2017年5月アーカイブ

次世代スターを生み出す、世界でも珍しい団内コンクール

 5月25日、今年で8回目となるイングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)の若手コンクール、「イマージング・ダンサー・アワード」がロンドンのダンス専門劇場、サドラーズ・ウェルズ劇場で開催された。バレエ団内でのコンクール、というのは世界でも珍しい試みだが、ENBのミッションのひとつである"若手の育成"に大きく貢献するイベントとして、今やすっかりロンドン・バレエ界初夏の風物詩として定着した感がある。

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「イマージング・ダンサー2017」で優勝した金原里奈とアイトール・アリエッタ
photo: Laurent Liotardo


 ファイナリストとして出場するのは、同僚であるENBの団員たちか らノミネートされた若手ダンサー計6名。男女ペアでクラシック作品のパ・ド・ドゥ、そしてコンテンポラリー作品のソロを踊るが、カンパニーの中で比較的ランクの低い、普段コール・ド・バレエを踊るダンサーでも、この日1日だけプリンシパルの役を踊れるとあって、若手団員にとっては大きなモチベーションとなっている。面白いのは、メンターとしてコーチにあたるのが、団員の先輩ダンサーたちということ。小規模なバレエ団ならではの家族的な雰囲気は ENBの魅力のひとつだが、このメンターシステムもまた、"皆でサポートしあい、バレエ団の中から次世代のスターを育て上げよう"というENBのカンパニー・スピリットを体現する格好の例といえるだろう。実際、2011年、2012年に優勝した加瀬栞とヨナ・アコスタは、ともに受賞の数年後にプリンシパルに昇進しており、 このコンクールで成功することがプリンシパルとしての力量を問う第一の試金石にもなっている。

 今年は、例年になく スコアが同点となり、クラシック部門の『エスメラルダ』のパ・ド・ドゥでパートナーを組んだ金原里奈とアイトール・アリエッタが同時優勝という予想外な結果になった。なかでも日本公演の『海賊』でギュルナーラ役を踊る予定の金原は、昨年『くるみ割り人形』で金平糖の精デビューを果たした注目の新人で、4回転ピルエットを難なくこなす抜群の安定感 、どの瞬間を切り取っても美しいブレのないラインで、6人の中でも群を抜いた完成度の高さだった。『エスメラルダ』では全身から踊る喜びが光のように放たれていたのが印象的だった一方で、コンテンポラリー部門ではレイモンド・レベック振付『ブラインド・ドリームズ』を踊り、 静謐さと激しさが交錯するダイナミックなダンスで移り変わるさまざまな表情を見せ、観客の心を揺さぶった。ちなみに金原の出番は、ギルヘルム・メネゼスが飛行機の機内アナウンスに合わせて踊る『フライト・モード』で会場中を笑いと歓声に包んだ直後だったので、かなりやりにくかったに違いないが、笑いから一転、胸をしめつけるような物語に観客を引き込むことに見事成功していた。

 審査員は、芸術監督タマラ・ロホを始め、元ロイヤル・バレエ、元ENBのプリンシパル・ダンサー、ダンス批評家など6名。技術のみならず、音楽性、芸術性の理解など細かく採点し、受賞者を決定する。その他にも、観客が投票して受賞者を決める"ピープルズ・チョイス・アワード"が同時に発表され、昨年はセザール・コラレスがこれらの賞をダブル受賞して大変話題になった。さらに昨年からは、"コール・ド・バレエあってのバレエ団"と考えるロホが、バレエ団内外の活動で卓越した業績を残したダンサーをコール・ド・バレエから一人選んで表彰する"コール・ド・バレエ・アワード"を設置し、団員たちに刺激を与えている。
 
 ENBのもう一つのミッションは、新しい観客層にバレエを届けること。今年から会場となったサドラーズ・ウェルズ劇場は、バレエのみならず幅広いジャンルのダンスを通年上演しているが、 ロンドンの他の劇場に比べると観客層がずっと若いのが特徴で、従来のバレエ・ファン以外の層にアピールするには最適な劇場だ。ファイナリストのプロモーションビデオやSMSでのキャンペーンにも相当な力を入れており、観客にとっても、このコンクールは 普段あまりスポットライトの当たることのないダンサー一人一人の個性を知る貴重な機会。特にコンテンポラリー部門では、ダンサーの個性に合わせた幅広いスタイルの振付家の作品に触れることができ、バレエを初めて見る観客にも興味深い内容となっている。

(取材・文/實川絢子 ライター)



「イマージング・ダンサー2017」にエントリーしたダンサーたちのプロモーション動画


■ イングリッシュ・ナショナル・バレエのサイトはこちら>>


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「海賊」メドーラを踊るサマースケールズ


10代の頃から"ダーシー・バッセルの再来"と称賛された逸材

 2017年度のローレンス・オリヴィエ賞でダンス部門の業績賞を受賞し、今英国で最も注目を集めているバレエ団、イングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)。その芸術監督タマラ・ロホが「力強い踊りで圧倒的な存在感を放つダンサー」と絶対的な信頼を寄せる若きプリンシパルが、ローレッタ・サマースケールズだ。モデルとして雑誌の表紙を飾るほどの美貌を持ちながら、親しみやすくオープンな性格の26歳は、まさに"イングリッシュ・ローズ"(自然体で知性と気品に溢れる、英国の美しい女性を形容する言葉)という表現がぴったりの、バレエ団唯一の英国人プリンシパル。2歳からダンスを始め、国内のコンクールで活躍後、16歳で奨学生としてイングリッシュ・ナショナル・バレエスクールに入学、わずか2年で卒業を待たずしてENB正団員のオファーを受けたエリート中のエリートは、10代の頃から「ダーシー・バッセルの再来か」と騒がれるほど、英国バレエ界で注目を集める存在だった。

 コール・ド・バレエ時代から、周囲にプリンシパルになる夢をはっきり公言していたというサマースケールズ。2012年にタマラ・ロホが芸術監督に就任した際には、「自分が舞台で踊る姿をもっと見てもらいたくて、タマラに手紙を添えてDVDを渡し、必死にアピールしたこともありました(笑)」という。その翌年2013年の活躍ぶりは誰もが目を見張るほどで、リラの精を皮切りに、イマージング・ダンサー・アワードでの受賞、『白鳥の湖』主演、北京国際バレエコンクール金賞受賞と次々に活躍。ロホもその成果を認め、アーティストからファースト・ソリストへと驚くべき飛び級昇進を果たした。

 昨年1月、自身の誕生日でもあった『海賊』ロンドン公演の最終日には、カーテンコール終了後にロホが舞台上で、サマースケールズのプリンシパルへの昇進を発表。念願のプリンシパルとなって1年、「"プリンシパルにふさわしいダンサーだと証明しなければ"というプレッシャーからようやく解放されて、踊ることの喜びを より感じられるようになりました」と目を輝かせる。

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印象深いパリ・オペラ座ガルニエ宮での『海賊』。
メドーラは茶目っ気ある魅惑的な女性をイメージしています。


 そんなサマースケールズにとって、『海賊』は個人的に強い思い入れのある作品。昨夏のパリ・オペラ座ガルニエ宮での公演で、メドーラ役、ギュルナーラ役、オダリスクを連日踊ったことも、忘れがたい思い出だという。中でもメドーラ役は、スワロフスキーを散りばめたゴージャスな青い衣裳がサマースケールの美しさを一層際立たせ、そのダイナミックな踊りと遊び心あふれる演技がパリの観客を熱狂させた。「この役は、お高くとまった自信たっぷりな女性として演じることもできると思うのですが、個人的に他人を見下している人が苦手なので(笑)、私はむしろ、茶目っ気のある魅惑的な女性をイメージして踊っています」

 今回日本に行くのが初めてということもあり、日本公演が今から待ちきれないというサマースケールズ。「目の肥えたお客様のいる日本で踊るということは、一流のダンサーであることの証、と思ってきましたが、それが実現することになって本当に嬉しいです。皆さんに最高のパフォーマンスをお届けし、楽しんでいただけたらと思っています」


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(取材・文/實川絢子 ライター)


photos:Laurent Liotardo(stages)


 このたびイングリッシュ・ナショナル・バレエ(以下ENB)より、アリーナ・コジョカルが妊娠のため、7月の日本公演に参加できないという連絡が入りました。

 これにともない、ENBより、日本公演の配役を下記のように変更する旨の連絡がありました。
 アリーナ・コジョカルがスワニルダ役を踊る予定だった7月8日(土)昼の「コッペリア」については、代わりましてナショナル・バレエ・オブ・カナダのプリンシパル、ユルギータ・ドロニナが踊ります。同様に7月17日(月・祝)の「海賊」については、代わりましてサンフランシスコ・バレエ団のプリンシパル、マリア・コチェトコワがメドーラ役を踊ります。
 ドロニナ、コチェトコワともに、芸術監督のタマラ・ロホが日本公演で主役を任せられるベストの配役として選びました。アリーナ・コジョカルの出演を楽しみにされていた方には大変申し訳ございませんが、やむを得ない事情としてなにとぞご理解を賜りますようお願い申し上げます。
 なお、ENBからの公式メッセージ、およびドロニナとコチェトコワのバイオグラフィーを次に掲載いたしますので、併せてご一読いただければ幸いです。


公益財団法人日本舞台芸術振興会



【変更後の配役】

■「コッペリア」 
7月8日(土)13:00  
スワニルダ:アリーナ・コジョカル → スワニルダ : ユルギータ・ドロニナ 

■「海賊」
7月17日(月・祝)14:00  
メドーラ:アリーナ・コジョカル → メドーラ: マリア・コチェトコワ 



(2017年5月16日現在)

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~ イングリッシュ・ナショナル・バレエ メッセージ ~


 本日イングリッシュ・ナショナル・バレエより、当初予定されていたアリーナ・コジョカルが妊娠のため、日本でのスワニルダ、メドーラ役を務める事が出来なくなったことを皆さまにお知らせしたいと思います。コジョカルに代わり、ゲスト・アーティストであるユルギータ・ドロニナ、マリア・コチェトコワが日本公演に参加いたします。名古屋でのスワルニダはタマラ・ロホが踊ります。

 アリーナ・コジョカルより、下記のメッセージが届いています。

 「この夏にイングリッシュ・ナショナル・バレエ日本公演に出演することがかなわず、大変残念に思っています。日本の観客の皆さまのために踊ることは常に喜びであり、大切に思っています。私はいま人生における新たな1ページを楽しみにしつつ、日本でまた踊れる機会を心待ちにしています。」

 現在ナショナル・バレエ・オブ・カナダのプリンシパルであるユルギータ・ドロニナは、直近ではロンドン・コロセウム劇場で上演したメアリー・スキーピング振付「ジゼル」でイングリッシュ・ナショナル・バレエと共演しており、7/8昼公演の「コッペリア」でスワニルダ役を務めます。
 マリア・コチェトコワは、サンフランシスコ・バレエ団のプリンシパルであり、日本でも世界バレエフェスティバルやミラノ・スカラ座バレエ団日本公演に出演しています。7/17公演の「海賊」メドーラ役にて再び当団に迎えることとなります。

 また、イングリッシュ・ナショナル・バレエはゲスト・アーティストであるノルウェー国立バレエのオシエル・グネオ、ワシントン・バレエのブルックリン・マックと、昨年のロンドン・コロセウム劇場、パリ・オペラ座ガルニエ宮での公演に引き続き共演いたします。

 タマラ・ロホ(CBE)芸術監督は下記のように述べています。

 「イングリッシュ・ナショナル・バレエは世界の並外れた才能の持ち主が共演したいと望むバレエ団であるということの表れだと感じています。今夏、日本の観客の皆さまが、当団の素晴らしいダンサーと共に、ユルギータ、マリア、オシエル、そしてブルックリンといった非常に優れたアーティストをご覧になられることを大変嬉しく思っております。」


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ユルギータ・ドロニナ Jurgita Dronina
(ナショナル・バレエ・オブ・カナダ プリンシパル)

JY.jpg ロシアのサラトフ生まれ。リトアニアのM. K. チュルリオニス国立芸術学校とドイツのミュンヘン国際バレエ・アカデミーでバレエを学んだ。スウェーデン王立バレエ団とオランダ国立バレエ団でプリンシパルを務めたのち、2015年にナショナル・バレエ・オブ・カナダにプリンシパルとして入団。香港バレエ団の常任プリンシパル・ゲスト・アーティストも務める。
 全幕では「ラ・バヤデール」のニキヤ、「眠れる森の美女」のオーロラ、「ロミオとジュリエット」のジュリエット、「ジゼル」タイトルロール、「白鳥の湖」オデット/オディール、「ドン・キホーテ」キトリ、「海賊」メドーラ、ジョン・ノイマイヤー「シルヴィア」シルヴィア、クリストファー・ウィールドン「シンデレラ」タイトルロールなどを踊る。アレクセイ・ラトマンスキー、ハンス・ファン・マーネン、ジャン=クリストフ・マイヨー、バンジャマン・ミルピエ、ヨルマ・エロ、デヴィッド・ドーソン、シディ=ラルビ・シェルカウイ他多くの振付家のコンテンポラリー作品の初演を飾った。
ナショナル・バレエ・オブ・カナダでは「冬物語」「くるみ割り人形」「ジゼル」「ラ・シルフィード」「星の王子さま」などを踊っている。
 ノルウェー・バレエ団、オランダ国立バレエ団、サン・カルロ・バレエ、ローマ・バレエ、デンマーク王立バレエ団に客演するほか、モスクワ、サンクト・ペテルブルク、東京、北京、上海、ローマなどの都市で多くの公演に出演している。
 国際コンクールでは、2003年グラース(金賞)、2005年ヘルシンキ(銀賞)とモスクワ(銀賞)、2006年ジャクソン(銀賞)でそれぞれ受賞した。



マリア・コチェトコワ Maria Kochetkova
(サンフランシスコ・バレエ団 プリンシパル)

MK.jpg モスクワ生まれ。ボリショイ・バレエ学校で学んだのち、英国ロイヤル・バレエ団、イングリッシュ・ナショナル・バレエで活躍。
  2007 年にサンフランシスコ・バレエ団にプリンシパルとして移籍した。「ジゼル」、「眠れる森の美女」のオーロラ姫、「ドン・キホーテ」のキトリ、「ロミオとジュリエット」のジュリエット、「白鳥の湖」のオデット/ オディール、「くるみ割り人形」のクララ、 金平糖の精、クランコ「オネーギン」のタチヤーナ、バランシン「ジュエルズ」のエメラルド、ルビー、「テーマとヴァリエーション」、「シンフォニー・イン・C」第2 楽章、フォーサイス「イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド」ほか、マクミラン、アシュトン、ディーン、 エロ、モリス、ポソホフ、ラトマンスキー、ロビンズなどの作品を踊っている。
 2013 年にアメリカン・バレエ・シアターにデビュー、2015 年にプリンシパルとなる。ボリショイ劇場、モスクワ音楽劇場、マリインスキー劇場、ミハイロフスキー劇場、ローマ歌劇場、東京バレエ団などに客演。2009 年には世界バレエフェスティバルの全幕特別プロ『ドン・キホーテ』に主演した。
 2002 年にヴァルナ国際バレエコンクール銀賞、2003 年にルクセンブルク国際バレエコンクール金賞を受賞。2013 年にブノワ賞にノミネート、2014 年には英国ナショナル・ダンス・アワードを受賞した。





 NBS(公益財団法人日本舞台芸術振興会)では、去るパリ・オペラ座バレエ団公演の際に東日本大震災の復興支援のための募金活動を行いました。また、オレリー・デュポン氏(パリ・オペラ座バレエ団芸術監督)をはじめ、パリ・オペラ座バレエ団のダンサーたちの協力を得てチャリティ・オークションを実施いたしました。このたびの募金活動、ならびにオークションの主旨にご理解・ご協力くださったすべてのみなさまにスタッフ一同、心より御礼申し上げます。
 大変遅くなりましたが、本日すべての手続きが完了し、会場でお預かりした義捐金、オークションの落札代金をあわせた3,377,520円もの義捐金をあしなが育英会に寄付させていただきました。お預かりした義捐金は、あしなが育英会を通じて被災された子どもたちの支援のために役立てていただきます。みなさまのあたたかいお志に今一度御礼申し上げます。



■送金金額  : 3,377,520円


■送金先   : あしなが育英会


■使用目的    :  東日本大震災・津波遺児への支援活動に対する寄付


■送金日   : 2017年5月9日



公益財団法人 日本舞台芸術振興会

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