、華奢で色白の美青年エオンは、美貌の女性リア・ド・ボーモンとして、ロシアの女帝エリザヴェータに朗読係として接近し、当時絶縁状態にあったフランスとロシアの国交を回復させるという重要任務を見事に果たした。


*龍騎兵隊隊長
若い頃から剣の修行に励んだエオンは、優れた剣士としても知られる。七年戦争では龍騎兵隊隊長として活躍。数々の武勲をあげた勇敢かつ優秀な軍人でもあった。


*イギリス
七年戦争の後、ルイ15世の命を受け、大使館付き秘書官としてイギリスに渡ったエオン。時に男性として、時に女装して縦横無尽に活躍し、外交官としてスパイとして活躍を続けた。ロンドンでは彼の性別が話題となり、彼が男性なのか、女性なのかという賭けが行われていたという。


【参考資料】
窪田般彌『女装の剣士 シュヴァリエ・デオンの生涯』(白水社 1995年刊)
池田理代子『フランス革命の女たち』(新潮社 1985年刊)
冲方丁/文芸アシスタント『シュヴァリエ』(日経BP 2006年刊)


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