2016年11月アーカイブ

 正統派ダンスール・ノーブルのエトワール候補としていま大注目を浴び、3月の日本公演では『ダフニスとクロエ』に主演するジェルマン・ルーヴェ。彼のインタビューを2回に分けてお届けします。ジェルマンの素顔と声が視聴できるインタビュー映像もあります!


『ダフニスとクロエ』で見出されて

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 11月4日の昇級コンクールの結果、来年1月1日からプルミエ・ダンスールに上がることになったジェルマン・ルーヴェ。現在23歳の彼がブルゴーニュ地方に生まれ、4歳でダンスを始めてから今にいたるまでを、まず駆け足で紹介しよう。活発な子どもだった彼は、最初はモダンジャズ・ダンス、ついで7歳でクラシック・バレエを習い始め、オペラ座バレエ団の学校を受験して入学。最年少クラスの第6ディヴィジョンから第1まで、順調に6年で卒業した。学校の公演ではピエール・ラコットの『コッペリア』で主役のフランツに抜擢されている。カンパニー入団は2011年と、まだたった5年前のことだ。

 前芸術監督のバンジャマン・ミルピエは、『くるみ割り人形』のドロッセルマイヤー役と『ロミオとジュリエット』のロミオ役にジェルマンを選んでいる。前者を踊ったのはスジェとしてだが、配役が決まったのは彼がまだコリフェの時代だった。

「バンジャマンは、『ダフニスとクロエ』のコール・ド・バレエで踊ってるときに、僕を見出してくれたんですね。だから、僕にとってこの作品は特別なものといえます。それゆえに、今度の来日ツアーでこの作品をソリストとして踊ることになって、なにか物事が1つ、くるりと回って完結する、という感があります。ベースになっているギリシャ神話には物語があるけれど、バンジャマンの『ダフニスとクロエ』はアブストラクトです。
 ダフニス役を踊るにあたっては、創作ダンサーのエルヴェ・モローを僕の模範とするつもりです。ロマンティックなダフニス像です。コール・ド・バレエで踊りながら彼をみていたのですが、彼ってすごいですよね。舞台空間を満たすように、腕、脚が実に大きく開いて...。顔立ちは美しく、体型も素晴らしい。彼のダンスはとっても滑らかで、これはバンジャマンのダンスのスタイルにはぴったりなんです」

 この作品は音楽も舞台装置もきれい、とジェルマンは絶賛する。彼のパートナーとしてクロエ役を踊るのはアマンディーヌ・アルビッソン。彼女と組むのは、今回が初めてのことだ。彼が学校に入ったとき、第1ディヴィジョンにいた彼女は"ワァーオ!"という存在で、ずっと彼女の仕事を彼はフォローしているそうだ。2014年3月の『オネーギン』での彼女の任命時には、偶然にも会場に居合わすという幸運も。今では気の合う友達で、バカンスも一緒、という良い関係だという。

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「ロミオとジュリエット」より




 
インタビュー・文/濱田琴子(ジャーナリスト、在パリ)


Photo:Julien Benhamou/OnP(ポートレート、舞台写真)

 


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ロマンティシズムは私に語りかける

 『ラ・シルフィード』をマチアス(エイマン)と踊るミリアム。意外にも、まだこの作品を踊ったことがないという。芸術監督オレリー・デュポンは、「ミリアムはシルフィード役を踊るためのクオリティが全て備わっています。愛らしいお人形の ようなクラシック・ダンサーの彼女は、あの役柄にはぴったり」と太鼓判を押す。
 
 前回パリ・オペラ座での公演時は健康上の都合で踊れなかった『ラ・シルフィード』。日本で踊れることになり、彼女はとても喜んでいる。
「ロマンティシズムは私に語りかけることが多いだけに、この作品を踊れるのはすごく楽しみです。昔、学校公演の〈ガラ・デ・カデ〉で、ラコット版ではないけれど、その中で『ラ・シルフィード』の一部を踊りました。彼女って愛に満ちた理想の女性ね。魅惑的な女性だわ。精霊だから非現実の存在とはいえ、しっかりと実体があって ...言葉で表現するのは難しいけれど、第2幕めのジゼルのよう、といえばいいかしら。いずれにしても『ラ・バヤデール』のニキヤや『ドン・キホーテ』のキトリより、シルフィードは私にはずっと入り込みやすい役だといえます」

マチアス(エイマン)と舞台上で視線が合うと、いつも微笑みが浮かんでしまうの。

 パートナーはマチアス。彼とは10月22日から11月15日まで続いたオペラ・ガルニエでの〈ジョージ・バランシン〉でも、毎晩のように舞台をともにした。

 「彼と踊るのは、大好きよ。私たち、とても良い関係なんです。私が彼を必要とする時、彼はちゃんといてくれて、逆に彼が私を必要とするときも、というように。私が疲れているときは、気持ちをなだめてくれたり、あるいは今日は休んだら?って、気遣ってくれたり。彼って世界的なトップダンサーなのにとても謙虚で、自分らしさを失わずにいる人ね。繊細な感性の持ち主で、すごく人間的。初めて一緒に踊ったのは『リーズの結婚』だったから、もう10年くらい前かしら。舞台上で彼と視線が合うと、私、いつも微笑みが浮かんでしまうのよ」

〈グラン・ガラ〉では『テーマとヴァリエーション』もマチアスが相手だ。これも日本で踊るのが初めてという作品。すごく大変そう!と今から覚悟している彼女だが、バランシン作品はパーソナル・タッチをプラスできるので踊るのが快適らしい。

 久々の来日を喜ぶ彼女だが、その前にオペラ座でも大きな楽しみが待っている。それは、12月の公演『白鳥の湖』(これもマチアスと!)だ。
「あらゆるバレリーナが踊りたいと夢見る役でしょう。これまで機会に恵まれず、私はこの作品には不向きなのかしら、って思っていただけに、今回オレリーに配役されて、とにかく嬉しくって! 存分に舞台を享受するでしょうね。34歳になった今、こうした作品を踊るのに頭の中もしっかりしていて、良い時期だと思っています。黒鳥オディールは 視線と指の仕事を大切に、思いっきり誘惑的に踊るつもりよ」

 出産復帰後、ダンスの深みが増した、とバレエ・ファンの評価が高まっているミリアム。『白鳥の湖』によって、アーチストとしてさらに成長するに違いない。その後の来日。彼女の素晴らしい舞台を楽しみにしよう。

 
インタビュー・文/濱田琴子(ジャーナリスト、在パリ)


Photo:James Bort/OnP






本年12月25日に鳥取県倉吉市の〈倉吉未来中心〉にて開催が予定されておりました東京バレエ団「くるみ割り人形」公演は、先の鳥取県中部を震源とする地震による影響で、開催予定会場に被害が及び、同地での開催が困難となりました。
その後、鳥取県内の代替施設での開催を調整しておりましたが、残念ながら調整がつかず開催を見送ることとなりました。
公演を楽しみにされていたお客様にはご迷惑をおかけして、まことに申し訳ございません。

なお、本公演中止に伴う入場券の払い戻しにつきましては、各購入所から購入者の方々にお知らせがまいりますので、その情報に沿って払い戻しのお手続きを行ってくださいますようお願い申し上げます。


公益財団法人日本舞台芸術振興会


sALBISSON_port_(c)James Bort_OnP.jpgいたずらっ子のラ・シルフィードは踊っていて楽しいの


「前回のオペラ座ツアーで来日した時は、ちょっと非現実的な状態だったわ。オペラ・ガルニエで『オネーギン』を踊ってエトワールに任命されたのが、確か木曜のことで、その週の土曜に日本行きの飛行機に乗ったのだから...。できたてのホヤホヤのエトワールだったのよ」 
 アマンディーヌのエトワールとして初舞台は、東京文化会館。そこで『ドン・キホーテ』のドリアードの女王を踊った。あれから数年が経ち、今はエトワールとしての舞台経験を重ね、自分の立場を実感できているそうだ。

 今回の公演で踊る『ラ・シルフィード』はスジェ時代にピエール・ラコットに大抜擢された作品で、彼女にとって、最高に思い出深い作品である。ローラン・プティの『狼』で若い娘、そして『ランデブー』で"世界一の美女"といった役を踊ったことはあったが、この作品で全幕作品の主役を踊ることになったのだから。

 「この作品を復元したピエール、そして初演ダンサーのギレーヌ・テスマーが役について豊富なイメージを与えてくれて、二ヵ月のリハーサルはすごく興味深いものだったわ。技術的には大変な作品よ。下肢を編むように動かすのだけれど、ラ・シルフィードは非現実の精霊なのだからスピーディで軽やかにする必要があるでしょ。そしてロマンティック・バレエのスタイルである上半身の前傾は、背中を反らすくらいにして踊るのが習慣な私たちには自然にできることじゃないし...。でもね、この作品、愉快なシーンがいろいろあって踊っていて楽しいのよ。ラ・シルフィードはいたずらっ子で、ユーモアいっぱい。舞台の切穴から姿を消したかと思えば、突然窓辺に現れたり! って」

 目を輝かして語るアマンディーヌ。これまで日本では見せる機会のなかったタイプの役柄を踊ることで、バレエ・ファンをさらに魅了しそうな予感がする。彼女のパートナーはオペラ座でも組むことが多く、また前回の世界バレエフェスティバルで『アザー・ダンス』を踊り、息のあったところを見せたマチュー・ガニオだ。


『ダフニスとクロエ』を若いジェルマンと踊れて嬉しい

 アマンディーヌはオペラ座でこの作品を踊った後のコンクールでプルミエール・ダンスーズに昇級したかと思うや、すぐにエトワールに任命された。そして来日ツアーに参加。その直後に彼女がエトワールとしてオペラ座で最初に配役されたのが、今回〈グラン・ガラ〉で踊るミルピエ振付の『ダフニスとクロエ』のクロエ役である。

 「このリハーサルは、いささか強烈なものだったわ。スタジオにいるのはオレリー(デュポン)とエルヴェ(モロー)、レティシア(ピュジョル)とマチュー。私はといえば、新米も新米のエトワールでしょう...。今回の私のパートナーはスジェのジェルマン・ルーヴェ。私もまだ学ぶことのある身だけど、もし私のように彼も稽古場で圧倒されてしまうことになったら、少しは経験のある先輩としてリラックスさせてあげたいわね。自分より若いダンサーと踊れるって初めてのことなので、とても嬉しいの。彼は素晴らしいダンサーよ。高く評価しているわ。彼って、理想的なプリンスといったタイプ。いつまでもスジェには留まっていないはずよ!」



インタビュー・文/濱田琴子(ジャーナリスト、在パリ)


photo:James Bort/OnP





先週パリで行われたバレエファン注目の昇級コンクール。3月の日本公演『ダフニスとクロエ』に主演するジェルマン・ルーヴェのプルミエ昇格ほか、濵田琴子さんによる速報をお届けします。
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 オペラ座バレエ団恒例のコール・ド・バレエ昇級コンクールが11月4日(男子)、5日(女子)に開催された。結果発表は毎回スリリングであるが、これまでに比べ、今回は誰もが納得できる公正な結果に終わったといえる。
 1席のプルミエ・ダンスールの空きを獲得したのは、下馬評通りにジェルマン・ルーヴェだった。クラシックもコンテンポラリーも技術的に優れている。身体のラインが美しく、どことなく夢見がちな雰囲気の持ち主の彼はプリンス役が似合うこと間違いなしのダンサー。オペラ座の年末公演『白鳥の湖』では、初役でジークフリートを踊る。


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ジェルマン・ルーヴェ

 
  ジェルマンに次いで2位となったのは、来日公演の『ダフニスとクロエ』でドルコン役に配されているマルク・モロー。自由曲で背中の表現も見事な『ダンシーズ・アット・ア・ギャザリング』を披露した後に、観客席側にいたダンサーから「あれ、踊ってみたいって気にさせられた!」という賛辞が聞こえたほど。それだけにプルミエの空きが1席しかなかったのは、とても残念だ。
 女子でプルミエールへの昇級を決めたのはセウン・パク。静かな微笑みをたたえ、美しいダンスを踊る。スジェのクラスは8名が参加。通常は6位まで順位がつくのだが、票が割れたため4位以下の発表はなかった。2位はマリオン・バルボー、3位はエレオノール・ゲリノー。偶然にも二人とも自由曲が『アザー・ダンス』だった。タイプの異なる二人である。好みによって評価が分かれるが、エレオノールは人間的な深みを感じさせる成熟したパフォーマンスを見せた。技術的にも申し分のない彼女の『ラ・シルフィード』でのパ・ド・ドゥにぜひ期待を。


取材・文/濵田琴子(ジャーナリスト、パリ在住)


photo:Sébastien Mathé/OnP


音楽を踊る喜びを満喫できる『アザー・ダンス』

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  グラン・ガラで『アザー・ダンス』に配役されているジョシュア。2012年の世界バレエフェスティバルではオレリー・デュポンとこの作品を踊った。「ジェローム・ロビンズの作品を踊る喜びは、なんといっても音楽ですね。まるで音楽の下に映画のような字幕があって、その上にロビンズはステップを刻んでいるって感じがします。『アザー・ダンス』は踊ることが幸せ!、という作品の1つなんです」

 今年3月のオペラ座での公演では、あいにくと怪我で舞台に立たずに終わっただけに、日本で踊れることになり、彼はとても喜んでいる。オペラ座ではロビンズ・トラストのオフィシャル・リハーサル・コーチのイザベル・ゲランと稽古をしたそうだ。当時を振り返って、彼はこんなエピソードを語ってくれた。

「彼女からは"だめ、やり直し!""だめ、やり直し!"...って、この繰り返しで、もう笑ってしまいましたよ。この作品について最初に説明されるのは、即興で踊っているように見せる必要があるということです。次にすることを感じさせず、二人が音楽を聴きながら、あ、こんな感じ、というようにごく自然に踊っているという作品なんです。 でも、これって振付を知っている僕たちには、なかなか難しいんですよ」

  今回のパートナーはドロテ・ジルベールである。相手から受け取るものに応じて踊る作品でもあるし、5年の間に自分も成長したので、以前とは違ったものを日本の観客みせることになるだろうというから、楽しみにしよう。なおドロテとは、『テーマとヴァリエーション』でも一緒に踊る。

「これは技術的な難易度をチャイコフスキーの音楽が忘れさせてくれる作品ですね。以前、チャイコフスキーの音楽を使ったバレエの主人公たちにインスパイアーされた創作をしたことがあって、それに当たって初めてダンスと関係なしに、音楽だけをじっくりと聞いてみることをしました。あまりの美しさに涙がでたほど。好きな作曲家の一人ですね、チャイコフスキーは」


『ラ・シルフィード』では思いっきり弾けてみせます!

 今回のツアーで彼が初挑戦するのは、『ラ・シルフィード』だ。 好奇心旺盛で、どんな作品でも 初めて取り組むものには、すごく刺激を感じる彼。ましてや、これはロマンティック・バレエの傑作である。

「興奮していますよ。『ラ・シルフィード』といったら、ルーヴル美術館で見る巨匠が描いた古典絵画のようにバレエ界の象徴的な作品ですからね。たとえエトワール同士でも二人ともが初役だと稽古の時間がかかるものだけど、パートナーのリュドミラはすでにシルフィード役を何度か踊っているので、良いスピードで進むと思います。テクニック的に特殊な作品で、とにかく脚を打ち合わせるテクニックが作品を通して、ずっと?続きます。下肢を鍛えられるような、特別な準備をするつもりでいます。公演は1晩だけ。思いっきり舞台で弾けてみせますよ!」

 オペラ座のツアーで来日するのは、2010年以来とのこと。 これほどバラエティに富んだプログラムなので、公演数がもっとあればいいのに! と残念がるジョシュアだ。


インタビュー・文/濱田琴子(ジャーナリスト、在パリ)

Photo:James Bort/OnP





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