インタビュー: 2013年10月アーカイブ

 シルヴィ・ギエムが篤い信頼を寄せる振付家マッツ・エック。日本の舞台でも『アジュー』『ウェット・ウーマン』を始めとするエック作品を踊ってきたギエムが、〈シルヴィ・ギエム オンステージ2013〉でエック版『カルメン』を披露する。11年前、英国ロイヤル・バレエ団との共演で初めて彼女が同作を踊った際、ポンペア・サントロが振付指導をした。

ポンペア「リハーサル開始前、世界的スターであるシルヴィとどう接すればいいのか分からず、実は不安でした。ところが稽古場に足を踏み入れたら、私の懸念は吹き飛んでしまった。彼女は一人のアーティストとして、私の経験と知識を真摯に吸収してくれました」

13-10.10_01_photo_DeeConway.jpg
シルヴィ・ギエム(photo:Dee Conway)

 エックいわく、カルメンは貧しいながらも労働者として自活、あばずれで泥棒も働くが、愛する相手を自ら選ぶ意思を持った女性。エック版カルメンに、"男を惑わす情熱的な魔性の女"といった既成のイメージは当てはまらない。
ポンペア「シルヴィの素晴らしい身体能力や女らしさ、どこか超然とした雰囲気は、マッツが描くカルメンにぴったりだと思いました。といっても、これは10年以上前のこと。その後のシルヴィの生き方を反映した、新たなカルメン像が誕生するのではないかしら」

 ポンペアともう一人の振付指導者ラフィ・サディから振付を伝授された柄本弾と高木綾はスウェーデンに飛び、エックと共に『カルメン』にさらなる磨きをかける。必要だと思えば、エックは演出を微調整するのという。

サディ「全ては、ドラマを完璧に語るためです。ただ物語を説明するのではなく、ムーヴメントを通してドラマを語り上げ、次元の異なる幾つもの世界を同時に存在させる。マッツという振付家は、卓越したストーリーテラーなのです。舞台の上に、ドラマと無関係なものは存在しません。『カルメン』で用いられる大きなボールは、ダンサーが踏み上がる足場であるだけでなく、ホセの命を奪う銃弾、スペインの女性が手にする扇の留め具の象徴でもあります」

13-10.03_04.jpg
ポンペア・サントロと柄本弾


ポンペア「登場人物のキャラクターも複雑で多面的です。私が実際にカルメンを演じた時には、彼女は意思の強さのなかに脆さを持っていると感じました。女性ソリストのMは、 母、ホセの婚約者ミカエラ、死の象徴。舞台で踊りながら、その役が持っている様々な顔を同時に見せなくてはならない。観客の皆さんには、固定観念にしばられることなく、この舞台を見て頂きたいと思います」
13-10.03_13.jpg


取材・文:上野房子(ダンス評論家)

 9月中旬、東京バレエ団のメインスタジオで〈シルヴィ・ギエム・オン・ステージ2013〉の演目、マッツ・エック版『カルメン』のリハーサルが佳境に突入していた。一心に乱舞するダンサー達を見つめているのは、ポンペア・サントロとラフィ・サディ。長年、エックが芸術監督を務めたクルベリ・バレエで主役から群舞まで種々の役を踊り、同作を知り尽くした振付指導者である。

13-10.03_02.jpg
ポンペア・サントロとエスカミリオ役の柄本弾


サントロ「カルメンという女性は、マッツによって月並みなステレオタイプから解放されました。お姫様でも妖精でもなく、リアルな感情を持った人間として、彼女は人生を生き抜くのです。私も何度も舞台で踊りました。マッツと彼の振付に導かれ、自分のなかに眠っていた未知の感情が引き出されたような、素晴らしい経験でした」
サディ「振付の指導でもっとも重要なのは、マッツの振付に忠実であること。彼はよくこう言うんですよ。芝居を演じようとしてはいけない、振付が自ずと語り出すはずだ、と。マッツが求めるクォリティを体現するには、彼が精密に定めた振付を忠実に踊らなくてはなりません」

13-10.03_06.jpg
ラフィ・サディと柄本


 スタジオのダンサー達は、寄せては引く波のように全身を振り動かしながら跳躍し、フロアを転げ回る。バレエとは異質の動きを随所に取り入れたエック作品を踊ることは、バレエダンサーにとって大いなる挑戦だ。
ポンペア「マッツの振付では、上半身をとても大きく動かします。古典バレエではあり得ないほどの激しさも不可欠。重力を使いこなし、フロアを踏みしめることも特徴です。フロアはパワーの源なのです。今回の出演者は、とても熱心で振付の覚えがはやく、音楽性も優秀。予想以上のスピードでリハーサルが進んでいます」

13-10.03_10.jpg
M役の高木綾

13-10.03_11.jpg
オフィサー役の木村和夫

 7月初旬にエック本人が東京のこのスタジオで短期集中リハーサルを行い、彼の意にかなった出演者を選考した。
サディ「ほんとうに良いキャストに恵まれました。ダン(柄本弾)はエスカミリオそのもの。エネルギッシュで、そこにいるだけで人の目を引きつける。存在感は教わって身につけるものではなく、生来の資質なのです」
ポンペア「M役のアヤ(高木綾)も適役ですね。優しさと強いハートを持っていて、なおかつ自分のボディをコントロールできる」
サディ「シルヴィ・ギエムとホセ役のマッシモ・ムッル、ダン、アヤ、カズオ(オフィサー役の木村和夫)達が一堂に会した時、いったいどのような"絵"がそこに描かれるのか。私自身、楽しみでなりません」

13-10.03_05.jpg

取材・文:上野房子(ダンス評論家)

月別 アーカイブ

ウェブページ

  • pdf
  • images
Powered by Movable Type 5.12

このアーカイブについて

このページには、2013年10月以降に書かれたブログ記事のうちインタビューカテゴリに属しているものが含まれています。

前のアーカイブはインタビュー: 2013年6月です。

次のアーカイブはインタビュー: 2013年11月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。