2017年9月アーカイブ
繊細にして深い叙情をたたえる雄弁な踊り
今年7月に初演されたノイマイヤーの新作『アンナ・カレーニナ』でタイトル・ロールを踊り、そのドラマティックで雄弁な踊りと、どこまでも繊細でありながら深い叙情性をたたえる表現力が絶賛されたアンナ・ラウデール。恋人のヴロンスキー役で共演したエドウィン・レヴァツォフとは公私ともにパートナーであり、その磐石なパートナーシップによって、今や二人はハンブルク・バレエになくてはならない看板ペアになったと言ってもいいだろう。今回の日本公演で踊るノイマイヤーの代表作『椿姫』も、以前からレヴァツォフと組んで踊っており、儚げな佇まいの中にも女性としての強さを感じさせる現代的なマルグリット像が深い感動を呼びおこしてきた。
入団して16年、2011年からプリンシパルを務めるラウデールの出身はラトビア。ジュエリーデザイナーの父親と画家の母親というクリエイティブな家庭に生まれ、子供の頃から絵を描いたり文章を描いたりといった自己表現が好きだったという感性豊かなラウデールにとって、16歳でハンブルク・バレエ学校にやってきて初めて出会ったノイマイヤー作品は、衝撃的かつインスピレーションに満ち満ちたものだったという。以前のインタビューで、「ジョンのバレエ作品、そして彼が求めるものや彼の目を通して見えるものを通して、ダンサーは自分自身を発見し、人生における真実を見出すのです」と語ってくれたラウデール。ノイマイヤー作品を深く理解する彼女だからこそ踊れる等身大の椿姫と、レヴァツォフとの魂が呼応し合うようなパートナーシップは必見の舞台となることだろう。
魂が震えるような瞬間を生み出す、傑物ダンサー
アレクサンドル・リアブコの踊りは観る者の想像力をかきたてる。たとえ物語のない作品であっても、さまざまな風景や思いが脳裏に浮かび、私たちの世界は広がり、心が豊かに潤う。けれども、ときにそんな稀有な美点をも凌駕してしまうのが、彼の演技力である。いや、演じているのではなく、リアブコはリアブコとして舞台にいるだけなのかもしれない。まさに役を生きているとしか思えないのだから。
とりわけ、2005年のハンブルク・バレエ来日公演「ニジンスキー」は、私にとって衝撃的な舞台だった。
幕開け、サンモリッツのホテルから、時代は一気に遡る。栄光の日々。ディアギレフとの確執。そして戦争が始まる。舞台が進むに連れ、リアブコと作品は一体となっていく。いま私たちの目の前にいるのはニジンスキー本人で、私たちは彼の人生を赤裸々に観ているのだ。それゆえ、ニジンスキーの栄光を、苦悩を、葛藤を、痛いほどに感じる。まるで、私たち自身までもがニジンスキーになったかのように。そして終幕、舞台はサンモリッツのホテルに戻る。私たちはリアブコとともにニジンスキーの人生を駆け抜け、いま、この場にいる意味を知る。そしてリアブコの、魂を投げ出すかのような激しい踊りを前に、もはや涙なくしてはその姿を観ることができない。
今回リアブコは再び、伝説のダンサー、ニジンスキーとして舞台に立つ。あの、魂が震えるような瞬間にまた立ち会えるのかと思うと、いまから興奮せずにはいられない。
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物語の瞬間を、観る者の心に深く刻みつける演技力
2016年のハンブルク・バレエ日本公演で「リリオム−回転木馬」を踊ったアリーナ・コジョカルのことを、私はいまなお鮮明に覚えている。細やかな心理描写を積み重ね、人物の心情を描きだすノイマイヤーの作風に、コジョカルの個性が見事に呼応し、一瞬一瞬が強く心に刻み込まれる舞台だったからだ。
コジョカルの魅力はまず、豊かな音楽性とみずみずしい感性である。作品や共演者、そのときの心模様や観客たちの反応で、音の取り方や表情が絶え間なく変化していく。それが演じる役柄に生命力を与え、舞台に奥行きを生み出す。
しかし、あの日の「リリオム」では、コジョカルの演技はもはや、自然とか、生き生きというレベルを遥かに超えて、観る者の胸に激しく迫った。終幕、コジョカル演じるヒロイン、ジュリーは、一日だけ地上に戻ったリリオムと再会する。彼が戻っていることなど知る由もなく、その姿を見ることもかなわない。だが、ジュリーは彼の存在に気がついている。二人の間にある魂の結びつきが観客たちにも生々しく感じられたのである。
今回コジョカルが演じるのは「椿姫」。世界中の名だたるスターダンサーが踊りたいと望み、幾多の名演を生んだノイマイヤーの代表作である。いまや第二の本拠地ともいえるハンブルク・バレエ団で、円熟期を迎えつつあるコジョカルがどのような舞台を見せてくれるのか。その日が待ち遠しくてたまらないのは、きっと私だけではあるまい。
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魂をゆさぶる傑作を次々生み出す巨匠振付家、ジョン・ノイマイヤー。彼に選ばれ、来年の日本公演で活躍が期待されるソリストたちをご紹介していきます。
円熟期を迎えるノイマイヤーの美しきミューズ
1998年に17歳でハンブルク・バレエに入団して以来、長年ノイマイヤー作品を踊ってきたエレーヌ・ブシェは、南仏カンヌ出身の大変美しいダンサーだ。2005年にプリンシパル昇進後は、最優秀女性ダンサーとしてブノワ賞を受賞した『オルフェウス』のエウリディーチェ役をはじめ、数多くの役が彼女のために振付けられ、文字通りノイマイヤーのミューズとして彼のビジョンを体現し続けてきた。
その長い四肢が描く美しいラインからは常に気品とエレガンスが漂い、同時に母性や慈愛といった繊細かつ人間味あふれる感情表現で観客を舞台に引き込む。前回2015年の来日公演では、『夏の夜の夢』において、ヒッポリータとタイターニアという一人の女性の中の異なる二つの顔を巧みに演じわけ、鮮烈な印象を残したことも記憶に新しい。
前回の来日公演の際のインタビューでは、ノイマイヤーの作品の醍醐味は、どんな役であってもダンサーが自分自身でいることができ、生身の人間の物語を語れることにあると語ってくれたブシェ。「我々はみんな違う人間です。『椿姫』にしても、舞台となった19世紀のマルグリット・ゴーティエ像をステレオタイプ的に演じるのではありません。私たちが生きる今の社会にもたくさんのマルグリットがいるように、一人一人のダンサーが舞台の上でそれぞれのマルグリットを生きるのです」----今回の日本公演で踊る予定の『椿姫』のタイトル・ロールと『ニジンスキー』のロモラ役は既に何度も踊っている役だが、様々な人生経験を経て円熟期を迎えた今のブシェだからこそ表現できる、深みのある踊りを期待できるはずだ。
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東京バレエ団〈20世紀の傑作バレエ〉
プティ/ベジャール/キリアン
◆主な配役◆
-東京バレエ団 初演-
「小さな死」
振付:イリ・キリアン 音楽:ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト
沖香菜子、金子仁美、三雲友里加、川島麻実子、崔 美実、奈良春夏
杉山優一、岡崎隼也、入戸野伊織、柄本 弾、ブラウリオ・アルバレス、秋元康臣
-東京バレエ団 初演-
「アルルの女」
振付:ローラン・プティ 音楽:ジョルジュ・ビゼー
フレデリ:ロベルト・ボッレ
ヴィヴェット:上野水香
女性:波多野渚砂、上田実歩、髙浦由美子、中島理子、
榊優美枝、菊池彩美、柿崎佑奈、酒井伽純
男性:永田雄大、和田康佑、宮崎大樹、竹本悠一郎、
山田眞央、安楽 葵、岡本壮太、岡﨑 司
「春の祭典」
振付:モーリス・ベジャール 音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー
生贄:岸本秀雄
2人のリーダー:ブラウリオ・アルバレス、和田康佑
2人の若い男:岡崎隼也、杉山優一
生贄:渡辺理恵
4人の若い娘:二瓶加奈子、三雲友里加、政本絵美、崔 美実
◆上演時間◆
「小さな死」 14:00~14:20
休憩 20分
「アルルの女」 14:40~15:15
休憩 15分
「春の祭典」 15:30~16:05
東京バレエ団〈20世紀の傑作バレエ〉
プティ/ベジャール/キリアン
◆主な配役◆
-東京バレエ団 初演-
「小さな死」
振付:イリ・キリアン 音楽:ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト
榊優美枝、岸本夏未、二瓶加奈子、吉川留衣、崔 美実、伝田陽美
安楽 葵、海田一成、樋口祐輝、宮川新大、ブラウリオ・アルバレス、岸本秀雄
-東京バレエ団 初演-
「アルルの女」
振付:ローラン・プティ 音楽:ジョルジュ・ビゼー
フレデリ:柄本 弾
ヴィヴェット:川島麻実子
女性:加藤くるみ、秋山 瑛、安西くるみ、最上奈々、
足立真里亜、菊池彩美、柿崎佑奈、瓜生遥花
男性:永田雄大、後藤健太朗、宮崎大樹、竹本悠一郎、
山田眞央、鳥海 創、岡本壮太、岡﨑 司
「春の祭典」
振付:モーリス・ベジャール 音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー
生贄:入戸野伊織
2人のリーダー:ブラウリオ・アルバレス、和田康佑
2人の若い男:高橋慈生、樋口祐輝
生贄:伝田陽美
4人の若い娘:沖香菜子、吉川留衣、岸本夏未、金子仁美
◆上演時間◆
「小さな死」 14:00~14:20
休憩 20分
「アルルの女」 14:40~15:15
休憩 15分
「春の祭典」 15:30~16:05
東京バレエ団〈20世紀の傑作バレエ〉
プティ/ベジャール/キリアン
◆主な配役◆
-東京バレエ団 初演-
「小さな死」
振付:イリ・キリアン 音楽:ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト
沖香菜子、金子仁美、三雲友里加、川島麻実子、崔 美実、奈良春夏
杉山優一、岡崎隼也、入戸野伊織、柄本 弾、ブラウリオ・アルバレス、秋元康臣
-東京バレエ団 初演-
「アルルの女」
振付:ローラン・プティ 音楽:ジョルジュ・ビゼー
フレデリ:ロベルト・ボッレ
ヴィヴェット:上野水香
女性:波多野渚砂、上田実歩、髙浦由美子、中島理子、
榊優美枝、菊池彩美、柿崎佑奈、酒井伽純
男性:永田雄大、和田康佑、宮崎大樹、竹本悠一郎、
山田眞央、安楽 葵、岡本壮太、岡﨑 司
「春の祭典」
振付:モーリス・ベジャール 音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー
生贄:岸本秀雄
2人のリーダー:ブラウリオ・アルバレス、和田康佑
2人の若い男:岡崎隼也、杉山優一
生贄:奈良春夏
4人の若い娘:二瓶加奈子、三雲友里加、政本絵美、崔 美実
◆上演時間◆
「小さな死」 19:00~19:20
休憩 20分
「アルルの女」 19:40~20:15
休憩 15分
「春の祭典」 20:30~21:05